と歌われる夏の思い出の歌詞に描かれる尾瀬の湿原風景を思い浮かべてみましょう。
薄く霧がかかる肌寒い初夏の湿原、細い木道の両脇には、水面から無数に顔をだしている水芭蕉の花たち、西の空にわずかに残る夕やけと天空の紺色の空を反映した薄紫色の光が、白い花びらに映る宵の時間は、さぞ幻想的でロマンチックな光景でしょう。
夏の水芭蕉はたくましくダイナミック
水芭蕉の開花は早春の雪解け直後
この歌のせいで、水芭蕉は夏の花と思っている人が多いかもしれませんが、実は開花の時季は雪解け直後、木々の芽吹きが始まる頃です。
尾瀬は高原地帯で雪解けが遅いので、5月も終わりに近づく頃から6月が水芭蕉の花の見ごろになります。
尾瀬の気候ではこの時期が春なんです。
もっと雪解けが早い時期にくる平地の群生地では、4~5月頃が見ごろになっています。
夏の思い出の作詞家は、歳時記、つまり暦の上では6月は夏にあたることから、尾瀬の水芭蕉風景を「夏」と表現したそうです。
花後はぐんぐん葉が伸び、実が大きくなる
水芭蕉の白い花びらのように見えるものは、実は花ではなく葉が変形した苞と言われるものです。
水芭蕉など里芋科の花(カラーや熱帯の花アンスリウムも仲間です)の苞は仏炎苞と呼ばれ、真ん中の円柱のような突起を包み込むような形になっています。
この円柱のトウモロコシのような所(花序)が花です。
受粉すると仏炎苞は落ちますが、他の葉はぐんぐんと急速に生長し、夏7~8月頃には大きい物は1m丈くらいになります。
緑色の花序も結実してどんどん大きくなり大きなゴーヤのようになります。
真夏の尾瀬の湿原は、亜熱帯の植物園のような風景となり、とても
なんて風情ではありません。
夢見る花のイメージとは異なる一面の多い花
英名はスカンク・キャベツ
里芋科の花の中にザゼンソウという花があります。
はやり湿地帯に生息し、雪解け後に地面から顔を出すように黒っぽい赤紫色の仏炎苞が開きます。
花序は真っ白で、だるまさんが座っているように見えるので達磨草とも呼ばれます。
虫を呼び寄せるために出す臭いがちょっと臭いため、英語ではスカンクキャベツと呼ばれています。
水芭蕉は、花の色こそ違いますが、形がザゼンソウによく似ているため、臭いはないのですが、アジアン・スカンク・キャベツという名前になりました。
水芭蕉の花は熊の下剤?!
水芭蕉の実は栄養豊富なため、寒冷地の山岳地帯に多いツキノワグマなどが好んで食べるそうです。
尾瀬でも熊の食痕を見ることができます。
葉には肌につくとかゆみや水ぶくれを起こすシュウ酸カルシウムが含まれ、また服用すると吐き気や脈拍低下を起こすアルカロイドも含まれます。
これは仏炎苞も同じなので、花は絶対食べてはいけません。
ツキノワグマは、時々水芭蕉の花も食べることがあるそうですが、これは冬眠から目覚めたばかりの体にたまっている老廃物を排出するため、わざと嘔吐剤・下剤として食しています。
幻想的な風景のイメージとは、随分かけ離れるようなエピソードも持つ水芭蕉の花です。
雪に覆われた長い冬の終わりを告げる春の花として、人々の心に希望や癒しを与える花であることには変わりありません。
尾瀬の短い夏の終わりに行って、うっかり熊と出会ってしまうと大変です。
ぜひ初夏の時期のロマンチックな黄昏時の湿原をお散歩しにお出かけ下さい。
あ、尾瀬は初夏というよりまだ春浅い気候ですから、暖かい格好で行かれますように。
水芭蕉って確かに臭いやんなぁ~
シュウ酸カルシウムが肌についたらえらいことになるから、素手で触ったらアカンで!