日本人の2人に1人はがんになる時代です。
がんはもはや、誰にでも起こりうる
「なって当たり前」
の病気です。
とはいえ、医療の進歩により、最初にがんになってからの生存率は驚くほど上がっています。
特に、15歳未満の子どもたちがかかる
「小児がん」
は、70~80%が回復し、日常生活に復帰できるようになりました。
一方、小児がんを克服した子どもたちが増える中で、頭をもたげてきた、新たな問題があります。
子どもたちが日常復帰した後に起きる、本人と家族の様々な葛藤について、日本ではまだまだ知る人は少なく、支援の手も不十分な状態です。
大人のがんとは違う、子どものがんに潜む魔の手
小児がん患者に特有の晩期障害・晩期合併症
かつては不治の病であったがんが、
「治る病気」
となったこと、特に子どもたちの命が保たれるようになったことで得られたものは、計り知れないほど尊いものでしょう。
現在、小児がんの治癒に成功して5年以上生き延びている人は、日本国内に約10万人います。
しかし、がんは、それでも完全に完治・根治することが難しい病気です。
再発の可能性に一生怯え続けないといけないのは、大人のがんと変わりません。
更に、子どもの場合、成長過程を襲ったがんとその治療の影響により、その後さまざまな障害や後遺症が引き起こされる場合が多いのです。
大人の患者ではあまり見られませんが、小児がん患者には多く表われるこれらの症状を、
「晩期障害」
または
「晩期合併症」
と呼んでいます。
小児がん経験者の5人に3人は、後々何らかの晩期障害を発症しています。
晩期障害は身体の症状だけではありません。
再発や後遺症の不安と常に対峙しながら、家族や友だちとの関係の中での気持ちの疎通がうまくいかなくなることも多く、精神的にうつやPTSD(心的外傷後ストレス障害・トラウマ)に苦しむ人も少なくない状況です。
遅れている日本の取り組み
例えば英国では、30年程前から、小児がん治療を受けた患者らに、晩期合併症のリスクをきちんと伝え、長期にわたりフォローアップする体制が、制度的に整えられてきました。
いわゆる
“がん登録制度”
により、治療を受けた患者1000万人以上のデータを一括管理して、治癒後の定期検診のリスク予測に役立てています。
日本では、2010年にようやく、小児がん治療患者のその後の追跡調査を始めた状態で、患者と家族を心身両面で支えていく、国による長期フォロー体制はまだ充分には確立されていません。
多くの子どもたちには、治癒後もずっと長い間、専門家の診療を受けながら、苦しい思いを抱えて生きる人生が待っています。
社会人になってからも、普通に夢を追うことができず、中には未来を悲観して自殺してしまう人もいる、という現実があります。
家族や学校の中での戸惑い
子どもががんになると、親の受けるショックも相当なものがあります。
親としては、何としても助けてやりたいと、少しでも良い治療を受けさせようと必死になるでしょう。
当の子どもの気持ちも支えていこうと、闘病生活のケアが最優先の生活になりがちです。
それにより、親自身の心身が参ってしまうこともあります。がんが不治の病だった頃に比べ、治療期間はとても長くなっていますから。
まだ子どものうちに晩期障害が出てくれば、先の見えない闘病期間が延々続くことにもなりかねません。
患者に兄弟がいる場合、親の関与がどうしても患者の子どもに偏ってしまう結果、自分は親から愛されていないのではないかと不安になり、情緒不安定になってしまうことが多々起こります。
時には、病気になった兄弟に親を取られたと思い、その子を憎むようになる子どももいます。
学校の中でも、治療の後遺症を抱えながら登校復帰してきた友だちに対して、どう対処していいのか戸惑い、過剰に反応してしまったり、髪の毛がないなどの症状をからかっていじめる子が出てきたりします。
先生たちにも気遣われていると、それを見て疎ましく感じる子もいるのです。
また、当人も、周囲も、なんとなくいたたまれない気持ちになって、だんだん
“特別な子”
として距離を置かれるようになることも少なくありません。
家族や友だちなど、患者の周辺にいる人たちに対するカウンセリングその他の精神面のケアも、とても大切です。が、現状ではそこまで手が及んでいないケースが大半です。
がんと闘う子どものことをもっと知ろう
身近にいる患者の気持ちに気付ける社会に
がんを克服して帰ってきた子どもたちが背負っているリスクの大きさや、晩期障害を抱えながらも前向きに生きようと頑張っている人たちの気持ちを知り、支援する人が、世の中にもっとたくさん増えていくことが、彼らとその家族が少しでも生きやすい社会を作るためには必要です。
多くの人の関心が集まる所には、福祉の手も伸びやすくなります。
国の体勢を早期に整えるよう、働きかけるためにも、どうか一人でも多くの人が関心を持って、身近にいるそういう人たちの苦悩に気付けるようになれたら良いですね。
がんについて、まずは正しく知っておこう
がんは、多くの人にとって、いずれ自分か自分の家族の問題になります。
普段からちゃんと正しい知識を知ることは、他者への配慮のためだけでなく、必ず自分のためにもなります。
1)がんとは何か
- がんは、「悪性腫瘍」という病気の通称です。
- がんは、正常な細胞が異常化して増殖することで、正常な身体の働きを壊す病気です。
2)がんはどうやって治すのか
- がんの種類は、大きく分けて「がん(癌)」「肉腫」「血液のがん」の3種類あります。
- 「がん(癌)」は内臓などの表面にできるがんです。早期の外科治療が効果的です。
- 「肉腫」は、骨や神経、筋肉などにできるがん。「血液のがん」は白血病やリンパ腫のこと。放射線や抗ガン剤でがん細胞を破壊する治療が効果的です。
3) 小児がんの特徴
- 大人は「がん(癌)」が多いですが、小児がんは「肉腫」と「血液のがん」が大半です。
- 子どもは体力や免疫力が弱く、外科手術のリスクが大人より大きくなります。
- そのため、小児がんでは抗がん剤や放射線治療が主に行われます。
- 抗がん剤や放射線治療は脱毛や食欲不振、体重減少などの激しい副作用があります。
- がん細胞を破壊する治療は、成長期の細胞も傷つけます。それが晩期障害の原因です。
4) 晩期障害の例
- 成長障害:背が伸びないなど
- 生殖機能障害:男性の無精子症、女性の不妊症など
- 中枢神経障害:言語障害、知能障害、運動障害
- 心機能障害:抗がん剤は心臓に負担をかけるため、大人になって障害が出てきます。
- その他の臓器・神経の障害:呼吸機能、腎機能、消化管機能、肝機能、視覚、聴覚など
- 二次がん:転移ではなく、放射線などの影響でその部分にがんが発生します。
身近に小児がんの子どもがいたら
子どもの友だちががんになったら
まず、子どもにわかる範囲で、以下のことを優しく話してあげましょう。
- がんという病気がとても大変な病気であること。治っても注意が必要なこと
- がんになった友だちは、とても辛い思いをしていること
- 友だちを元気にするためには、今までと変わりなく接してあげること
- 病気の友だちがからかわれたりいじめられたりしたら、味方になってあげること
小さい子なら、小児がんをテーマにした絵本を読んであげるのもいいでしょう。
そして、もし、友だちを気遣うあまり、自分の子がやりたいことを我慢したり、いじめられたりしてストレスをためるような状態になったら、その気持ちを受け止めてあげるようにしてください。
友だちのことを思う気持ちを褒めてあげるのも忘れずに。
間違っても、親のあなたの口から、
「病気の子を面倒臭い手間のかかる友だち」
であるかのような非難はしないでください。
自分の子どものひとりががんになったら
他の兄弟にも、がんの子どもの大変さや辛い気持ちを話してあげましょう。
お父さんお母さんが、兄弟を後回しにして我慢させることがあるかもしれないけれど、どの子もみな変わりなく大切であることも、くりかえし言葉にして伝えるようにしてください。
できれば、時々兄弟たちを思いっきり甘えさせてあげる時間も作ってください。
そして、病気の子に気遣いする様子があれば、惜しみなくありがとうをいって褒めてあげましょう。
知り合いの子どもががんになったら
親御さんの気持ちによりそって、できることがあれば、ぜひ手伝ってあげてください。
介護に疲れた親の愚痴をきいてあげるだけでもいいんです。また、職場の同僚ならば、介護と仕事の両立にぜひ理解を示してあげてください。
大人になって晩期合併症の悩みによって自殺してしまう若者が二度と出ないように、社会のいろいろな場で、支えの手が差し伸べられるようになることが希求されます。
小児がんの子の味方についたとき、ちょっと大変な時もあるかもしれない。でもそれは最初だけ。味方につくのが1人や2人のときは大変かもしれないけど、少しずつ支えの手が広がっていって、みんなが味方につけば大変だなんて感じないと思うんだ。