桜の季節を過ぎ、うららかだった春の日が、あっという間に初夏の兆しに満ちて来るようになると、海辺では潮干狩りの季節真っ盛りです。ゴールデンウィークを挟み、全国各地の潮干狩り場は観光客でにぎわいます。
採れる貝は地域によって違いますが、ほぼ日本全国どこでも一番多いのは『あさり』です。この季節、魚屋さんの店頭にもたくさんの新鮮なあさりが並びます。
旬のうまみ成分たっぷりの採れたてあさりを使って、いろいろなメニューを楽しみたいものです。
あさり料理といえば、まず砂抜き
美味しくいただくための基本「砂抜き」
砂の中に埋もれている貝たちは、殻の内側にも砂が入り込んでいます。砂の粒が身の間に挟まったままだと、食べた時に「ジャリッ」として、せっかくのまろやかで芳醇な旨みを楽しむ妨げになってしまいます。
あさりを料理する前には、まず殻の内側に入り込んだ砂や泥の粒を取り除いておくことが肝心です。
といっても、貝をこじ開けて中の砂をひとつひとつ手作業で取り除く必要はありません。殻の中に砂粒が入っていることは、当のあさりにとってもあまり気持ちがいいものではないので、砂から出てきた時に、あさり自ら殻の中に入った砂粒を外に吐き出す習性があります。この「砂吐き」の性質を利用して、あさりに完全に砂を吐き出し尽くさせてから調理するようにします。
この工程を
『砂抜き』または『砂出し』
といいます。
一般的な砂抜き方法
あさりは、砂から這い出て海水の中に現れた時、殻の中の砂を吐き出すので、海水と同じくらいのたっぷりの塩水を作り、その中に半日から1日あさりを入れておくと、自然に砂抜きできます。朝ごはんにあさりの味噌汁を作るなら、夜ご飯の片づけ後に砂抜きし始めれば、ちょうどいいでしょう。
あさりは、水に入れて静かに置いておくと、2つのチュープ状のものを殻から突き出してきます。この管の一方から水を取り込み、もう一方の管から吐き出して呼吸します。塩水につけて砂抜きを始めると、砂を吐くだけでなく、この呼吸も盛んに行うようになります。
2枚の貝の隙間から出した管から吐き出される水は、結構な勢いで飛ばされることもあるので、フタをしないでおくと、周りが水浸しになることがあります。シンクの中に置いておくか、密閉しないよう隙間を作りながら、ラップなどで覆っておきましょう。
貝はなぜ水から出てもすぐに死なないのか
既におわかりかと思いますが、あさりが自分で砂を吐いてくれるのは、まだ生きているからです。貝は魚と同じように水から酸素を取り込む呼吸をしていますが、水から出ても、すぐに呼吸ができなくなって死んでしまうことはありません。
だから、潮が引いた後の干潟の砂の中に潜っていられるのです。干潟は海底の砂の中よりも、貝の餌となるプランクトンなどが豊富にあるので、そこで生きられるからだの作りになったのは、生存競争に勝ち抜くためでしょう。おかげで、人間を始め、多くの陸生動物たちの餌にもなってくれています。
貝は空中では、酸素を取り込まない代わりに、体内に蓄えていたグリコーゲンをコハク酸というものに変えることで生き続けています。コハク酸はうまみ成分にもなりますが、増えすぎると苦味やえぐみを感じるようになるので、水揚げして時間がたつと、それだけ味が落ちます。
砂抜きして再び呼吸を始めると、余分なコハク酸が減少します。半日から1日かけてゆっくり砂抜きする間に、流通の間に出た苦味が消えていくのです。
採ってきたあさりをすぐに食べたい時の速攻砂抜き術
半日から1日も砂抜きする時間がない時
潮干狩りなどで採ってきた採れたてプリプリのあさりを新鮮なうちにすぐ食べたい!という時は、時短の砂抜き方法があります。
塩水ではなく、真水を「50度のぬるま湯」にして、そこへあさりを漬けます。一度ガラガラとかきまぜて、殻同士をこすり合わせるようにすると、あっという間に、15分くらいで砂を出し切ってくれます。塩水での砂抜きだと若干吐き残しがでることがありますが、ぬるま湯法はお湯が濁るくらいよく砂を吐きます。
これは、熱に“びっくりぽん!”となったあさりが急激に水分を吸い込んで身を膨らませ、殻の中の異物が押し出されるためです。ふっくら膨らんだあさりは、調理するとプリプリふっくらに仕上がり、いっそう食感がよくなります。
コハク酸が増える、という効果もあり
ただし、この“びっくりぽん”は、グリコーゲンのコハク酸分解も促進します。
採れたて新鮮なあさりの場合、程よくうまみが増すので更に美味しくなりますが、スーパーで買って冷蔵庫に2、3日おいておいたパック詰め品の場合、すでにコハク酸が増えすぎているため、ぬるま湯砂抜きをすると、えぐみが強まってしまうかもしれません。
あまり新鮮じゃないあさりをぬるま湯砂抜きで素早く調理したい時は、えぐみが緩和されるようなスパイシーな味付けの料理が向きます。薄味の汁物やあさりご飯などより、ニンニクをきかせたボンゴレパスタや、ゴボウと一緒にみりんと醤油で甘辛く煮て卵でとじる柳川風などが美味しいでしょう。
せっかくふっくらした身が硬くならないよう、加熱しすぎにご注意ください。
あさりが新鮮かどうかで選ぶ料理も変わってくるわけだ。新鮮なあさりで食べる汁物は最高だな~。