怪談・ホラー

日本の幽霊の定番/死装束、足なし、恨めしや~の手・・・なぜ?

Written by すずき大和

日本の幽霊には、お決まりの絵姿があります。

  • 白い着物
  • 頭には三角の布(正式名は宝冠、紙冠、四半、紙宝、額烏帽子など)
  • 肘と手首を曲げて手先を下に向けた両手を体の前に揃えるポーズ
  • 下半身がなんとなくぼけたり、細くなっていったりして、足が見えない
  • 青白い顔で長い乱れ髪のまま、はかなげにすーっと立っている

そんな幽霊の表現、見たことあるでしょう。

コントや漫画でも、そんな幽霊がよく出てきます。

が、本格的な怪談話や物語に出てくる幽霊は、そんな姿で出てこないことのほうが多いです。心霊写真に写る人型の何かも、そんな恰好をしていることはまずありません。心霊現象の体験談を聞いても、そんな幽霊を見た話は聞きません。

いったいなぜ、いつから、日本の幽霊はあんな姿がお約束になってしまったのでしょうか。



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幽霊の姿のステレオタイプはいつできた?

江戸時代後半に訪れた幽霊と幽霊画ブーム

日本では江戸時代半ば頃から幽霊画はひとつのアートジャンルとして確立してきました。

江戸時代初期、浄瑠璃本の挿絵や、狂言の舞台に出てくる幽霊は、生前の姿で現れるのが普通でした。足もあるし、死装束ではありません。

18世紀前半に大阪で歌舞伎や浄瑠璃となった『播州皿屋敷』が人気となり、程なく江戸の講釈師が江戸に舞台を置き換え、講談『番町皿屋敷』を発表すると、これがまた江戸庶民の人気となり、世は幽霊ブームになります。

お菊の

「恨めしや~」

の台詞とポーズが幽霊の定番として広まり、浮世絵師が次々幽霊画を描くようになるのもこの頃です。


ステレオタイプのできあがり

浮世絵師の幽霊は、足がだんだん透明に霞むように消えていくような描かれ方が多いです。

また、そのいでたちも、死んだその時そのままの姿・・・事故死や殺害された者なら血を流した無残な姿のまま、または死装束で描かれるようになりました。死体のイメージなので、顔色は青白く、彷徨い出てきた迷いや怨念の表現なのか、着物の着方や髪は乱れてだらしなく表現されることも多くなりました。

そのうち、風刺漫画などコミカルに表現する時や、大衆演劇で幽霊が登場する時などは、

  • 額烏帽子(ぬかえぼし)と白い着物(これらは仏教の死装束の定番です)
  • 足がない
  • 白い顔で「恨めしや~」のボーズ

というステレオタイプが定着するようになっていきます。


影響が大きかったこと

足のない表現が広まったきっかけは、諸説あるとされていますが、ネットで検索すると、なぜか

「円山応挙の絵画の評判がよかったせい」

と書くコラムがたくさんでてきます。


「円山応挙(まるやまおうきょ)」(1733-1795)は、江戸中期~後期に活躍した浮世絵師です。残る作品はとても少ないのですが、幽霊画の評価が高く、

  • 「祇園井特(ぎおんせいとく)」(1755-1815)
  • 「葛飾北斎(かつしかほくさい)」(1760-1849)
  • 「歌川国芳(うたがわくによし)」(1797-1861)
  • 「月岡芳年(つきおかよしとし)」(1839-1892)

らと共に、“江戸時代の幽霊画・怪奇画の代表”といわれています。

確かに世に出た順では円山応挙が早く、その影響が他の浮世絵師にも広まった可能性は否めません。ただ、足を描かない表現は円山応挙が最初なわけではなく、江戸時代初期の頃の挿絵の中にも、足がない絵はあるので、「幽霊に足がない」という観念の発祥がいつかははっきりしません。

1825年に上映された歌舞伎の狂言作品『東海道四谷怪談』の大ヒットも、大きな影響を及ぼしました。お岩さんの幽霊画が多くの絵師によって描かれました。また、お岩さんを演じた三代目尾上菊五郎が、足を隠す演出をしたことが「怖い」と評判になりました。これらが

「幽霊は死んだ時の姿で出てくる」

「幽霊には足がない」

という観念をさらに定着する効果を及ぼしました。


幽霊に足がなくなった理由

足がない幽霊は日本だけ

西洋では、映画にゴーストが出てくることはよくありますが、「幽霊画」という表現はほとんどありません。

日本の幽霊に足が描かれなくなったのは、

「そのほうが幽霊っぽく見える」

という演出のひとつであったことは確かですから、そもそも絵で表現しなかった西洋の幽霊には「足がない」という概念はありません。アジアの文化の中にも、そういう解釈はあまり見られず、やはりこれは日本の幽霊特融の特徴のようです。

なぜ足がないと幽霊っぽくなるのか

これも検索すると

“お香を焚く煙で足が見えなくなるから”

“地獄で通行料の代わりに足を切られる絵が地獄絵図に描かれているから”

などの理由がよく出てきますが、どうもとってつけたように聞こえます。

これはやはり、下半身にかけてだんだん消えていくように描くことで、

“幽霊は実在のものではない”

“幽霊ははかなく危うい存在”

という不気味さを表現している、と素直に見るのが自然な気がします。

最近では、死装束に額烏帽子をつけることも滅多になくなりました。ステレオタイプの幽霊は、もはやひとつの妖怪キャラクターのようなものかもしれません。

よし、将来、自分が化けて出られる機会があれば、面白いから、あの格好してみよう(笑)


まさケロンのひとこと

幽霊ってホントは親しみやすいイイ奴なのかもなーなんて思ったり。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。