海外のこと

なぜ欧米ではベジタリアンが多いのか?

Written by るーてるぼ

日本を出たことがなく外国人ともあんまり面識のない方。あなたの周りにはいませんか?帰国子女やハーフで、何故か

「野菜しか食べない」

と宣言している人。

海外へ長期滞在したことがあるか、外国人と良く関わる方。あなたの周りの外国人は肉を食べていますか?日本で一緒にレストランに行った時なんかに

『野菜オンリーのメニュー』

が無くて困っている外国人を見かけたことがありませんか?

片方でも「Yes」のあなた。おそらくあなたは彼らを見て、何で?と思いましたよね。ええ。だって私は思いましたから。でもご安心ください。これから私がその理由を説明します。

どっちも「No」のあなた。多分あなたにとってこの記事の内容はすごく「どうでもいい」と思います。ただ今後もし海外へ行く可能性が少しでもあるなら、私の記事の内容が心の準備になるかもしれません。



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ヨーロッパではどうなっている?

まず、ヨーロッパの最近の食文化事情を見ていきたいと思います。
(今回は主にドイツより西の国に焦点を当てます。)

日本とは違う意味でのイギリス人の「草食化」

恐らくご存知の方も多いとは思いますが、最近欧米では

「菜食主義者」

が増えています。いや、本当に増えています。嘘じゃないです。冗談でもありません。誇張でもありません。なんたって、少なくとも私の経験上はそうなのです。

もちろんそれは私が大学生で、それもイギリスの中でも比較的にposhな人が多いと言われる大学にいて、講義に出ている学生の四分の三くらいは紛い無き金髪碧眼でむしろそうじゃない人の方が浮いちゃう浮世離れした環境にいるせいもあるかもしれません。

尤も私のようなごく普通の、ミリオネアでもなければ江戸時代以前まで家系図を辿っても「平民」しか出てこず邪気眼でも無ければ一向に皇族とつながりそうもない単なるアジア人の私ではそうそう彼らのposhなコミュニティーに入れるわけではありません。もしかしたら私が単にヘタレなだけかもしれませんが、とにかくそんな中には正直入りたくもありません。

だって私は日本食が食べたいのです。

普通にラーメンとか牛丼とか食べたいのです。でもイギリスでposhになりたければそういう欲望は一切絶たねばなりません。動物の肉を食べるなんてなんて惨いのかしら、そんなことをする人とは一緒に食事をしたくないわと、まるで中世のインドのバラモンみたいなことを本気で考えていらっしゃるLadies & Gentlemenの多いこと多いこと。

しかもこれ、別にイギリス人だけじゃありません。スウェーデン人とかもそうです。ちょっと偏見交じりですが、北欧の人は大体そうなんじゃないでしょうか。あとロシアやバルト系の人なんかも結構菜食主義教に洗礼されちゃってる人がいます。

要するに金髪碧眼の中流以上の人の二人に一人は菜食主義者だと言っても過言ではございません。一応念を押しておきますが、これ別に女性に限ったことではないですよ。もちろん女性の方がより多い感じはしますが、イギリス人や北欧人、ロシア人に限っては男でも結構いるんです、菜食主義の人。

とは言っても伝統料理が世界的に有名な地域では・・

でも、ヨーロッパ人や金髪碧眼の人皆がそうなわけじゃ勿論ありません。

フランス人の例

まず、およそフランス人に生まれた人はフランス料理無しに、というかチーズ無しに生きていけません。ってかフランス人はフォアグラを喜んで食べる人がほとんどですから、

「動物がかわいそう」

なんていう理由で

「フォアグラを食べるな」

なんてことを、こともあろうか宿敵イギリス人に言われようものなら即座に“Non”を突き付けると思います。

イタリア人の例

イタリア人も似たようなものですね。

「ああ、イギリス人はおいしいイタリア料理も食べられず毎日fish and chipsや他のろくでもないものばかり食べているせいでついに食べる楽しみを失ってしまったのね。実にかわいそうね。」

って感じです。

イギリス人の「おいしい」は参考にならない

世界に誇る日本料理に親しむ私といたしましてもやはりイタリア人やフランス人に同意です。これは余談ですが、何といいますか、イタリア人やフランス人なら、大体味の好みがある程度理解できるんですよね。

私が「おいしい」って思うもの全部をイタリア人やフランス人がおいしいって思うわけじゃないんですけれども、私が「これはまずいな」と思うものをイタリア人やフランス人が「おいしい」っていうことはまずありえないです。要するにもっと舌がこえていらっしゃる。

でもイギリス人ってそうじゃないんです。というか、明らかにまずいものでも「うん悪くない」とか「結構おいしい」とかいうし、ちょっと強がってるのかなって思っちゃうようなことを言うんですよ。まあ強がってるならまだしも本人は本当においしいって思ってるみたいだから余計びっくりするんですけどね。

だから彼ら(イギリス人)の「おいしい」って全然参考にならない。

最初はイギリスのことはイギリス人に聞くべきだと思って色々と騙されてみましたが、今ではイタリア人かフランス人の友達が「おいしい」っていったものしか口にしないようにしています。特にフランス人はこういうことに関しては嘘をつかないので非常に参考になります。

皆さんももし外国で料理を食べる際には、もし日本人が周りに見当たらなければ現地の「フランス人」の評判を参考にすると失敗が少なくていいと思いますよ。

で、何故菜食主義?ってか菜食主義って何?

さて本題に戻りますが、何故イギリス人をはじめとするゲルマン語圏の人たちは急に菜食化したのでしょうか。というかそもそも菜食主義って具体的に何でしょうか。ここではちょっとそのあたりの説明を加えたいと思います。

菜食主義・vegetarianismとは?

まず、日本語の「菜食主義」は一応英語の

vegetarianism

の訳語ということになっています。

ところが、実際にはvegetarianismの中でもさらに細かい区別がございまして、とりあえずよく知られているのだけでも

  • Vegan
  • Lacto Vegetarian
  • Ovo Vegetarian
  • Lacto-ovo vegetarian
  • Pollotarian
  • Pescatarian (Pescetarian)
  • Flexitarian

「七段階」の区別があるようです。

Vegan

まず、最も過激なのはVeganですね。Veganの人は、本当に野菜しか食べません。肉に限らず卵も牛乳も魚もバターもチーズもすべてダメ。要するにクッキーもダメです。フランス料理もイタリア料理も主なものは全部ダメ。

日本料理も中華料理もそもそも醤油やダシに魚紛が入ってるならダメ。何にも具の入っていない「うどん」を食べることですらVeganにとっては禁忌ということになります。まあここまで徹底している人はあんまり多くないでしょうが、Veganを自称する人は意外といますね。

Lacto Vegetarian

次に段階がLacto Vegetarianです。この人達はチーズやヨーグルト、牛乳くらいまでなら食べる人達。ただ卵を含む加工以前の状態の動物食品は食べないとのことです。

Ovo Vegetarian

この次がOvo Vegetarianで、これは動物食品は卵を除いて食べないけど、牛乳などの加工食品は食べない人達。

Lacto Ovo Vegetarian

で、次のLacto Ovo Vegetarianというのが加工食品および卵のみを食べる人達で、これが

最も一般的な「ベジタリアン」

なんだそうです。

他にも魚だけを食べる「Pescatarian」などもう嫌になるほど細かい区別がありますが、ともかく色々ある動物由来の食べ物の中で何を食べるかで一々名前があるということです。

さしずめ伝統的な日本食には魚以外の動物はほとんど使われないので、伝統的な和食しか食べない生粋の日本人はヨーロッパではPescatarianだと言っておけば一端の(?)ベジタリアンと認定されるかもということだけ知っておけば十分だと思います。

何故ゲルマン語圏は菜食化したのか?

では、いよいよ本題ですが何故ヨーロッパ人、というかゲルマン語圏の人々は菜食化しているのでしょうか?

これには

「健康志向説」「イデオロギー説」

の二つがあります。

健康説

まず、健康説から行きましょう。健康説によれば、菜食主義流行の原因は社会の富裕化によって食べ物の選択肢が増え、また栄養学者などにより科学的に「健康な食事」が提示されるようになった結果、政府による減塩政策などもあり国民がより健康的な生活を志向するようになったことなんだそうです。

日本でもテレビ番組などで

「今欧米のセレブ達が日本食に注目している!」

みたいな感じのフレーズ結構聞きますよね。これなんかはもし本当なら健康説を裏付けるひとつの証拠になります。

イデオロギー説

では、次のイデオロギー説ですが、イデオロギーなんていうとちょっと仰々しいというか厳つい感じがするかもしれません。しかしイデオロギーに基づく菜食主義者の思想というのは実際かなり厳ついです。

イデオロギー的菜食主義者によれば、そもそも動物は(なぜかヴィーガンには野菜は動物扱いされませんが)微生物レベルのものや昆虫も含めて人間と同等の権利を本来持っているのだそうです。

つまり

およそ植物以外の生物という生物には「人権」がある。

人であろうとなかろうと、とにかく動くものすべてに人権がある。

中には人工知能やロボットにも権利があるなんて言う人もいますから心底驚いてしまいます。

にも拘わらず人間という動物が他の動物を自己の貪欲に基づいて食用として狩り、食べることはそれ自体が許されるべからざる大罪であり、人権の蹂躙であり、不当な搾取なんだそうです。

搾取なんていうとマルクス主義みたいですが実際この思想はマルクス主義からフェミニズム、フェミニズムから菜食主義という形で発展してきたという見方もあるほどで、右左で言えば左派の思想に分類されます。

と言っても、同じ菜食主義でも例えばこれがインドならむしろ菜食主義それ自体は右派思想にも分類され得る可能性があります。バラモンの文化を守ることがすなわち菜食主義になるわけですからね。

ですが欧州のイデオロギー的菜食主義はベースが

「人権思想」

にあるところがポイントですね。こればっかりはやはりインド人にとってもアラブ人にとっても我々日本人にとっても伝統的というよりは革新的・近代的なものですし、無論西洋でも右か左かと言えばこれは左派思想に分類されます。

いずれにせよ、近代の人権の概念を動物にまで急進的に拡大してしまうところにveganismの思想的特徴があると言えるでしょう。ちなみにveganは動物を食べられる種族、人間を食べる種族と二分して考えることをspeciesism(種差別主義)などと呼んで批判します。

彼らにとってはspeciesismもracism(人種差別)同様に道徳的に悪いことなわけです。従ってガチガチのveganは他人の肉食もracism同様に辞めさせるべきだと考える人も中にはいます。正直ここまで来るとちょっと怖いですね。

まとめに代えて

でも、なんで英語圏・ゲルマン語圏が中心?

ですが、ここでひとつ疑問が出てきます。人権といえばその起源はフランス人権宣言。だとすれば、何故この新しい「動物の権利」イデオロギーはイギリスやアメリカなどの英語圏を中心に広まり、フランスやイタリアなどのラテン語圏ではそれほど広がっていないのか。

私の仮説はこうです。まず、「動物の権利」が流行している地域ではそもそも(少なくとも私の主観では)食べ物がおいしくないし、最近まで(いや、今でもか)肥満大国として知られていたところが多い。特にアメリカやイギリスはそうですね。

  1. 食文化が他と比べて非常に貧しく不健康でかつ実際にその影響が社会問題として表面化していたから、これを是正しようと意気込むあまり菜食主義を強く提唱する必要があった、という点。
  2. フランスやイタリアなど、食文化が豊かな地域では日本同様そもそも伝統的な料理の中に相当野菜が含まれていて、肉や魚などは少量含むだけであり、やたらに肉だけを暴食したりする人は少ないため、肉そのものが健康リスクだと思われたりすることがあまりない点。
  3. 英語圏は西欧の中でも突出して「進歩」に対するモチベーションが高い点。

実際ヨーロッパにいると進歩主義というのは実に英語圏的・イギリス的イデオロギーで、ヨーロッパにおいてさえ英語圏以外の国では事実上「進歩主義」= anglicanisation (英国化) なんだなとしみじみ感じます。

そうは言っても、やっぱり日本食でしょ

とは言え、少なくとも食文化に関しては、英国や米国にとって「進歩」だとしても他の地域にも押し広げられるべきようなものではないような気がします。

日本人が魚を食べて何が悪いのでしょうか。イタリア人はいざ知らず、フランス人からチーズを食べる権利を奪ってしまったらまた革命を起こしかねませんよ。ということで、

あんまり行き過ぎた菜食主義はどうなのかな

と私は考えています。

ただ倫理思想的に菜食主義に反対し肉食を擁護するのって意外と簡単じゃないんですよね。地域固有の伝統の価値を度外視した上で議論すると、一般的にはどうしても肉を食べない方が食べることよりも少しだけ道徳的だという結論の方が論理的には簡単に導かれてしまう。

ということはやっぱり地域特有の伝統の価値を強調する方向でしか正当化できないので、思ったよりややこしい話になってしまってうんざりしてきます。

まあ、私は別に不道徳だと言われても魚は食べますし、肉も卵も食べます。ただ、

一応英語圏はそんな感じなんだ

ということだけご承知頂ければと思います。

まさケロンのひとこと

価値観ってのは人それぞれで、押し付けるものでもないとは思うけど、みんなが相手のソレを理解できるかってなると、けっこう大変なことなのかもしれないね。

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筆者情報

るーてるぼ

イギリス在住。田舎の風景が好きです。趣味は読書だなんてつまらないことを承知で趣味は読書ですと言ってみます。好きな本は、日本語なら徒然草と方丈記、中国語(漢文)なら荘子と肇論、英語ならMichael OakeshottとRobin Collingwood, フランス語ならAlexis de TocquevilleとMichel de Montaigne, ドイツ語ならCarl SchmittとEduard Moerikeあたりがストライクゾーンだと思っています。