「誕生花」って気にしたことありますか?
西洋では、月ごとに1、2種類の花が「○月の誕生花」として決まっている国が多いです。が、日本では、誕生石ほどは知られていない気がします。
調べてみると、日本や韓国、中国などの東アジアでは、誕生花というと、365日全部に、それぞれひとつ以上の花が決められているようです。
日本では、花屋さんのHPや、花言葉やガーデニング情報のサイトなどで、日本の季節に合わせた花を並べた「○月の誕生花」も、いく通りか紹介されています。
7月の誕生花トルコキキョウ
日本はトルコキキョウの開発最先端国!
日本の毎月の誕生花を海外のものと見比べると、西洋や中国にはない日本特有のエントリーもいくつかあるのに気付きます。
- 桜(4月)
- ひまわり(8月)
- コスモス(9月)
などは、日本人にはまさにその月のイメージと思える花ですが、他国のラインナップには見られません。そして、
- トルコキキョウ(7月)
も、日本オリジナルの誕生花です。
と、いわれても、いまいちピンときませんか?
実は、世界に流通しているトルコキキョウの7割以上が日本産で、そのほぼ全ては日本で生まれた改良種です。特にヨーロッパでの人気が近年高まっており、育種家の間では、
トルコキキョウといえば“日本”!
という感じで、なにげに有名なのです。
トルコ原産でも桔梗でもありません
トルコキキョウの原種は、アメリカのテキサス・ネブラスカ・コロラド地方で自生していました。直径3~5㎝ほどの青紫色の一重咲きの花で、色形が桔梗に似ていますが、キキョウ科ではなく、リンドウ科(Gentianaceae)の仲間です。
ヨーロッパに持ち込まれたのは、意外と最近の19世紀でした。日本に来たのはもっと後で、1930年代といわれています。
「トルコキキョウ」という和名の由来は、
- 花の色形が、桔梗に似ている
- 宝石のトルコ石の色にも似ている
- 八重咲の花びらの巻き方が、トルコ人のターバンに似ている
などいくつか説がありますが、本当のところは不明です。
原産地アメリカでは、
「Texas Bluebell」(テキサスのブルーベル)
「Tulip Gentian」(チューリップリンドウ)
などと呼んでいます。
戦火で失われた園芸種
デリケートな原種
ヨーロッパに渡ったトルコキキョウは、いくつかの国で、園芸用に品種改良が進められました。最初についた属名の
「リシアンサス(Lisianthus)」
がヨーロッパで一番普及している呼び名でしょうか。(今は属名が変更されていますが、花名は残っています)
原種はデリケートな花で、暑さや寒さに弱いだけでなく、湿度が高いとすぐ根腐れしてしまう、という弱点がありました。
また、自家受粉による繁殖では代が進むごとに虚弱になっていく性質があり、異なる遺伝子の個体が集まる品種群にならないと、安定して生き延びられません。
ヨーロッパでは、2度にわたる世界大戦で国土が荒れる戦いが続いたため、園芸文化は一時期大きく停滞しました。生存力が弱い種、繁殖させるのにいろいろ手入れが必要な園芸種の開発は頓挫し、そのまま消滅してしまった品種も数多くありました。
リシアンサスの園芸種も、欧州の素材のほとんどが20余年の間に失われ、育種の流れが一度途絶えてしまいました。
戦時中も農家で栽培されていた花
園芸種は世界的に失われてしまったかに見えましたが、実は、日本の田舎の農家の一部では、戦時中も細々と切り花の生産や育種が続いていました。
食糧難だった戦時中から終戦直後、商業用の花栽培が続けられたことは奇跡に近いことだったかもしれません。が、日本のトルコキキョウ栽培は生き延び、昭和40年代になってようやく、本格的な育種開発が再開されました。
日本の種苗業者の地道な努力が新たなステージへ
切り花界の花形といえば、品種の多さや見栄えの華々しさ、花持ちの良さ、などの点で、当時も今も“バラ”が王者であるといえるでしょう。バラの育種に関しては、日本も有数の原産地、開発国のひとつですが、欧州の歴史の厚さには及びません。
戦後の経済成長期、日本の種苗業者の中に、
という野心を持って開発に取り組むブリーダーが表れました。
彼らの努力により、トルコキキョウの新種の開発が飛躍的に進みました。
高温多湿の環境でも丈夫に育ち、切り花の花持ちも、どの花にも引けを取らない程長持ちになりました。花のサイズも大きくなり、明るい花色も増えました。
- バラのようなゴージャスな八重咲き
- フリルのようなひらひらした花びら
- 白い花びらの縁に鮮やかな色が差すスタイリッシュな品種
などなど、華々しい印象の新種が次々生まれ、海外にも輸出されるようになりました。現在は、日本で開発された改良種だけで500種以上あり、ウエディングブーケや祝賀用アレンジメントに欠かせない花になりました。
日本のトルコキキョウの品質の高さと、研究の情熱は、世界でとても高く評価され、今もなお、育種開発の中心地として注目されています。
7月生まれの人はもちろん、日本人はもっとトルコキキョウを愛して誇りにしてもいいかもしれません。
名前で損しているような気がしてしょうがないんだよね。「トルコキキョウ」でも「トルコギキョウ」でも、「バラ」とか「ひまわり」に比べるとちょっと呼びにくいというか。新種開発がもっと進んだらみんなで新しい名前を考えるというのはどうだろうか!