「ダイエット」とは、本来の英語の意味は
「健康のための食事制限」
の総称ですが、日本では
「痩せるための努力」
という意味で使われている言葉です。
若い女性が美しさを求めて過剰なダイエットを行う問題もありますが、「肥満」を恐れる強迫観念のようなものは、社会に広くあります。
現代社会を生きる多くの人々にとって、健康を害するレベルの肥満を予防・解消できるかどうかは、とても重要な課題であるのは確かです。
カロリー高く、皆肥ゆる春夏秋冬
肥満は健康の大敵!
肥満の問題は、現在、世界中の先進国や経済発展中の新興工業国に共通している課題でもあります。
OECD(先進国による経済協力開発機構)の加盟国の約半数は、国内人口の2人に1人が過体重か肥満となっています。
肥満になると、人はいろいろな病気にかかりやすくなったり、身体を動かすのが大変になって疲れやすくなったり、健康上の問題を多く引き起こしやすくなります。
体重が15kg増すごとに、早期死亡リスクは約30%増加し、肥満者の生涯医療費は正常体重者の25%増しになっている、という統計もあります。
これらは肥満度が増すほど更に高くなっています。国の医療予算の膨張を抑えるためにも、肥満問題の解決は喫緊の課題なのです。
肥満の原因
肥満の原因となるのは、以下の2点といわれています。
- カロリーの摂りすぎ:摂取量より消費量が下回ると、余った分は脂肪として蓄積します
- 炭水化物の多い食事:インスリンの分泌が促され、脂肪が蓄積されやすくなります
簡単にいうと
“美味しいものの食べ過ぎ”
が肥満を引き起こしているわけです。
ダイエットしたければ、必要以上に食べないようにすることが肝心です。
が、社会が豊かになり、いつでも食べ物が手に入る世の中で、目の前にたくさんある美味しいものを食べ過ぎないように我慢することは、人間にはなかなか大変な試練です。
野生の動物はなぜ肥満にならないのか
環境に適応して生き延びる生き物
地球上の全ての生き物は、より環境に適応するよう長い時間をかけて進化することで生き延びてきた種です。
生物は本能的に、生き延びるための選択をするようにできており、それによって種の保存を継続してきました。
食欲も本能です。生きるためには餌を獲り・栄養を摂り続けることが必須です。
しかし、必要以上の餌を食べ続け肥満に悩んでいる野生のライオンの話、など聞いたことがありません。
狩猟する野生動物は、お腹がいっぱいになるとそれ以上狩りはしません。
マウスの実験でも、いくらでも食べられるようにたくさんの餌を置いても、ほとんどのマウスは必要量以上に食べないそうです。
食べ過ぎて肥満になることで、動物も病気にかかりやすくなります。
また、身体の動きが鈍くなって、狩りが上手にできなくなってしまえば、生き延びられません。
狩られる動物は、逃げられません。
動物は、自ら滅亡に向かうように働く本能など、起きないようにできているのでしょうか。
なぜ人間だけが、肥満は命を縮めることになるのに、食欲を抑えられないのでしょう?
満腹感だけが、食欲を抑えているわけではない
脳に満腹中枢があり、満腹を感じるとそれ以上食べたくなくなる仕組みは人間も動物も持っています。
食欲の理由が「空腹感を解消したい」という本能だけなら、おなかがいっぱいになったら、もう食べたくなくなるはずです。
しかし、人間が太らないためには“食べたい心を我慢しないといけない”です。
食欲が必要以上に働いてしまうのは、なぜなのでしょう?
人間の本能は、自然の摂理から逸脱してしまったのでしようか?
実は、マウスの実験には続きがあります。
与えるものを、固形状に加工したネズミ用の餌から砂糖や脂肪分が豊富なお菓子に変えると、必要以上に餌を食べ続け、肥満していったそうです。
糖分・脂肪分・塩分が強められた食べ物は、食欲を強く刺激します。
動物も、“美味しいものは食べ過ぎる”のです。
また、家の中で飼われている犬や猫の中には、運動不足であるにも関わらず必要以上に餌を与え過ぎて太ってしまった例がたくさん見られます。
肥満することで、ペットも成人病にかかることもわかっています。
野生の中では、犬も猫も狩りをして餌を獲る生き物です。食べるためにはそれなりに苦労を強いられる環境にあります。
野生の犬や猫の仲間は、危険を冒してまで必要以上の狩りはしませんが、
動物も、“楽をして食べられるものは止まらない”ようです。
人類の歴史と肥満
人間は長い歴史の中で、飢餓を耐え抜いて生き延びてきた
人類が肥満の問題で悩みだしたのは、実は長い歴史の中ではごく最近のことです。
近代までの人類は、常に飢餓との闘いであったといって過言ではないくらい、安定的に全ての人に十分な量の食料が供給される社会ではありませんでした。
社会の底辺には常に食糧難に苦しむ貧困層がいました。ひとたび飢饉が訪れれば、国中が飢えに苦しむことも珍しくありませんでした。
現在でも、多くの発展途上国では、栄養不足によって子どもが死んでいく現実があります。
地球全体では、未来に向け、人口増加による食料危機の問題に面しています。
貧しい時代、貧しい世界では、美味しいものばかりを苦労もなく食べられる人はごく一部です。
日本も、戦時中から終戦直後の貧しい時代、庶民の子どもはみんな常にお腹を空かせていて、やせっぽちでした。ほんの70年前のことです。
飢餓との闘いが、肥満するからだのしくみを作った
食糧難の時代でも、たまに作物の出来が豊作の年や漁や猟で大量に獲物が獲れる時があります。
食料の供給が安定していない中を生き延びるために、人の身体は、お腹いっぱい食べられる時に脂肪の形でたくさん栄養を蓄積するようにできています。
食べられない時期は、その脂肪を糧にして生き延びるのです。
これは野生で生きる多くの動物もみんなそうです。ライオンも犬も猫もマウスも人間も、いっぱい食べられる時に太るように、食欲が働いています。
獲物がない時期もあれば、獲物を獲るのにたくさん苦労もする野生の動物は、消費カロリーと摂取カロリーが、長いスパンで見るとトントンになるのでしょう。
しかし、現在の先進国の人は、美味しいものがいつでも手に入り、世の中に物が溢れ、作業の機械化がどんどん進む社会の中に生きる人間です。
摂取カロリーが途絶える時期はほぼなく、カロリーを昔の人ほどたくさん消費せずに生きていけます。
食べられる時に貯めておく必要はもうほとんどないのです。
が、食欲の働きは、貯蓄分まで欲する本能のままです。
だから豊かな社会の人間は、“もっと食べたいけどこの辺で我慢”することができないと、肥満に陥ってしまうのです。
社会の豊かさと肥満
人は、より美味しくて太り易い栄養分の塊が大好き
毎日餌が与えられていた実験用マウスでも、多分それほど美味しくないネズミ用の固形の餌だと、満腹によって食欲は抑えられていました。
日本人も野菜と魚と穀物中心の和食が一般的だった時代は肥満の問題は今ほどありませんでした。
お菓子ばかりを与えたマウスが太ったように、糖分・塩分・脂肪分が多い加工食品を食べる割合がぐんと増えた戦後の日本社会で、肥満の問題がクローズアップされるようになりました。
糖分・塩分・脂肪分を添加すれば、お手頃簡単に“美味しいもの”を作り出すことができます。
そして、そういう加工品に人はどんどん飛びつきました。
売れるものを作り続けなければ、経済は豊かにならない
資本主義社会は、より売れるものを常に考え、作り出し、売り込み続けていくことで成長し、発展していきます。
売り上げが上がり続けないと、景気は良くなりません。
国民の健康のことを考え、過剰に食欲を掻き立てない
“そこそこの美味しさ”
のものを作っても、
“めちゃめちゃ美味しい”
けれど太り易い加工品の方が圧倒的に売れるので、商売になりません。
一方で、太り易い社会だからこそ、ダイエット関連の商売が高成長することができています。
人々の消費欲を永遠に煽り続けていかないと経済成長が続けられない社会が、肥満をどんどん促進している、ともいえます。
食育と肥満の関係
食べ物を通して、社会の問題やよりよい人間関係の作り方、健康管理の知識などを学んでいく教育の考え方が、近年日本では重視されるようになりました。
「食育[しょくいく]」
と呼ばれます。
和食が世界遺産になり、「おもてなし」が日本の優れた文化として評価される昨今、「美味しいもの」「喜ばれるもの」を追求しようとする価値観は、経済だけでなく、
“心を豊かにする”
文化として尊重される傾向が強まりました。
これは、
- 美食ブームを煽り、より肥満を促進するのか、
- 安直な加工品ばかりでなく、素材から作って食べる習慣の大切さを見直すのか、
どちらの方向も促していくことになるでしょう。
「美味しいもの」と
「豊かさ」と
「肥満」
便利で楽しくて、飢えのない平和な社会につきまとう「肥満」という問題は、
“人や社会の豊かさとは、何なのか?”
を改めて人類に問うているようです。
神様は、人間にどんな答えを見つけてもらいたいのでしょうか。
まさケロンも昔「オマエぶっちゃけ肥満だよね」とか言われたし、いろいろと考えてみた。でも答えはでなかった!!「食べる」ってことは「命を奪う」っていうことだと思うから、感謝の気持ちは忘れないようにしたい。