花の豆知識

いちじくは無花果じゃない!?見えない花が実になる不思議な樹

Written by すずき大和

食欲の秋、様々な旬の美味しいものが店先に溢れる季節となりました。

7月頃から出回るいちじくは、11月くらいまで出荷が続きますが、もっとも美味しい時期は9~10月といわれています。

いちじくは漢字で書くと「無花果」です。

これは伝来元の中国での表記です。(現在の中国語では同じ意味の漢字で「无花果」)

“花が咲かないのに、いきなり実がなる”ところから、この名が付きました。

が、実際は、いちじくにもちゃんと花が咲いています。私たちが“実”だと思って食べていたアレが、実は“花”です。いちじくは、実を包む固い外皮の中に花が咲き、実になる、という極めて珍しい生体を持つ、不思議な果樹なのです。



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いちじくはどうやって増える?

人類発祥の時からの長い付き合い

「いちじくの葉」といえば、聖書の中で、禁断の果実を食べて恥じらいを知ってしまったアダムとイヴが、全裸の身に初めて着けた衣服です。

禁断の果実についても、“りんご”説が多いようですが、“いちじく”の実だったという説もあります。聖書の中には、他にも様々なエピソードに「いちじく」が出てきます。

いちじくの原産地は亜熱帯気候のアラブ地方です。狩猟と採取にあけくれる生活をしていた祖先は、すでに野生のいちじくの実を食料としていたと思われます。6千年前のメソポタミア文明では、すでに人類最古の栽培種のひとつとなっていたと記録されています。

そんなに長い間、雨量も少ない亜熱帯で生き残り、世界に広まったのは、確実に子孫を残せるようにうまくできた生体メカニズムがあったせいです。

雌の木だけで増えていくいちじく

いちじくの実は正式には「花のう」といいます。

花のうには、「雄花」「雌花」があって、どちらも花のうの内側には、「小果」と呼ばれる無数の花が咲きます。雌花の小果は、やがて膨らんで熟します。これが、私たちの食べるいちじくの実です。

小果は、いわゆる「おしべ」「めしべ」に分かれ、膨らんで熟すのは雌花のめしべの根元です。雌花にはめしべしかなく、亜熱帯地方などで栽培されるのは、雄花のおしべの花粉を受粉することで熟す種類のものが主流です。

一方、日本で栽培されているいちじくは、雌花しかつかない雌の木のみの種類のもので、受粉しなくても熟すタイプです。

受粉しないので、実か熟れても種はできません。増やす場合は挿し木にして苗木を育て、増やします。日本のいちじくの多くはクローンということです。だから、品質のよい種を安定的に栽培していきやすい、という面があります。

イチジクコバチと共存・共進化しているいちじく

ところで、受粉が必要な外国のいちじくですが、花が花のうの中に咲くなら、花粉が風や虫に運ばれることもないのに、どうやって受粉するのでしょうか?

受粉は

「イチジクコバチ」(以下「コバチ」と称します)

と呼ばれるいちじくの花だけに住む特殊な蜂が行っています。受粉の季節になると、新たにできた花のうの先がほんの少しだけ開き、雄花の中で育っておしべの花粉をたくさんつけた雌のコバチが中に入り込みます。

雌花に入り込んだ雌コバチは、めしべに受粉すると産卵できずに死んでしまいます。受粉した花のうは、やがて熟して実になります。

雄花の小果にはおしべとめしべの両方あり、雄花に入り込んだ雌コバチは、めしべに受粉したあと産卵してから死にます。やがて幼虫が卵からかえる頃、めしべの下には種子ができていて、幼虫はその種子を餌に成長します。

成長した雌のコバチは、雄と交尾すると、おしべの花粉をたくさん付けて、花のうの外へ飛び出し、別の花のうを見つけて入り込むのです。

いちじくとイチジクコバチは、こうして互いに利用しあいながら、子孫を残しています。

いちじく素朴な疑問

輸入品のいちじくの中には、雌コバチの死骸があるのか?

受粉する種類のいちじくは、中で雌コバチが死んでいるはずです。

が、特殊な酵素で死骸は分解され、たんぱく質として吸収されてしまいます。熟して食べられる頃には蜂の姿はなくなっていますから、海外旅行の時も安心していちじくを食べてください。

雄コバチはどうなってしまうのか?

受粉のために雄花から飛び出してくるのは雌のコバチだけです。雄は、交尾した後、雌が外へでるためのトンネルをつくり、それで力尽きて死んでしまいます。雌が飛び立った後の雄花は、雄の死骸と共に落ちて土に還ります。

ひとつの雄花の中で、雌コバチは100以上卵を産むといわれています。

比率はだいたい

1:10(雌:雄)

くらいになります。

いちじくの雄花と雌花は見ただけでは区別がつかず、雄の木と雌の木が分かれず、同じ気に両方の花のうができる種もあるため、雌コバチのだいたい半分が雄花に入り込んで子孫を残し、残り半分は雌花に入りこんでいちじくを結実させます。

日本産のいちじくは、すべて同じ種のクローンなのか?

日本でも、品種改良のために実験栽培される試験場の中では、他種のいちじくのおしべの花粉を受粉しています。より強い品種が新たな栽培種となって広まるので、全国すべてが同じ遺伝子のクローンではありません。

いちじくは、栄養面でも優れ、生薬としても使われてきた果実です。苦手な人や今までなじみがなかった人も、雌バチや研究者が苦労して受粉し、作ってきたいちじく、ぜひ一度お試しください。

まさケロンのひとこと

雄コバチの生き様をみてると、なんかもっとがんばろって思うな〜!

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。