早春の候、寒さがようやく緩む季節、街を歩いていると、どこからともなく梅の花の香りがしてきて、ほっと心が和むことがあります。東洋では、厳寒の中、凛として咲く梅の花は、春を告げるおめでたい知らせの象徴です。
梅の木に止まっている鳥は「鶯」が正しいのか?
梅に止まる鳥は実は「メジロ」?
工芸品や日本画などでも、梅はよく使われるモチーフです。鶯(ウグイス)とセットになったデザインも多いですね。花の咲いた梅の小枝に薄緑色の綺麗な鳥が止まっている絵、あなたも見たことがあるでしょう。
写真もよく見ます。
が、しかし、実はこの写真の鳥は鶯ではありません。花の蜜を目当てに飛んでくるメジロです。
実際の鶯は、花の蜜は食べません。普段は藪や茂みの中に隠れている習性があり、めったに人目につかず、梅の木にくることはほとんどないでしょう。そのため、写真を撮りに行くと、「梅とメジロ」が写ります。が、緑色の鳥なので、鶯だと思い込んでいる人がとても多いようです。
では、
「梅に鶯は、本当は嘘?」
「昔の人はメジロを鶯だと勘違いしていた?」
と、思う人がいるかもしれません。が、それは違います。
「梅に鶯」はお約束の縁起ものデザイン
人間は、古今東西、運不運にまつわる迷信が大好き!です。21世紀は既に科学の時代になっていますが、今もなお、科学的根拠がない迷信とわかっていても、
「不吉(ふきつ)」といわれることは、できるだけ避けたい
「縁起がいい」といわれる方を、できるだけ選びたい
と、思うものです。これは文化に関わらず、世界共通の人情です。
日本でも、身近なものにいろいろポジティブな解釈をつけて
「縁起もの」
として、好んで近くに置こうとする文化が根強くあります。
昔から、縁起ものをモチーフにしたデザインは、美術・工芸品から建築や日用品まで、たくさん取り入れられてきました。
「梅に鶯」は、こうした縁起ものの取り合わせが定番化したデザインのひとつです。
どちらも春を告げるおめでたいものの代表として、モチーフにされています。メジロじゃダメなんです。そして、鶯が実際は梅に止まるかどうかなど、この際気にしなくていいのです。
日本人の縁起もの好きの心とセンスが生んだ吉祥デザイン
中国伝来の吉祥文様が、日本で更に発展
縁起ものにこだわるデザインの定番化は、もともと中国の伝統です。
- 長寿の象徴の鶴亀
- 多産の象徴の蓮
- 末広がりの扇
- 生命力の強い麻の葉
- 伝説の生き物、龍や麒麟・・・などなど
これらをデザインした図柄は
「吉祥文様」
と呼ばれ、日本にも伝わり、日本人のセンスで更にオリジナルに発展しました。
2種類以上の縁起物を組み合わせるデザインは、特に好まれ、掛け軸や屏風の絵や、欄間の彫刻、着物の柄などとして多用されました。中国では見られないオリジナルのものも次々出てきて定番化していきました。
「梅に鶯」も、日本人のセンスが生んだ吉祥図案といわれています。
縁起ものを取り合わせた吉祥画いろいろ
縁起ものの取り合わせの代表的なものは、花札の柄にも描かれています。
- 松に鶴
- 牡丹に蝶
- 紅葉に鹿
他にも、いろいろ思い出されます。
- 花菖蒲に鯉
- 猿に絵馬
- 波に千鳥
- 南天に雀
縁起のいいものをひとつでは満足できず、ダブルに重ねたがる日本人は、ちょっと欲張りなのかもしれないし、めでたいこと好きな明るい民族なのかもしれません。
何にしても、取り合わせの吉祥デザインには、日本人の平和や幸福を強く望む
「祈りの心」
が込められています。
迷信かもしれませんが、縁起担ぎの文化、これからも大切にしていきたい気がします。
とりあえず、「梅とメジロ」の写真やイラストを「梅と鶯」として拡散しないように気をつけよう・・・・。
ウグイスってなかなか見つけられないよね~。「梅と鶯」見れたら超ラッキーだと思うんだ。