認知症

認知症の人がやったことは介護者に賠償責任がある社会でいいのか

Written by すずき大和

少子高齢化が止まらない中、若い世代の貧困化が進み、格差がどんどん広がる21世紀の日本、介護の問題はもう待ったなしの段階まできています。

  • 兄弟が3人も4人もいて
  • 三世代同居が普通で
  • 近所や町の人との付き合いが濃厚で
  • 子どもだけで街の中で遊んでいても
  • 老人が徘徊していても
  • 誰かの目が届いてケアしてもらえた・・・
  • 経済は右肩上がりで
  • 正社員として雇用されれば年功序列で給料があがっていった・・・

そんな時代は、遠い昔です。

専業主婦や家事手伝い者を一人以上家においておけるだけの経済力がある家庭は、ほんの一部の勝ち組だけになっている現代、認知症などの問題を抱えた要介護高齢者を、家族だけで24時間つきっきりで介護することはとても難しくなっています。



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刑事責任を問えない認知症患者の責任は全部家族が被るのか

少子高齢化対策は、家族の献身で解決しよう!

この記事を書いている時、丁度2016年の国会予算会議開催中でした。政府の出す施策を、連日野党が激しく突いていました。

安倍内閣の政策の目玉のひとつに「子育て支援」があります。

今回、政府が出した政策の中に

「三世代同居が可能な住宅を新築する場合の補助金制度」

というのがありました。キッチンやトイレの数などの条件が、三世代同居可能な住宅であれば、実際三世代同居の予定がなくても、補助金が支給してもらえる制度です。

野党が

「子育て支援の名を借りた、“豪華住宅支援”じゃないか!」

と責めていました。

そもそもトイレや風呂や台所が複数ある新築住宅を建てられるくらいの層の人たちは「親に見てもらえないと子どもが産めない」という切羽詰まっている人たちじゃないでしょうが!

という突っ込みもさることながら、それよりもまず、少子化対策のための支援が、

「公的に子どもを看るシステムを作ること」

ではなく

「親に子育てを手伝わせること」

で解決しようという発想そのものが、

「子育ては家族のアンペイドワーク(ただ働き)で支えることを良しとする」

という価値観が垣間見えて、うんざりしてしまう一般国民は少数ではないでしょう。

認知症の夫の不始末は妻が責任取れ!

「家族のただ働きで解決するべき」という考え方は介護の問題にも共通しています。

認知症の夫が、妻がちょっと郵便局にいっていた隙に火事を出し、延焼した隣家から妻に賠償を求められた裁判の判決が、2015年5月にありました。大阪地裁は、夫婦の相互扶助を定めた民法の規定を当てはめ、妻に賠償を命じました。

放火した85歳の夫は責任能力なしとされましたが、たった一人で介護にあたっていた73歳の妻は、

「夫への監督義務を怠った」

と見なされたのです。

妻は

「夫は他人に危害を加えたこともなく、当日も落ち着いていた」

と証言しており、

夫は

「行っておいで、テレビ見ているから」

と、妻を送り出していました。

賠償を命じられた妻は

「私はどうすればよかったんでしょうか」

と取材のマスコミに漏らしています。

2007年、徘徊して電車にはねられた91歳の認知症の夫の事故では、JRへの振替え輸送などの賠償を妻に命じる判決が下っています。やはり根拠は民法の夫婦の相互扶助義務を定めた条項でした。

「子どもや年寄りの面倒は家族が看よ」という日本の社会の価値観は、「家族のただ働きが基本」であるばかりではなく、

「責任が問えない人間の不始末は、家族が代わりに賠償しろ」

という連帯責任を強制する圧力もセットのようです。

自己責任と社会の責任の境界線はどうあるべきか

近代の価値観を残すことが「美しい日本」を作る

凶悪犯罪の犯人が捕まると、その家族まで社会のバッシングの対象になるというのは、東アジアに強く見られる傾向です。日本も、建前上は親の借金のために娘が身売りしなければいけないような社会ではなくなりましたが、人々の意識は西洋の自由や民主主義の考え方を手放しで受け入れて支持している、とは限らない文化をもっているようです。

特に、与党自民党を支える基盤の思想団体は、戦前の価値観の復古を戦後もずっと羨望し続けており、現政権もそれを受けて「戦後レジームからの脱却」を根幹のスピリッツに掲げています。

戦前の道徳観は、個人ではなく家族が社会の最小単位であり、家族のことは家族の責任で解決する文化は、「助け合う家族の絆」を大事にする「美しい国日本」の基幹と考えています。現政権の政策にもそれらの価値観が反映されています。

核家族化、貧困化する庶民に連帯責任は負い切れるのか?

認知症の人が起こすトラブルに民法の相互扶助義務を当てはめることは、美しい家族の絆があれば当然、と考える人もいるでしょう。

しかし、核家族化が進み、ギリギリ生活の高齢者世帯の中で、高齢の妻に介護の負担と認知症の人が原因の賠償責任を負わせる社会は、果たして本当に「美しい国」なのでしょうか。

「認知症の人と家族の会」でも、賠償責任は家族だけに追わせず、社会全体で救済する制度を作ることを求めています。

全国の認知症患者の数は、10年後には700万人に達するといわれます。高齢者の5人に1人が認知症になる時代について、今考えないと間に合わないことは多いです。家族の面倒が見られない家庭は、もはや決して一部の不幸な人とは限りません。

まさケロンのひとこと

みんなでこういうことしっかり考えていってさ、「美しい国、日本」にしたいよね。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。