2019年春といえば、日本では元号が平成から令和に改まり、天皇陛下の代替わりに世の中がやたらに浮かれた時です。「改元恩赦」の話や、祝賀ムードに乗じて政権の支持率が上がるなどの現象が、海外から揶揄される向きもありましたが、国民はそれにも気付かないほどのはしゃぎ様でした。
日本人が大騒ぎに興じていた一方で、国際社会では、こんなことも話題になってました。
2019年3月29日、チリの「プエルト・ウィリアムズ」という町が、アルゼンチンの「ウシュアイア」を追い抜いて、新たに
『世界最南端の都市』
になったそうです。
世界の最南端のまち
人はどこまで極地に近い所で暮らせるか?
地球は北極と南極を結ぶ軸を中心に回っています。極地近くでは太陽熱が当たる角度が低くなり、厳しい自然環境となるため、人間が暮らせる所には限界があります。
北半球では、極地近くまで陸が多いので、北緯82度くらいまで人が定住している場所があります。
が、南半球は、北に比べて大陸が少なく、極地こそ南極大陸の中にありますが、南極基地以外に人が生活している町というと、南米大陸の端の南緯50~55度くらいの地域が最南端となっています。
村から都市へ
さて、「ウシュアイアを抜いて世界最南端都市になった」といっても、プエルト・ウィリアムズの町の位置が動いたわけでも、領地が南側に拡大したということでもありません。どちらの町も、3月29日以前から、ずっと同じ場所・同じ広さで存在していました。
ウシュアイアは、アルゼンチン領フエゴ島、南緯54度48分付近にある、人口5万人強の町です。これに対し、プエルト・ウイリアムズは、フエゴ島の隣りのナバリノ島の北側、南緯54度55分付近にあります。
ナバリノ島は『世界最南端の人口1000人以上の島』であり、プエルト・ウィリアムズには、2000人強が住んでいます。
あまりに人数が少なくて、プエルト・ウィリアムズは国際的には“都市”の認識がされなかったため、これまでは
『世界最南端の“町”』
でした。が、今回チリ当局から、“市”として認定されたのです。
都市の条件?
“都市”の定義は国際的に決まっていません。
一般的には、人が多く集まり、その地域の政治・経済・文化の中心になっている町、というイメージがあります。が、どこまでの規模だと中心的といえるのかは、文化が変れば感覚も違ってきます。ので、
国が“市”に認定したら“都市”扱い
という暗黙の分類ルールがあります。
ウシュアイアは人口もそこそこ、アルゼンチン最南端の州ティエラ・デル・フエゴ州の州都であり、“都市”のイメージとして妥当です。が、プエルト・ウィリアムズは、千人単位の人口の小さな漁村です。都市というより村落に近い感じがしますが、“市”指定された以上、国際的には一応“都市”カテゴリに入ることになったわけです。
住民からは、『最南端都市』となったことで、観光客の増加を期待する声が聞かれます。同時に、のどかで静かな漁村の雰囲気が魅力の土地なのに、
「観光客でごった返してしまったら、町の良さが失われてしまう」
と静寂や治安の崩壊を心配する人たちも少なからずいるようです。
本当の最南端はどこ?
最南端の“村”
ところで、プエルト・ウィリアムズが『世界最南端の都市』となったことで、『世界最南端の町』はなくなってしまったのでしょうか?
実は、ナバリノ島には、プエルト・ウィリアムズよりも更に南にも“村”があります。南緯55度5分付近に位置する「プエルト・トロ」という、人口30人に満たない集落があり、国際的には
『世界最南端の“村落”』
といえば、このプエルト・トロと、認識されてきました。
文化人類学的には、人が暮らすコミュニティは
- 「都市(city・town)」
- 「村落・集落(village・hamlet)」
の2種類に分けられます。人数などの正確な定義は前述のようにありませんが、農村、漁村、山間部の村のように、農林水産業を中心としている小さな町のことを「村落」「集落」と呼び、第二次、第三次産業中心の「都市」の対義語としています。
この区分では、これまで
- 最南端都市はウシュアイア
- 最南端村落はプエルト・トロ
でした。
ただ、日本人の感覚では、
市>町>村
の順番で3種類なので、人口1000人以上と以下で“町”と“村”を分けてカテゴライズしていたようです。つまり今後は、日本でもプエルト・トロが
『世界最南端の“町村”』
になる、ということでしょうか。
更に南に暮らす人々
そして、プエルト・トロより更に南で暮らす人々が、南極基地に滞在している皆さんです。基地は集落とは認められていないのですが、定期的に人員交代しているものの、観測隊員などが冬季も常駐滞在している基地はいくつもあります。
さながら
『世界最南端の人間居住地』
でしょうか。
ちなみに、2019年現在、最も極地に近い基地は、アメリカの「アムンゼン・スコット基地」で、南緯90度、南極点から100m未満の所にあります。冬季も100人以上が滞在しています。
下が氷の北極には基地はないので、ここの人たちが、世界で最も極地の近くで暮らしているといえます。人間て凄いですね。
のどかで静かな漁村、まさケロンにぴったりの都市だ!