未来創造

植物工場が救う(かもしれない)食料・環境・エネルギー問題

落ち葉
Written by すずき大和

植物はどうして緑色なのか知っていますか?

植物は、光の中の赤色と青色の成分と、空気中の二酸化炭素を吸収することで、無機物から有機物を作り出して生きています。

これを「光合成」といいます。

光は赤と青と緑の成分からできています。植物の葉や茎の表面では、吸収されない緑の光だけが反射します。

その光が目に入ってくるため、緑色に見えるのです。

科学の発達は、私たちの身の回りの小さな自然のひとつひとつにも、それぞれ理由や仕組みがあることを教えてくれます。



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安全な食料を安定して供給し続けることを可能にした植物工場

作物を育てる環境を完全コントロール

人類は大昔から、大自然の恵を受けながら、それと共存してきました。

科学の発達により、次々いろいろなことが解明されてくると、それまで当り前だった自然とのつきあい方が、大きく変わることも起こります。

植物が育つ科学の解明は、それまでの農業のあり方も大きく変化させました。

昔から、食料となる植物は「大地の恵」だと世界中でいわれてきました。

水と空気と光の中で、小さな一粒の種から膨大な収穫量の食べ物を生み出す大地は「母なる大地」でした。

農民にとって“土”はアイデンティティの根幹にありました。

科学は土の中の成分と植物の発育のメカニズムを次々明らかにしました。

また、自然界の物質の中から、欲しい成分だけを抽出する術も発見しました。

水と空気と光と必要な養分を、必要なタイミングで必要なだけ与えるコントロールができるようになりました。

そして、植物を育てるのに土が要らなくなりました。

必要な養分を溶かし込んだ溶液に根が浸かるようにすることで、土で育てるのと同じか、それ以上に大きく立派な作物を育てる技術が開発されました。

大地がなくても植物が育てられるようになったことで、農業を行う場所の条件が飛躍的に拡大しました。

都会のビルの中で、室温・湿度・空気・光・養分を完全制御された空間を作り、計画的に農産物を生産していく「植物工場」が生まれました。


植物工場が見せる明るい未来

  • 植物工場では天候によって生産量が左右されません。条件のコントロールにより、欲しい時季にたくさん生産する調節もできるので、需要に対して常に安定した供給量を保つことが可能になりました。

  • 土に植えないので、同じ土地で繰り返し耕作することで土地が痩せたり、塩分や悪い成分が濃縮されたりすることによる害(連作障害といいます)を全く心配せずに、効率的に続けて栽培できます。

  • 病原菌や虫を混入させない徹底した衛生管理が行われているので、農薬が全く要りません。採れた野菜をそのまま食べても安全です。

  • 品種改良もやりやすくなり、美味しくて栄養価も高く、長持ちする野菜づくりの研究がどんどん進んでいます。

  • コンパクトに効率的に整備された工場の作業は、機械化されている部分も多く、大地で行う農業ほど重労働でもありません。カンや経験に頼らずデータを見て誰でも同じように判断できる要素も増えました。高齢者や障害者、他業種からの転職組の人たちなどの雇用を広げることにも貢献できると期待されています。

  • 植物工場先進国のオランダでは、天然ガスの発電所と植物工場がセットで開発されています。天然ガスを燃やす時に生じる二酸化炭素を植物に吸収させて、光合成を促進しています。また、生じた熱も温室の暖房などに利用しています。


人工は増加していくのに、大地の砂漠化が進む地球にとって、食糧問題、二酸化炭素の排出量増加による温暖化の問題が深刻です。

植物工場は、それを解決するプロジェクトとしても注目されています。

農業はどんどん植物工場化していくのか?

植物工場の変遷とデメリット

人類の安定した食料確保に有意義そうな植物工場ですが、デメリットもあります。

初期の設備投資がたくさん必要であることと、稼働し続けるために毎日大量の電気が必要なことです。

日本では、完全に封鎖された空間で人工光を使う環境完全コントロール型の植物工場ができる前に、農業者や研究開発企業が温室等で始めた水耕栽培が成果をあげていました。

これは太陽光を利用した植物工場です。つくば万博の時に話題になった、巨大な水気耕栽培(ハイポニカ農法)のトマトの木を覚えている人もいるでしょう。


温度や湿度や養分をコントロールしながら、光は自然の太陽光をメインに活用し、それに人工の光を補助的に加えて調整する、という形態の工場です。

自然光をあてるために平面的で広いスペースを必要とします。

こちらのほうが人手と土地が余計に必要ですが、地方の農村地ならば地代や人件費は安く、光と暖房費はぐっと低く済みます。

世界的にはこの太陽光利用型工場のほうが主流です。

日本では80年代終頃から農業従事者以外の企業などが次々植物工場に参入していきました。

2000年代に入ると、都市部などのビルの中に作られる人工光型の工場が主流になっていきます。

1000平方メートルもない床面積の所に、立体的に栽培棚が積み重なっている栽培場は、効率よく人手も少なく高い生産性を保てます。

が、都市部の土地代・人件費は高く、光源に使われる電気代は膨大です。

また、広いスペースで作られる太陽光利用型工場では、トマトやイチゴ、メロンなど、多様な品種が作られますが、スペースが限られる立体棚では、葉物野菜中心に偏りがちであることも都市部の人工光型工場のデメリットでしょう。

今後の展望

2008年に地域の活性化策として、農林水産業と中小工業の連携によって新たな産業を生み出すことを後押しする国の法律ができ、補助金もつくことになりました。

これで初期投資の問題は、だいぶ敷居が低くなりました。結果、植物工場に進出する企業がとても増えました。

ブームといってもいいでしょう。補助金が切れた時に、一気にしぼんでしまわないよう、コストダウンの取り組みも熱心に進められています。

  • 作物の発育を大きく促進する赤色LEDが開発され、ますます生産効率が上がりました。

  • 大手のコンビニや外食チェーンと結んで契約栽培を進めることで、個別包装や小売りの手間なく工場から加工場へ直接卸すなどのコストダウン策も図られています。

  • 省エネLEDの開発も日進月歩で進んでいます。


現在、農業と工業の中間のような形態故に、農業補助金と中小企業補助金の両方の制度から漏れてしまう工場も多いです。

その辺の法整備も時代に合わせて改善していく必要があるでしょう。

後継者不足の問題も含め、衰えてきた日本の農業と食料自給率を回復していくためにも、この新しい形の農産物生産には、多方面から期待がかかっています。

それでもひっかかる二つの問題

環境を壊さない電力供給ができることがポイント

しかし、普通に土地を耕作する農業に比べ、桁違いの電力を使うことは否めません。

オランダのように、発電所一体型工場の計画はまだ日本では考えられていません。

いずれ作られるにしても、農作物が吸収する二酸化炭素は、減少が止まらない熱帯雨林の吸収量には全然及びません。

原発やエコ電力を増やすことだけでなく、エコでリサイクルなエネルギーを自ら生み出す工場の形態の研究もされています。

今はまだまったくの理想論ですが、いずれ熱帯雨林に変わる酸素生成プラントとして、大きな樹木の水耕栽培工場のようなものまでできるようになればいいですね。

“土”へのこだわりは無くならない

「母なる大地」と切り離した農業の形は、“機械的で自然の摂理に反する”と考える人は少なくありません。

どんなに科学的に安全性を証明しても、「非自然」を忌み嫌う人たちを説得することは難しい面があります。

過去の事例を見ると、海外で、農薬等の化学薬品漬けの農業を改めるために開発された「遺伝子組み換え」作物では、日本の消費者はその「非自然」な点から、全面的に拒否反応を示しています。

欧米人から見ると、日本は残留農薬や土壌汚染などの規制がとてもユルいのに、遺伝子組み換えで品種改良された「非化学薬品」の作物を恐れる消費者の感覚はとても不思議に感じるようです。

原発事故以降、食品の放射性物質に過敏に反応する人の中には、

「カリウムなど、自然の作物の中に含まれる放射性物質は安全だが、原発由来の物質の内部被ばくでは、人間の遺伝子がズタズタに壊される」


というデマ科学知識を頑なに信じて主張する人も多いです。

日本人の「非自然」なものへの警戒心や嫌悪感は、世界的に見てもとても強いほうです。

新しい技術は、その時は安全で素晴らしいものと評価されても、何十年も後に、悪い影響が発見されることも珍しくありません。

環境ホルモンの問題などもそうでした。警戒することが一概に悪いとはいえないでしょう。

最後に

植物工場に限らず、科学の進歩はいつでも両刃の剣でした。農業の植物工場化はまだ今後も進んでいくでしょう。

リスクと未来への希望をどう判断して、どの技術をどう取り込んでいくか、政府や企業のせいだけにせず、私たちも一人ひとり考えて選択していかないといけないかもしれません。

まさケロンのひとこと

電力供給の問題が解決されたとして、農業はどこまで植物工場化するんだろう。
いつか“土”へのこだわりも捨てられちゃう?!

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。