早春

「早春賦」はなぜ今も音楽の教科書に載り続けるのか?

Written by すずき大和

「早春賦」という歌をご存知ですか?

大正時代に子供のために作られた「唱歌」という歌の中のひとつです。

暦の上では春でも、まだ寒さ厳しく感じる季節の様子を描写しながら、暖かい春の日を待ちわびる人々の心が滲む歌詞は、

“自然を敬い、季節の移ろいに趣を感じる日本人の感覚に訴えかける歌だ”

と、世代を超えて多くの人に愛されているそうです。

文化庁と日本PTA全国協議会が選んだ「日本の歌百選」にも入っていて、今も中学生の音楽の教科書に載っています。

平たくいうと、大人が子供に受け継いでいってほしい歌のひとつ、とされています。

が、受け継ぐほうの子供の立場では、そんなに好かれているわけではないようです。

「だって、歌詞の意味がよくわからないし、昔風のメロディがたるいんだもん」

と、これはとある中学生がいっていた言葉です。

まあ、確かに今の子供たちが好きな歌とは随分違います。歌詞の意味なんて、彼らの親世代だってよくわからないかもしれません。

そんな古めかしいものを、なぜ今後も受け継いでいってほしいのでしょうか?



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唱歌に込められた大人の気持ち

早春賦の「賦」って何

賦の意味は、もともとは漢詩(中国語の韻文=詩のこと)の文体のことです。漢詩を詠むこと、詠まれた漢詩のことも指します。

早春賦は、漢詩ではありませんが、作詞者の吉丸一昌さんは、漢詩のようにリズミカルに言葉の響きが心地よい、七五調で言葉を並べて作った詩にこの字を当てました。

早春賦は、“早春の詩”という意味です。

音楽科の勉強のために作られた歌

唱歌は教科の名前です。

今の「音楽」のことで、その教材として作られた歌のこともそう呼びました。

音楽を学問として子供に教える、という文化は明治になって初めて日本に入ってきました。日本にもわらべ歌のようなものがたくさんありましたが、西洋音楽のような体系的な学問ではなかったので、初めは楽譜のある西洋の曲に日本語の歌詞を付けた歌を教材にしていました。

その後、日本人の手によってたくさんの唱歌が作られるようになりました。文部省が編纂した唱歌の作詞委員会代表だった吉丸さんが、その後、自作の詩に日本人の新進作曲家による曲をつけて新たに発表した唱歌のひとつが早春賦です。

当時の大人たちは、歌を通して、日本語の響きの美しさや、詩というシンプルな言葉体系で気持ちを表す豊かな表現力に触れながら、子供たちが日本の国を愛する心を育てていってくれることを願って唱歌を作りました。だから、当時の唱歌は日常の何気ない出来事や風景を歌ったものがとてもたくさんあります。

古めかしい言葉遣いには味がある?

文語体の言葉

昔の日本は話し言葉と書き言葉が大きく違う文化でした。例えば、侍が書いた手紙など

「○○○にて候(そうろう)」

なんていい回しになっているのを、時代劇などで見たり聞いたりしたことがあるでしょう。

明治になって、できるだけ話し言葉に近い文章を書くようにしよう、という運動が起きて、侍言葉のような形は国の公式文書からは姿を消しました。

が、書き言葉は、簡潔にわかりやすくまとめるいい回しが好まれ、

「~なり」「~けり」
「~ぞ」「~や」
「~ねば」「~ならむ」

などの形式が残りました。こういう書き言葉用の文章の形を「文語体」といいます。

現在、公式文書も口語文になりました。が、短く限られた言葉でシンプルに心情を表現する言葉の芸術「俳句」「短歌」などの分野では、文語体は今も多く活用されています。

七五調の文語体で書かれる文は、声に出して読むとリズムがとても心地よく、詩歌の味わいをより心に強く印象付ける効果があります。

「早春賦」はどんな歌?

というわけで、

  • 四季の風物を愛でる日本人の繊細な気持ちを表す
  • “シンプル・イズ・ベスト”な芸術センスを育む美しい文語体

の唱歌は、後世にも伝えていきたい美しい日本文化のひとつと考える人が多いのです。

早春賦の歌詞も、シンプルですが、そこから感じられる光景や心情は、とても深いものがあります。

文語体は、中学生や日本語を学ぶ外国人にはちょっと面倒臭いかもしれません。が、響きの気持ちよさを味わいながら、少しずつ慣れていくことで、だんだん興味と理解を深めていってくれるといいな、と、ひとりの大人として思います。

では、最後に口語訳付きで「早春賦」の歌詞をご紹介しましょう。

 春は名のみの 風の寒さや
(暦の上では春ですが、風はまだ寒いです)
谷の鶯 歌は思へ(え)ど
(谷に住む鶯も、そろそろ春のさえずりをしたいと思っているでしょう)
時にあらずと 声も立てず
(しかし、まだ時季が早いと判断して、鳴きません)

氷解け去り 葦は角(つの)ぐむ
(氷は解け去り、葦は芽が膨らんでいます)
さては時ぞと思う あやにく
(さあいよいよその時がきたかと思ったのに、あいにく)
今日もきのふ(う)も 雪の空
(今日も昨日も、雪空が続いています)

春と聞かねば 知らでありしを
(暦は春になったと聞かなければ、知らないでいたのに)
聞けば急(せ)かるる 胸の思ひ(い)を
(聞いてしまったら、早く本当に春にならないかと気が急いてしまう
ああこの胸の思いを)
 いかにせよとの この頃か
 (いったいどうやって晴らせというのか、まったくじれったいこの頃です)



まさケロンのひとこと

リズムが心地よすぎて最後まで聴く前に寝てしまったよ。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。