5、6年前から、巷では「PCメガネ」とか「ブルーライトカットメガネ」と呼ばれるアイテムが流行っています。これは、波長の短い青色光を約半分カットするメガネです。
「液晶画面から出る青色光は目に悪い」という触れ込みで発売され、大ヒット商品となりました。
しかし、眼科医などから、
「目の健康に悪いという科学的実証はない」
との反論も相次ぎ、効果を疑問視する消費者もたくさんいます。
そもそも、“PCメガネは眼精疲労防止のために使うものではありません!”
例えばアメリカでは、LEDの専門家らがPCメガネの正しい使用知識の普及にも努めているようです。日本では、なぜかそこの情報が抜け落ち、
「ブルーライトは悪か、無実か」
を論ずるばかりの解説が圧倒的多数となっています。
体内時計をつかさどる時計遺伝子
iPhoneのナイトシフトモード
2016年春、アップルはiPhoneとiPadの最新OSに、「Night Shift」モードを追加すると発表しました。これは、GPS情報で現在地を特定し、正確な日の入り時刻に、自動的にLED液晶画面の光を暖色系に切り替える機能です。
液晶画面には、青色LEDが多く使われています。暖色系に切り替えるとは、この青色光を弱め、黄色系の光を強めるということです。
ではなぜ、日没後に青色光が弱い画面にする必要があるのでしょうか?
生物は光に反応して体内時計を毎日調整している
実は、生物の体内時計の調整に、青色光は深く関わっているのです。
人間の体内時計は、24時間と10分くらいの周期で一日のからだのリズムを刻んでいます。そのままだと、毎日10分ずつ遅れていってしまいます。そのため、毎朝太陽の光を浴びると、からだの中枢でリズムを制御している体内時計(中枢時計)を動かす「時計遺伝子」のスイッチが入り、新たな一日のリズムを刻み始めるようにできています。
一日のリズムを一度リセットするような働きをする、この時計遺伝子には、「ピリオド」という名前がついています。
ピリオドのスイッチを入れるのは、太陽光の中の青色光です。青色光を感じるアンテナは、目の網膜にある、「メラノプシン」というタンパク質でできている神経節細胞です。メラノプシンが青色光に応答すると、ピリオドのスイッチが入ります。
変な時間に強い青色光を見ると、体内時計が狂う
自然の中で暮らしていれば、太陽光が青色光の元ですが、人間は人工的に作られた強い光に囲まれて暮らしています。LED液晶画面から発せられる青色光でも、蛍光灯から発せられるものでも、まともに見ているとピリオドのスイッチが入ってしまう可能性が高いです。
夜間にスイッチが入ると、リズムの活動ピークの時間帯が変なタイミングできてしまい、体内時計がどんどん狂っていくことが懸念されます。体内時計が狂うと、がんや糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の発症リスクが高まることが、これまでにわかっています。
また、睡眠を誘発するホルモン「メラトニン」も、青色光に反応して分泌が抑えられるしくみになっています。朝の光で分泌が減少することですっきり目が覚め、日没後に暗くなると再び分泌量が増えてぐっすり眠れる、というわけです。
寝る前にスマホを見続けるなど、強い青色光を浴びることは、睡眠障害にもつながります。
これらの研究成果に基づき、夜間に余計な青色光を見ないようにするために開発されたのが、ブルーライトカットメガネなのです。
日本人の勘違いはなぜ起きた?
時計遺伝子とメラノプシンの発見から生まれたメガネ
生物が体内時計を持っていることは、昔から知られていましたが、時計遺伝子があることが発見されたのは、今から20年ほど前です。この発見により、体内時計の解析が急激に進んでいきました。
そして、2002年、メラノプシンの働く神経節細胞が発見されました。目から入る青色光が、体内時計の調整に関わっていることがわかり、欧米では、それ以降、夜勤の場合は照明の青色光を少なくするなどの配慮が提唱されるようになりました。ブルーライトカットメガネもそんな中で誕生したアイテムです。
欧米諸国よりはるかにハードな働き方を美徳のように感じる文化があった日本には、夜間勤務を軽減する機運は伝わりにくかったのかもしれません。必然的に、青色光と時計遺伝子の関係の情報もあまり普及しませんでした。
メガネ屋さんの戦略の功罪
そんな中、JINSとか、Zoffなどの大量生産安価販売メーカーが、ブルーライトカットメガネに着目しました。そして、
“液晶画面から目を護る”という目的の『PCメガネ』
として、製造販売を始めました。
いずれのメーカーも、
- “ブルーライトは、エネルギーの強い光で、長時間浴びると悪い影響がある”
- “PCなどの液晶画面からは多くのブルーライトが発生している”
- “目と健康を護るために、ブルーライトをカットするメガネが有効”
と盛んに謳っています。
危険を煽りつつ、「夜間用」というより、「PC用」といったほうが、たくさん売れますからね。
そして、眼科医も消費者も、まんまと乗せられ、ブルーライトは目にいいか悪いかの議論に終始することになったのです。
本当に一番大事なことは、メガネがある方がいいかどうかではなく、
“夜間に電気こうこうの部屋で、液晶画面見ながら夜更かしする生活は、危ない!”
と、みんなが自覚することです。
どうか皆さん正しくご理解を・・・。
がんばって起きてたい人はPCメガネかけないほうがいいってことだよね。・・・え?あぶない?