和歌山県太地町で行なわれていた追い込み漁によるイルカの入手が、世界動物園水族館協会(WAZA)からの要請で禁止となり、水族館の主役であるイルカを維持していけるのかどうか難しくなってきました。
この追い込み漁で捕獲されたイルカは国内の水族館だけではなく、中国を始め16の地域に輸出されていたとのこと。
水族館からイルカがいなくなるのは、動物園に行ってゾウがいないようなもの。
動物園も水族館も存続の危機!
ゾウもいなくなる
そのゾウだって、いずれは日本から姿を消すかもしれないんです。国内には既にゾウが不在の動物園もあります。
ゾウなどの希少動物はワシントン条約によってその取引を厳しく規制されています。
イルカやゾウを始め動物達の種類や数を維持していく為には、もう「繁殖」という手段しか残されていません。
積極的に繁殖へ
アメリカの水族館にいるイルカの7割は繁殖によるものなので、日本の水族館はその知識や技術を学ぶことが急務となります。
国内のイルカを飼育している34施設のうち、繁殖経験のある施設は12施設のみ。決して多いとは言えません。
積極的に繁殖を進めていきたい気持ちがある一方で、実はこんな気になる動きも。
動物園も水族館も要らない!?
このような意見が強いのも事実。
人間の好奇心を満足させるだけのもので、大勢の人間から見られるという無駄なストレスを与え動物達には何のメリットもないということ。
今の日本では動物園や水族館から生き物がいなくなることなんて考えられないことですが、いずれ世界がそういう動きに向かっていけば追従しなければならなくなるのでしょう。
JAZAが取り組む4つの目的
展示やショーだけではありません
ただ展示やショーといったことがクローズアップされがちな動物園や水族館ですが、もっと重要な役割も果たしています。
JAZA日本動物園水族館協会には国内152の動物園・水族館が会員登録しており(2015年5月11日現在)、そのHPによると、
- 種の保存
- 教育・環境教育
- 調査・研究
- レクリエーション
これら4つを目的に掲げ活動しているそうです。
種の保存
この中でも最も重要視されているのが「種の保存」です。国内に限らず、世界各国がこの問題に頭を抱えています。
これは個々の動物園・水族館のレベルで考えられることではなく、国内全ての施設が連携を取っていかなければ、とても太刀打ちできない問題です。繁殖の為のネットワーク、システム構築が大きな課題です。
動物を手に入れる方法
個々の施設がどうやって動物達を手に入れているかというと、
- 「ほかの施設で生まれた動物を譲ってもらったり、交換し合う」
- 「繁殖の為の環境を作り、ほかの施設から一時的に動物を借りてきて繁殖を促す」
- 「海外の姉妹都市などから友好の印として譲ってもらう」
といった方法がメイン。現在では野生から捕獲するということは殆どないようです。
また動物商と呼ばれる人を仲介に購入する場合もあるとのこと。
ただその金額も高騰していて、キリン1頭購入するのに手数料・輸送費を合わせると1,700万円にもなるそうです。
そう簡単に購入出来る金額ではありません。
繁殖を促すシステム
アメリカでの取り組み
以上のことからも分かるように動物達の種類、数を維持するには、やはり繁殖に力を注いでいくしかありません。
ここでアメリカの取り組みを紹介します。アメリカではAZAアメリカ動物園水族館協会が中心となって220以上の施設が繁殖ネットワークに参加。
個々の生き物の年齢や遺伝データなどの詳細を登録し、一括して管理が行なえるシステムになっています。
繁殖の組み合わせを調整してくれる
それを元にAZAの動物学者が繁殖の組み合わせを調整します。
血統を分析し、交配が可能かどうかなどを検討。遺伝的に近いものにはNGが出ます。
この一連の業務は、繁殖コーディネーターが中心となって各施設との連絡を担当します。
繁殖の為の移動等はAZAの指示に従う義務があり、これを拒否するとネットワークから除外されてしまいます。
そうなると繁殖させたい動物がいても協力してもらえなくなるのです。
日本では出来ないの?
この仕組みであれば、日本でもすぐにスタート出来そうな気がしますが、なかなか簡単にはいかない事情があるのです。
日本の場合、動物園・水族館の半数以上が地方自治体の運営となっており、そこにいる生き物たちは自治体の財産ということになります。
繁殖の為に移動させるとなると、自治体の財産を動かすということに繋がります。
動物は備品扱い?
例えば動物園を所有するA市では、園内にいる全ての動物が市の備品。
その中でもゾウは1,500万円の重要備品として台帳に登録してあるのです。
このゾウを繁殖の為にほかの動物園に貸し出したい場合、まずは議会や市長の承認を得る必要が出てきます。
お役所だからこその煩雑な手続きが多いのです。
カタチを変えなくちゃ
貸し出すとなれば、一定の期間ゾウが不在となります。
市民の間から反対の声が上がれば、中止せざるを得なくなってしまうこともあるのです。
税金を使った今のままの運営では、繁殖でその数を維持していくのは非常に困難だと言えます。
一般企業や団体等の協賛や支援があると、スムーズな繁殖の仕組みが作れるようになるかも知れません。
命を繋げる
地元ぐるみで婚活支援
福岡県の大牟田市にある大牟田市動物園。
この動物園にいるキリンのリン君(9歳)はお嫁さん募集中。お嫁さんを得る為の資金2,500万円の募金活動をしています。
そこで地元・大牟田柳川信用金庫では、「リン君の婚活大作戦」を応援する為、通常金利の3倍となる「1年もの定期預金」の取り扱いを2015年6月15日からスタート(~8月31日まで)。
預入金額の0.075%を寄付するというもの。
預け入れ客の先着100組に動物園のペア入場券をプレゼントするそうです。
地元ぐるみで応援しようという姿勢が嬉しいし、そんな話を聞くだけでも心が温まる気がします。
次の世代への責任
繁殖を行なっていく為には、知識・技術・経験そしてお金が必要です。
これは国レベルの問題として、政府、各自治体、企業などが真剣に取り組むべき課題とも言えるでしょう。
子ども達だけでなく大人も一緒に動物達と触れ合い、その命について考え、学び、知るという機会は大切です。
動物園や水族館に任せるのではなく、みんなで地球上の動物達を守り、次の世代に伝えていく責任があることを忘れないようにしましょう。
数を維持しようと思うからだめで、いっそ増やしまくるってわけには・・・いかないよね。。