芸術・アート

海中美術館/自然の生態系を守り変貌し続ける海底のアート

海中美術館
Written by すずき大和

薄く光の差し込む浅瀬の海底、

どこまでも紺碧の空間が続く風景の中、

同じ方向に向かって歩いていく紺碧の肌の人々

黄泉の国をさまよう亡霊たちのような光景にドキっとしてしまいますが、この海底を歩くリアルな人間の彫刻群は、2017年に一般公開予定のスペインの海中ミュージアム

『アトランティック美術館(Atlantic Museum)』

の芸術作品の始まりの姿です。

なぜ“始まり”なのかというと、これらの作品は、彫刻を設置しただけでは完成せず、これから長き年月をかけて、海の自然と共存しながら、常しえに成長・変貌し続ける壮大なアート・プロジェクトだからです。



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海に潜らないと見られない美術館

海中美術館プロジェクト


海中美術館とは、字の通り、海の中にアート作品が設置された美術館です。「館」といっても、透明なガラス張りの遊歩道を歩きながら作品鑑賞するような海中の建築物があるわけではありません。そこは、スノーケリングやスキューバーダイビングなどの手段で、自ら水中に赴かないと見ることができない空間なのです。

美術館があるのは、スペインのランサローテ島の沿岸、ラスコロラダス湾の海底です。深さ12~15メートルほどの海の底に、約300体の彫刻を沈める作業が、2016年の2月に始まりました。

海中彫刻アーティスト ジェイソン・D・テイラー

彫像を制作したのは、イギリス人の現代彫刻家

『ジェイソン・デカイレス・テイラー(Jason deCaires Taylor)』さん。

彼は、これまでにも多くの作品を世界中の様々な海底に沈めてきました。

中でも有名なのは、2010年に公開された、メキシコのカンクン国立海洋公園の海底にある

『MUSA美術館(Museo Subacuático de Arte)』

です。450体を超える彫刻が、波間から差し込む光に揺らめきながら、怪しげに、静かに訪れる人を迎えています。

等身大のリアルな人間像の多くは、本当の人間から型を取って作られました。普通の人のリアルなしぐさや表情そのままに、生活シーンを表現した作品もあれば、中には、顔だけ、上半身だけなどが並んでいたり、裸で横たわる人が点在していたり、四つん這いになって頭を地面に埋めていたり・・・シュールで神秘的な作品もあります。

バハマの海底には、少女がかがんで海を下から支えている姿の巨大サイズの彫像を沈めました。テイラーさんが自身のアートに込める思いのインタビューと共に、設置作業のメイキングビデオ(日本語字幕付き)がYou Tube で配信されています。

アートを超えたアート ジェイソン・デカイレス・テイラーの海中彫刻


シュールな現代彫刻と海の命が生み出すメッセージ

サンゴ礁を守る人工漁礁をアートにする

浅瀬に広がるサンゴ礁は、船の碇や自然災害、観光客の干渉などで毎年少なからず損傷しています。サンゴ礁の減少は、そこで生きる様々な海洋生物の住み家を奪い、生態系の崩壊に繋がっていきます。

残念ながら、地球温暖化の影響などもあり、サンゴ礁の減少傾向は世界規模で進行中です。が、生態系を壊滅させないために、生物が繁殖可能な特殊素材で人工的に作る魚の住み家=人工漁礁を設置する取り組みが、各地で進められています。

テイラーさんは、趣味のダイビングをやりながらそのことを学び、

「作品が、海の生態系を守ることの助けにはならないか」

と考えるようになりました。そして、海洋保護を願う多方面の人たちの思いとも結びつき、人工漁礁となる素材で作る彫刻を海底に設置していくアート活動が始まったのです。

時をかけて作品を仕上げていくのは海

彼の海中彫刻作品は、地上の美術館作品と違い、展示後、その状態を保つためのメンテナンスに手間暇をかけたりはしません。自然のままに放置され、時と共に表面には藻や海面やフジツボやサンゴなどが繁殖し、作品の凸凹した表面に生じる隙間は、魚やプランクトンの住み家となっていきます。

「作品を仕上げるのは海だ」と、テイラーさんはいいます。

海洋公園や環境保護活動団体の人たちは、

「天然のサンゴ礁を保護する手段として、単なる人工漁礁を設置するより、海中美術館を作るアイデアのほうが、ずっと魅力的だ」

と考えています。

年間数十万人もの人が訪れるようなサンゴ礁では、広域にアート作品が展示されていることで、ダイバーさんの動きも特定コースに集中せずに適度に拡散されるようになり、サンゴ礁の痛みを減らすことにも役立っているそうです。

自然と一体化していく文明

海の命との相互作用で変貌していく自然のアート作品は、5年、10年と時を経るごとに、最初の現代アートのインパクトは失われます。元が彫刻作品だったこともわからなくなるほどサンゴに覆われるようになれば、「ただのサンゴ礁」になってしまうでしょう。

既に、5年以上の月日を経た作品を見に行ったダイバーさんたちの感想として

「作品の原型がわからない」

「写真負けしている」

など「つまらなかった」と言わんばかりのコメントも見られます。

しかし、そうやって自然と一体化するまでに変容した事実を

「海が作品を仕上げてくれた」

と感じる人には、それはある種の達成感や、自然に対する畏敬の念を彷彿とさせる、感動的なアート体験となるかもしれません。

スペインの海に生まれた新たなアート空間が未来に見せてくれるものは、どんな光景なのでしょうか・・・・

まさケロンのひとこと

「水中作品に完成形はない、常に変化し、進化し続けるからね」って言ってたけど、果たしてそれは進化なのか。でも見てみたい!

masakeron-happy


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。