芸術・アート

海辺の不思議な生物Strandbeest/物理学とアートと自然の融合

ダードル・ドアの天然橋
Written by すずき大和

オランダ人のテオ・ヤンセンさんは、物理学者から彫刻家に転身した芸術家です。

彼の作る作品は、「キネティック・アート」と呼ばれる“動く美術作品”です。

彼の名を世界に知らしめた代表作は、1990年から制作を続けている、砂浜を自律して歩く不思議な形態のロボットです。

  • まるで生き物のような独特の動きの特徴
  • 自力で動力を取り入れ、障害物を避けながら砂浜の中を徘徊し続ける機能


を持っていることから、ヤンセンさんはこの作品をオランダ語で

「ストランド(砂浜の)ビースト(動物):Strandbeest」

と呼びました。英語では

「ビーチアニマル(Beach Animal)」

といいます。



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風を食べて生きる新種の生物

動力は風だけ

ストランドビーストのからだは、DIYセンターなどで売っている安価なプラスチック製のパイプを組み合わせて作られています。エンジンも人工知能も搭載されていませんが、物理学を応用した様々な仕掛けが施されており、乾いた砂浜の上を優雅な動きで自律して歩き回ることができます。

動力はオランダの海辺に吹いている強い偏西風です。広げたウイングが風を受けて動くことで、からだに取り付けられたペットボトルに空気を圧縮していきます。そして、その空気の力で無数の足を起用に動かし、砂の上でも、何百kgもある大きなからだでも、バランスよく歩いていくことができます。

空気を取り込んでいく様子を、ヤンセンさんは「風を食べる」と表現します。お腹が空いてくる(ペットボトルの空気が減る)と、だんだん動きが鈍くなり、やがて止まってしまいます。

生きているかのように動くビーストたち

ストランドビーストの公式サイトで、砂浜で稼働しているビーストたちの動画が見られます。

  • 流れるような足並みも、
  • 風にたなびくウイングも、
  • センサーが取り付けられた尾の動きも、

その繊細で気まぐれな様子は本当に命があるもののように見えてきます。


自律して砂浜エリアを永遠に歩き回る

最初のビーストは、風を受けてただ歩くだけでした。

その後、シンプルなセンサーによって、障害物を回避して方向転換できるようになりました。頭から尾まで長細いからだのストランドビーストは、横歩きしかできないのですが、行く手が阻まれると反対側に進むようにできています。

また、彼らは泳げないので、水に反応するセンサーを付けて、海に近づくとやはり方向転換するようにしてあります。

ビーストたちは、風さえ吹いていれば、砂浜から出ることなくずっと歩きまわり続けます。

ただ、一度転んでしまうと、自力で起き上がれないので、強すぎる風(嵐)の時は、頭の先端にある杭を砂に打ち付けて、自分のからだを固定できる仕掛けを取り付けたビーストも生まれました。上記の動画にも映っていましたね。

自立してビーチで暮らしていける生物を目指して


自律から自立へ

ヤンセンさんの夢は、

“ストランドビーストの群れが、砂浜で自立して生きていくこと”

です。

風さえ吹けばずっと自律して動いていくことが可能なビーストたちですが、お腹が空っぽの時に風が止んでいる場合は動けません。そんな状態の時に嵐が来たり、満ち潮になったりすると、激しく飛ばされ、流され、“死んで”しまいます。

また、横歩きしかできないため、移動には限界があり、好きな所へ自由にはいけません。スムーズに動き出させるため、調度いい場所にいかせるためには、まだまだ人間のフォローが必要です。

  • 人が介入しなくても、永遠に砂浜を歩き回り続けることができる、
  • しかも多種類が群れて共存していける、

そうなるまで、ヤンセンさんの改良(進化の探求)は続いていくことでしょう。

現代のレオナルド・ダヴィンチ

“進化し続ける「人工生命体」”

と聞くと、多くの人が高度な人工知能(AI)を搭載した、人間を超える超知的生命体のようなものを連想するかもしれません。

しかし、ストランドビーストたちは、高度な知能も特殊な能力もなく、ただただ砂浜を歩き続けるだけです。しかも、いつ動くか、どっちへどう動くかは、行き当たりばったりの自然の環境に完全にお任せ状態です。

それじゃ生命らしくないか、というと決してそんなことはありません。

自然界の生物は、みな知的生命体なわけではなく、自然の環境に完全に依存して、成長や進化の方向を柔軟に変えながら、ただ生存し続けるために日々一生懸命生きている生命のほうが、ずっとたくさんいます。

そういう意味では、

“よりシンプルで基本的な生態を目指す人工生命”

という方向は、ある意味、継続可能な開発が早急の課題となっている人類の進むべき開発としては、間違っていないような気もしてきます。

科学と芸術の融合を図るヤンセンさんのことを

「現代のレオナルド・ダヴィンチ」

と称する人もいます。

進化論に興味を抱き、あるがままの命について知ろうとした科学者ダヴィンチの、自然に対する畏敬の念は、環境に逆らわず、自然の恩恵を受けて自立するビーストを目指すヤンセンさんの心と、確かに通じるものがあるように感じます。

ビーストの生きる場所に、命の源である海に面した海辺を選んだことも、ヤンセンさんの地球愛を感じます。ストランドビーストと共に、母なる海への敬意を抱いて共存していく社会が、今人類が目指すべき開発の方向なのかもしれません。

まさケロンのひとこと

そのうちストランドビーストに住んじゃう生き物がでてきてもおかしくないよね。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。