突然大きな金額が必要になる事態や、大事なものを失う大きなダメージに備えるため、また、老後に備える年金など、世の中には人生の様々な困難を乗り切る助けとなる「保険」が存在します。
保険のおかげで
「助かったぁ」
という思いをした人はたくさんいると思いますが、払った額よりずっと高額なまとまったお金が支給される場合も少なくないのに、保険屋さんはちゃんと儲けが出るようにできているって、考えてみるとすごい仕組みです。
保険とは、みんなの助け合い精神で成り立っている
1000人の村のはなし
保険会社のHPなどで、「保険のしくみ」について説明するのに、よく使われるたとえ話に、1000人の村とか100人の村とかの話があります。
村人の中の若くて貧しいとある夫婦の夫が突然死んでしまい、残された妻はあまりの貧しさのために葬式も出せませんでした。
村人1000人が1人1000円ずつお金を集め、合計100万円を妻に提供し、妻は無事に葬式をあげられました。
村長さんは、これから先も、急な葬儀の費用が払えない村人が出た時のために、村人みんなで毎年低額のお金を一律に出し合っていく方法を考えました。
だいたい毎年3件のお葬式が出るという統計があったので、1人3000円ずつ集め、村人の誰がいつ突然亡くなっても、そこから100万円が支給されるようになりました。
この村の葬式代の相互扶助のルールは、保険のしくみそのものです。
保険屋さんも加入者も「損した」気分にならないしくみ
この村のシステムを保険とすると、
- 毎年集められる3000円 = 「保険料」
- 死んでしまった時に支給される100万円 = 「保険金」
です。
保険料の計算には、実際に保険金を払う件数の予測が関係してきます。
事故や病気や死亡というのは、ひとりひとりの問題として見ると、いつ起きるか予測がつきませんが、大勢のまとまりで考えると、リスクの発生は一定の確率に収まっているものです。
確率に従って計算すれば、件数が予測でき、保険金の総額がわかります。
それに合わせて保険料を集めれば、足りなくなったり、保険屋さんが損をしたりはしません。
一年で3人死亡と予測して、それに合わせて足りなくならない保険のしくみを作ったので、村の葬式扶助はうまくいったのです。
一年間家族の誰も死ななかったら、払った保険料は無駄だったことになってしまいますが、もし支給される当事者になったら大きな支援となります。
そして、いつかは必ず自分の番がやってきます。
そういう、
「自分もいつか助けられる」
という思いがあるので、今困っている人を他の皆が助けることを、「損」と感じずに取り組めるのが保険です。
保険は
という、大勢による助け合い精神で成り立っているシステムといえます。
大勢じゃないユニーク保険は成り立つの?
個人単位の特別な保険
特に価値ある大事なものを消失、損壊した時のダメージ回復のために、人によっていろいろなものに保険をかけている場合があります。
- 超美人でセレブな有名人が、顔やバストに高額の保険をかけている。
- 男性がヒゲに保険をかけている。
- スポーツ選手が利き足に保険をかけている。
- 希少な美術品に盗難を含む損害保険をかけている。・・・・
ですが、「保険は助け合い」という観点からすると、ある程度たくさん人数がいないと成り立たないように思います。
その人だけの特別な保険を作って、保険会社は損しないのでしょうか?
個人特有の保険は、正確な給付の確率が求められないものも多く、実際の支払金と保険料を等しく計算することは難しいです。
そのため、他の保険に比べると高い保険料が課せられる場合が多く、また、満期の際に戻ってくるお金もほとんどない掛け捨ての形が多いです。
うんと大事なものであるほど、大事に保管・メンテナンスされていますから、実際に消失・損壊する確率はいたって低いです。
結局のところ、例え1点特注の保険でも、支払われる保険金(正確には、生命保険以外は「給付金」といいます)より、保険料のほうが多いようで、ちゃんと保険会社が損しないようにできています。
世界のオモシロ保険
変わった保険が多いことで有名(?)なイギリスでは、
- 「愛情保険」
- 「胸毛保険」
- 「宇宙人誘拐保険」
という商品が本当にあるそうです。
愛情保険とは、毎月5ポンド(約950円)の保険料で、夫婦が離婚することなく25年間連れ添っていたら、5000ポンドの給付金を受け取ることができる、という商品です。
これだと1/3以上の夫婦が満期に達したら。保険屋さんは大損してしまいそうです。
イギリスの離婚率はヨーロッパの中でも特に高いほうで、4~5割の夫婦が離婚するそうです。
本当にすぐ分かれそうな人たちがあえて保険に入るとは思えないので、契約者の離婚率はもっと低いだろうと思われます。
もし途中でヤバくなっても、保険の給付金がもらえるまで・・・と我慢するかもしれません。
それで25年も一緒にいれば、情が移ってもう別れられなくなる夫婦も多いでしょう。
この保険は、離婚率を下げるためにとられた政策じゃないか、という分析をする人もいます。
胸毛保険の給付率や実際の加入数のデータはよくわかりませんが、宇宙人誘拐保険は、給付の発生率の低さと証明の難しさからいって、保険屋さんボロ儲け商品ぽいですが・・・(笑)。
たぶん本当に加入する人は少ないのでしょう。
保険屋さんは、複数の様々な保険を扱っています。スタンダードな保険の加入者が大量にいる商品での利益をあげていて、突飛なものは宣伝や顧客サービスのための商品かもしれません。
ちなみに、中国にある愛情保険は、通常の生命保険等に付随する特典のような形になっていて、満期はたったの5年だそうです。これは完全にサービスでしょう。
保険屋さんが損しないわけ
建前上は儲けちゃいけない保険
変な保険や、顧客サービスのような保険商品を売ることができるのは、保険会社が普通の保険で安定的に利益をあげている企業だからです。
さて、それでは、普通の保険はどうやって儲けているのでしょうか。
最初の1000人の村の例だと、保険金の支払いを滞りなく行うだけで精一杯の計画でしたが、実際の保険屋さんは、従業員の給料ほか経費もかかっていますから、利益を出すしくみもちゃんと考えられています。
と、思う人もいるかもしれませんが、実はそこは微妙に違います。
保険料は、
保険会社が受取人に払うお金(給付金+満期返戻金)
と
運用コストの合計
と、
契約者全員が払い込むお金の合計
が、等しくなるように計算されるのが基本です。
形の上では利益を予め上乗せしているわけではありません。
これを保険の専門用語っぽくいうと「収支相等の原則」と呼ぶそうです。
保険の三利源
ただ、予測の誤差を考えて、ちょっと多めに給付金の計算がされています。
実際、予定より支払いが少ないことがほとんどで、その差額分が利益になっています。
これは専門用語で「危険差益(生命保険だと「死差益」)」といいます。
また、集められた保険料は保険屋さんによって、財テク運用されています。
積み立て貯金の利息分はあらかじめ保険料から割り引くように計算されています。
が、利率が予測より高くなる場合もあります。
この予定外の運用益は「利差益」と呼ばれる大きな収入源です。
もうひとつ、運用コストが予定より少なく済んだ場合の「費差益」も収入になります。
この三つの差益を「保険の三利源」と呼んでいます。
利源が安定していれば、保険屋さんの会社も損せず、安定的に運営し続けられます。
逆ザヤの時代の保険
しかし、今の時代、金利は低く、景気も一部以外はなかなか思うようには良くなってはいません。
給付の発生が少なく、コスト削減に成功しても、思っていたよりも財テクの利益が上げられず、むしろ運用損がでてしまう(これを「逆ザヤ」といいます)と、下手をすると保険屋さんが倒産する事態にもなってしまいます。
銀行の預金は銀行が倒産してもある程度保障される法律がありますが、保険の支給については保障されません。
バブル崩壊以後、実はこの「保険の逆ザヤ状態」が長く続き、保険会社の破たんを防ぐために、2003年に法律が改正されました。
簡単にいうと、
- 保険料が上がったり
- 給付金が少なくなったり
しました。
最近大企業近辺の景気はちょっと良くなってきたようですが、保険料がまた下がるような気配はさっぱりありません。
最近は、フィナンシャルプランナーと相談して保険の見直しなどの動きがとても盛んです。
皆が安心して「損した」感なく保険で助け合うのが、今はちょっと難しい時代なのです。
日本の保険屋さんも、「宇宙人誘拐保険」みたいなボロ儲け商品作ったほうがいいかもしれません。
・・・て、庶民のお財布が冷え込んでいますから、なおさら誰も入らないよなぁ・・・。
中国からミサイルが飛んでくる心配して法改正するよりも前に、危機迫っている問題があるんじゃないのかなぁ、と、思っている人は多分少なくありません。
給付金が高いからって安心できないよ〜。保険会社になにかあったときは保障されないかもだから注意!