ココナッツオイルって知っていますか?
実はここ5、6年くらい、世界中でブームなんですよ。
“認知症の治療に効果的だ”
という研究結果が発表されたことと、
“ミランダ・カーさんが愛用している”
との情報が、人気の火付け役だったようです。
2013年頃から、日本のマスコミでも相次いで取り上げられ、売り上げを伸ばしています。
ココナッツ収穫と猿の虐待の問題
申年を前に盛り上がった猿の悲劇騒動
2016年、アジア圏の多くの国では「申(さる)年」を迎えました。日本でも、2015年年末頃から猿に関するネタがメディアでも賑わっていました。
そんな中、ココナッツオイル愛用者が騒然となった「猿の悲劇」話がありました。
2015年10月、とあるwebサイトが、
「ココナッツオイルに隠された猿の悲しい現実」
というタイトルの記事を配信しました。要約すると、
という内容でした。
この記事は、キュレーションサイトでも紹介され、それを見た人が次々情報を拡散していきました。一時期、メーカーや輸入業者らに、次々と問い合わせが寄せられる騒ぎとなりました。
真相はどうやらデマ
生産・流通サイドは「そんなの聞いたことがない」と、情報の信憑性を否定しています。
実際タイ以外の国では商業生産現場で猿の利用は確認されていないそうです。
タイでは、確かに昔からサルを利用して収穫する文化があり、現在も観光客向けのショーとしてサルにココナッツを収穫させる芸を披露する所があります。が、やはり猿に収穫させているヤシ農園は確認できない、ということです。
ネット記事情報を伝えていく時の問題点
デマが広まった経過
ベジワールドの記事は、ネット情報を集めて書かれたものでした。元々はタイの新聞の記事だったようです。それを元にイギリスの新聞とアメリカのラジオネットワークが相次いで報道しました。
その後、それを受けて、世界的な動物保護団体が、世界の有名メーカーに問い合わせて猿を使っていないメーカーの一覧記事を上げています。
これら元記事の中には「タイ産の99%」という数字は出てきません。日本の記事では、最初は記者の感想や独自の見解にすぎなかった点が、断定的事実として強調される形に、拡散の度に少しずつ表現が発展していったと思われる点が、随所に見受けられます。
なぜデマが生まれてしまうのか
タイの新聞記事の思惑はわかりませんが、米英メディアやベジワールドは、決して陰謀の意図はなかったと思われます。記事とする際、より人目を引くよう、衝撃的なタイトルや写真を付けて強い書き方にするうち、だんだん尾ひれがついたのかもしれません。
ネットコンテンツもそうですが、記者の多くは、編集する人たちから「より読まれる記事」を求められます。時に、そのプレッシャーが誇大表現を生むこともあります。
そして、読者の中には、ショッキングなタイトルを見て、本文を良く読まずにデマ部分だけを拡散させてしまう人も、残念ながら少なくありません。
デマを拡散させないために
文言が独り歩きする大衆の情報伝達の特性を考え、発信側としては、デマ発展の危険性を慎重に考慮し、誠実に仕事をする姿勢が問われるところです。
また、情報を受ける側も、メディア(特にネット記事)にはそういう傾向がある点をいつも心の隅において情報を判断する「リテラシー」が求められます。内容が衝撃的なもの程、
と、拡散する前に一度立ち止まって考えてみることが大事です。
デマが含まれる記事やメディアを全否定することも問題
勘違いしてはいけないことは、デマに騙されないリテラシーとは、決して、怪しそうな記事やそれを発信するメディアを誹謗・中傷することではありません。
プロパガンダや詐欺などの意図で流されるデマもありますが、社会のために良かれと思う正義感が暴走してしまった結果であることも少なくありません。
細部のデータの真偽の叩き合いに興じて、一番大切な問題点を見失うことは危険です。それでは、問題の渦中で一番苦しんでいる人たちがなおざりにされてしまいます。
更に、彼らの苦しみまでデマと叩くようになれば、真実は曲げられ、新たな暴力や憎しみを生むことにもなります。
一番大事なことは何かを冷静に考えよう
今回の「猿の悲劇」の話で私たちが一番学ぶべきことは、
そういうことに気付くことではないでしょうか。
テレビショッピングなどで
「高品質な部分だけを選りすぐって作られた商品を格安なお値段で」
という売り文句を聞いたら、
「その陰で泣いている人(もしくは動物)がいるかもしれない」
と、ちょっと考えてみませんか。
私たちがもう少しだけ世界に関心を持ち、物事の本質を見ることができるようになれば、世界の悲劇の多くは救うことができる・・・そんなことを考える申年にしたいです。
物事の本質を見極める力って一番大切で難しいことだと思う。