放送事故とは
実はほとんどがハプニング
唐突ですが
「放送事故」
というキーワードでYoutubeを検索してみてください。
この記事を執筆している時点で約654000件の検索結果が出てきます。
「放送事故」で検索したのですから、そのほとんどがテレビ放送の画像です。
バラエティ番組で出演者同士がケンカになったり、旅番組のレポーターが池に落ちてしまうなどの「放送事故」映像を見ることができます。
でもこれって「放送事故」の映像ではないということを知っていましたか?
これらの映像は
「ハプニング映像」
です。
放送事故とは根本的に異なります。
よくテレビでドラマのNGシーンやハプニング映像を集めた特番を放送することがありますが、これらの番組は「ハプニング映像集」であって「放送事故集」ではありませんよね。
放送事故の定義
放送事故とは放送において、正常に放送できない状態のことをいいます。
例えば公共放送で映してはいけないものが映ってしまったり、俗にいう放送禁止用語を出演者が口にしてしまったりしても、それは「正常に放送できない状態」になったとは言えません。
この場合はハプニングという扱いになります。
もちろんハプニングを起こした張本人は厳重な注意を受けることでしょう。
誤用
ちょっと話はそれますが「世界観」という言葉があります。
とか
などという使われ方をします。
世界観=舞台設定
という使われ方をしているのです。
例えば、終末世界を描いたアニメがあるとします。
世界中に疫病が蔓延していて、地上では人類は生きられない。
地下で暮らしているが、その暮らしぶりがまるで原始時代に戻ったかのように文明が退化してしまっている、という舞台設定だと仮定しましょう。
このアニメに対して「世界観が好きなんだ」となるわけです。
でも世界観という言葉は本来、人物などがどのように世界を見ているかを表す言葉です。
世の中すべてに不満を持って生きているのか、世の中はすばらしいものだと考えてネガティブに生きているのかなどというその人物がどのように世界をとらえているかということを表した言葉です。
それがいつのまにか設定というような意味で使われてしまっています。
放送事故という言葉もいつのまにか、ハプニングという意味合いで誤用されてしまっているのだと筆者は思います。
放送事故を起こしたことがある
大問題
テレビ局で番組制作に携わっているスタッフは、番組を作るのが仕事です。
放送事故はそんなスタッフにとって致命的な失敗となり得ます。
一般企業でいえば、得意先をひとつ失ったのとおなじぐらいの大きな失敗です。
ハプニングのように後でまとめて話題として提供できるような、言い換えればあとで笑い話になるような生やさしいものではないのです。
筆者の体験
筆者は20代のころテレビ局で番組制作に携わっていました。担当していたのは報道番組です。
湾岸戦争を覚えていますか?
イラクがクウェートに侵攻したのをきっかけに1981年1月17日にアメリカを中心とした多国籍軍がイラクを空爆したことに始まった戦争です。
まるでゲーム映像のような空爆の様子が全世界を震撼させ、後年になってアメリカの陰謀説までささやかれた世界的に大きな事件となりました。
筆者の携わっていた番組でもたびたび特集を組んだものです。
ある日、放送中に戦局の大きな動きがあり、放送時間を拡大することになりました。
しかしあまりにも急に決まった決定のため、全く準備をしていませんでした。
準備を整える時間すらなかったのです。
現地の最新映像をVTRにまとめようということになり、筆者がその編集を任されました。
しかし衛星回線で送られてくる予定の最新映像がなかなか届きません。
このままでは間に合わないので、過去の映像の中からそれらしい映像を集めてVTRをつくるよう指示があり、必死になって作業を進めましたが、もう物理的に間に合わないことは明白でした。
それでも2分程度の長さにまとめ、
とアシスタント・ディレクターに指示し、VTRを託しました。
ところがこの大切な指示内容がスタジオで統括しているディレクターに伝わらなかったのです。
このディレクターはVTRが5分あるものと思っています。でも実際の長さは2分しかありません。途中から全く関係のない映像が流れてしまいました。放送事故が発生してしまったのです。
始末書は免れた
民放のテレビ番組には必ずスポンサーが付いています。
番組で放送事故が起きたならスポンサーのイメージが悪くなる可能性もあり、場合によっては営業部門が謝罪と説明をする必要が生じます。
今回の放送事故は筆者ひとりの責任ではなく、いくつかのミスの積み重ねによって発生したものではありますが、筆者は上司にたっぷりと油を絞られました。
筆者が勤めていたテレビ局では放送事故が起きたばあい始末書を書くことになっていました。
ですが今回は急遽放送枠の拡大があったことと、困難な状況の中で、最善を尽くそうとしたことは認めてもらうことができ、報告書という形で済んだのです。
筆者の番組は録画したテープを毎週スポンサーに渡していました。
これはスポンサーの希望でしたが、問題の放送をみたスポンサーの担当者が、
「報道番組の緊迫した感じがよく伝わってきた」
と好意的に受け取ってくれていた、とうわさに聞きました。
トラウマ
こんな経験をしたので「放送事故」という言葉には筆者は敏感です。
だからこそ「ハプニング」と混同してもらいたくないという思いが強いのだと思います。
また安易に「放送事故」というカテゴリーでYoutubeなどに投稿してほしくないという個人的な思いもあります。
筆者が放送事故を起こしてしまったのは、後にも先にも先述した一回だけでしたが、二度とあんな恐ろしい思いを経験したくありません。
まあ、いまは全く別の職種なので放送事故とは無縁ですが。
放送事故だと思ってたほとんどが「ハプニング映像」だったんだ。放送事故っていうのは大変なことなんだね。