政治・経済

じくじたる思いってどんな意味?勘違いで誤用されやすい言葉

Written by すずき大和

一般人が日常生活の中で使うことは滅多にないけれど、政治家や企業の偉い人などが、公的な発言を発表する時などによく使う言い回しというものがあります。

  • やぶさかではない
  • まことに遺憾
  • いかがなものか
  • 前向きに検討

どうも、はっきり断言することを避けて、あいまいな意味にぼやかす言葉が多いようです。

この文章を書いている時、丁度、甘利経済再生大臣の汚職疑惑の最中で、

「安倍総理にご迷惑をお掛けしているというのは、じくじたる思いがある」

と、国際会議の席で大臣自ら発言したことが報道されていました。

  • じくじ(忸怩)たる思い

も、政治家が(特に何かを弁明する時に)好んで使う表現ですね。



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「じくじたる思い」って何?

「穴があったら入りたい」

ほぼすべての辞書で、「恥ずかしい」という意味であると書かれています。「深く反省して」という前置きをつけている辞書も多いです。

この場合の“恥”は、「照れて恥ずかしい」なんて可愛らしい類のものではなく、人の生き方として、とても恥ずべきことをしてしまった時に使う言葉です。

「みっともない」

「情けない」

「穴があったら入りたい」

そんなニュアンスの猛反省の言葉です。

誤用されることが多い表現

ところが、自分自身を戒めるニュアンスではなく、外へ向けての“いまいましさ”を表わす言葉として、

「悔しい」

「腹立たしい」

「悩ましい」

という意味で捉えている人が、実は思いの外たくさんいるようです。

  • 汚職事件報道を見て、じくじたる思いがしてくる
  • 信頼していた人に裏切られて、じくじたる思いだ

こんな使い方をしている例をいくつも見つけます。が、これらは誤用です。本来自責の念にかられる心情を表わすもので、他者の行為に対して感じる思いではありません。

誤用が広まってしまうのはなぜなのか

なんとなく推測した結果、勘違いの方向に

日常生活では出てこない言葉を始めて聞いた時、人はどうやってその意味を理解するのでしょう。

  • 前後の話の様子から、意味を想像する
  • 語感や漢字の意味などから想像する

その場で辞書を引く習慣のない人は、こんな感じで解釈しようとします。

政治家の言葉の場合、政治に興味がない人は、その前後の話の意味や、その話が出て来る背景についてもよくわからないまま、ニュースなどで特定の言い回しの部分の報道だけを繰り返し見ているのかもしれません。

そんな時は、話し手の態度や表情と、語感から、なんとなく意味を推測していくと思われます。

「じくじたる思い」は、語感から「グジクジ悩む」というニュアンスを想像するのではないか、という分析をしている例も見ますが、もしかしたら、政治家の態度が、

“本当に反省しているように感じられない”

“真相が表ざたになったことを「失敗した」と思っているように見える”

ために、「悔しい」「腹立たしい」と誤解して思い込む人がいるのかもしれません。

なんていうのは、うがった見方でしょうか。

ちなみに、「うがった見方」とは、「悪い方に連想した見方」「ひねくれた見方」だと思っている人が多いようですが、それも誤りです。「事の本質を突いた見方」が正解です。

誤用を見て学んだ人が、さらに誤用を拡散していく

言葉の間違いというものは、周りの人は気付いても教えてくれません。

ので、もともと意味をよく知らなかった人が、たまたま誰かが間違った使い方をしているのを見聞きして、そのまま間違った使い方や意味をインプットしてしまい、自分でも誤用するようになる場合も少なくないと思われます。

その誤用も誰も指摘してくれず、また別の誰かに間違ったインプットをしてしまう・・・ということがくり返され、拡散されていく、というケースは多々あります。「じくじたる思い」の誤用も、多少なりともそんな感じで広まった部分は否めません。

誤用も広まりすぎると正しくなる

誤用が広まりすぎて、それが「新たな解釈と使い方」として正式に認知されるようになってしまうこともあります。そうやって、言葉は時代と共に変化してきたのは事実です。

ただ、その過渡期の間、従来の「正しい意味・用法」でインプットされた人たちが、気づくと「時代遅れ」になってしまうのは、ちょっとやるせないものを感じる時もあります。

例えば

  • 「視線と目線の使い分け」
  • 「らぬき言葉」

これらは、40年程前は話し言葉の中の俗語としてはあっても、正式な文章で使うことは「間違い」とされていました。

今では放送局のアナウンサーも使うほど、社会に認知されています。イマドキ、

「目線じゃなくて視線が正しいんですよ」

なんて指摘すると、

「何いってるの、この人」

みたいに煙たがられてしまうかもしれません。

甘利さんの「じくじたる思い」が旧来の正しい意味ならば、

「人として恥ずべきことをしました」

と認めたってことでしょ、とも思うのですが、マスコミも野党も誰もそこに突っ込みませんでした。

もしかして、これもただ状況を「腹立たしく思っている」だけで、「恥じ入る」というニュアンスに受け取られていない、ということなのでしょうか。

何にしろ、この「非を認めているのかいないのかよくわからない」ところ、やっぱり政治家言葉はあいまいさがポイントなんだ!?ということはよくわかります・・・。

まさケロンのひとこと

わかりづらいあいまい言葉はやめてほしい!

masakeron-oko


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。