「ライドシェア」って聞いたことありますか?
「カーシェア」なら知ってます?
どちらも、どこかへ自動車で出かける時、一人で一台の車にのって行くのはもったいないから、皆で効率よく一台の車を使おう!という主旨の取り組みです。
「カーシェア」は、車とカーポートがエリアの中にいくつかあり、事前登録してある市民が、必要な時に好きな場所から乗って、またどこかのカーポートに返す・・・というしくみです。市民どうしがマイカーをシェアしているような感じですね。
これに対して「ライドシェア」と呼ばれているのは、車でどこかへ出かける時、一人だけではもったいないので、同じ方向に行きたい誰かと“相乗り”していくことです。
欧米から始まったライドシェア文化
欧州では一般的な交通手段
相乗り文化は、欧米では広く一般的な習慣です。海外では、日本ほど隅々にまで公共交通が整備されてはおらず、企業が従業員に交通費を支給するという概念がほとんどありません。
欧米は、大都会以外では、日常の足は自動車という人が多く、中規模の都市と都市の間を通勤などの目的で車移動する人もたくさんいます。
そんな背景があり、バックパッカーといわれる節約旅行者がヒッチハイクで移動する習慣が、車文化の始まり頃から既にありました。
20世紀後半から「エコ」意識が高まり、ガソリン価格も高騰してきたことから、旅行時に限らず、普段の生活の中でも相乗りによって交通費をシェアしよう、という動きが自然に進みました。
多様な相乗り相手探しフォロー情報
ヒッチハイクについては、全く相手の素性がわからない人が、その場で合意して相乗りする形なので、時には犯罪被害が起きることもありました。アメリカでは、現在では、安全性への考慮から「ヒッチハイク禁止」になっている州がたくさんあります。
現在は、事前にお互いを確かめあって相乗りの相談をするパターンで相手を探すことが多いようです。
コミュニティの中の掲示板などに情報を張りだして、相手をみつける方法は昔から多く行われています。
インターネットの普及に伴い、マッチングサービスを行うサイトやスマホのアプリもでき、最近では広く利用されています。
行政がライドシェアを推奨している国の中には、相乗り相手をあっせんしてくれる民間の紹介所が主要都市にある所もあります。
日本でも始まったライドシェア
相乗り相手マッチングサイトの誕生
ヒッチハイク文化がほとんどなく、公共交通網が発展している日本では、車社会が浸透しても、見知らぬ他人同士のライドシェアはほとんど行われてきませんでした。
近年、外国人パックパッカー観光客が来るようになったり、エコや交通渋滞緩和の取組がいろいろ取り上げられるようになったりするうち、海外でのライドシェア事情について興味を示す人が出てきました。
そんな雰囲気の2007年、日本で初めてライドシェアを事業化したマッチングサイトが誕生しました。
事業化といっても、欧州の紹介所のように利用者から「紹介料」を取ることもなく、運営費はサイトの広告掲載料などで賄っているという、良心的なものです。
株式会社ターンタートルが運営する「のってこ!」がそれです。PCからも携帯からも利用できます。
若者に根付いてきた新しい共生文化
バブルの時代までは、日本の若者の志向は、経済的なゆとりや自由度をより満喫することを目指す雰囲気が強くありました。
高価な車を所有する、リッチな住宅に住む、などに憧れ、他人とは違うひとつ上のランクの物や環境を手に入れることが、幸せのステータスシンボルでもありました。
冷戦終了後、長引く不況や政治の保守化、年功序列型の安定した働き方の崩壊など、世の中の価値観が大きく変わる中、若い人たちの志向も、内向的、草食系、仲間依存型になっていったと言われています。
かつては、下宿や炊事場共同アパートなど、他者と住居空間を共有する生活は、貧乏の証のような感覚がありました。
21世紀になって、シェアハウスのようなライフスタイルが見直されています。異なる年代の人と職場の人間関係をそのまま伴ってプライベートタイムを過ごす、宴会や慰安旅行は、一時期無くす会社が続出しました。
が、近年の若者のニーズに合わせ、それらを復活させた会社も増えました。
そんな世の中の変化に乗って、ライドシェアのマッチングサイトも20代の若者を中心に、登録利用者が急速に増えていきました。
2015年現在、タクシーの相乗り者探し専用など、マッチングサイトも多種多様に増えています。
今後、ライドシェアは日本社会にどう広がるのか
大切なのは安全性・非営利性、そして助け合い精神とマナー
これまでライドシェア事業が順調に伸びてきたのは、時代の流れにのってニーズに合致しただけでなく、初めに事業化したターンタートル社のサービス姿勢が成功につながった面も大きかったと思われます。
登録者の個人情報と身元確認をしたかどうかを明確に表示したり、利用者の体験レポートや感想を積極的に開示したり、利用するひとに対するマナー啓発も丁寧に行っています。
事故やトラブルについての自己責任についての説明もきっちり行われており、初心者にもとっつきやすく、安心安全感を与えるサービスになったようです。
日本の法律では、いわゆる「白タク」行為は厳しく禁止されていますから、その辺の金銭の取決めについても詳しく注意されています。
あくまでも、乗せる人と乗せてもらう人との相互扶助精神と信頼を基盤とした「助け合いあっせん」に徹するサービスであることが、安心と成功のもとになっているとも言えます。
外国資本の参入と実験
日本でのライドシェア需要の高まりを見て、外国の事業者も参入の気配を見せています。
2015年2月、アメリカで営業タクシーやハイヤーの即時手配サービスを行っている会社が、日本でライドシェア事業を始めようとして、福岡で実験運用を始めました。
乗せる人と乗せてもらいたい人の情報をあっせんし、交渉は当人同士で行ってもらう従来のサービスから一歩進み、乗せてもらいたい人のニーズに応え、近くで走行中の乗せる人を手配する所まで調整あっせんする事業を目指しています。
新しい試みで、交渉事の面倒臭い世代の人たちにも利用者層が広がる可能性があるサービスと思われます。
が、実験段階で、ドライバー側に謝礼を支払ってしまったため、白タク営業と見なされ国交省から待ったをかけられた、と、最近報道されました。
今後、必要費用(ガソリン代、有料道路代金など)だけ支払う形に改め、実験は継続していくとのことなので、新形態のライドシェアが根付くかどうかは、まだ様子見段階です。
事業者が増えていくことの不安
事業者がいたずらに増えていくと、不備の多いものや、中には劣悪、悪徳な業者が入ってくる可能性もあるでしょう。
マナーのよくない利用者が出てきてトラブルになるケースも増えるかもしれません。
もとが「相互扶助精神」で成り立っているシステムであるだけに、利用者の意識に依存する部分が大きい面もあるでしょうが、国としての規制などにより不安な面をカバーしていくことは、今後の課題でしょう。
また、一方で、利用者層が広がることで、顧客減少が深刻なタクシー業界の営業妨害となる心配も一部に根強くあります。ニーズの棲み分けをどうアピールしていくかも課題かもしれません。
「旅は道連れ、世は情け」の国民性を大事にしよう
治安がよく、礼儀正しいと言われる日本、善意の助け合い文化の事業化が、そんな日本のいい面を残念なことにしてしまわないよう祈ります。21世紀の「旅は道連れ、世は情け」文化に期待して見守っていきましょう。
ライドシェアが普及すれば、車の数も減って渋滞が減るかも?