「バラ色の人生」
という表現は、日本語だけでなく、英語やフランス語でも、幸福に満ち溢れた生き方をしている様子をいい表す時に使う言葉です。
華やかな印象を与えるビジュアルと、豊かで強い香りを持っている薔薇の花は、昔から、
- 幸福や成功などを象徴する
- 贅沢な装いや、美しさ・高貴さを演出する
ためのモチーフとして、利用されてきました。
花言葉は、ほとんどの世界で「愛」を表しています。
そんな薔薇の花が大好きな人はたくさんいます。
そして、そんな花だから、
「亡くなった大切な人にも、愛を込めて供えてあげたい」
と思う人だっているでしょう。
が、日本には、「薔薇は仏様に供えるのはNG」というマナーも存在しています。
薔薇は、仏様に手向けてはいけないのか
仏事のタブー
日本は、他の仏教国とは異なる特別な仏教信仰がある国です。もともと八百万(やおよろず)の神様を信仰する社会なのに、政治的な意図があって時の権力者などが民に強制した信仰だったこともあり、神仏ごちゃまぜな人がたくさんいます。
そして、現代では多くの人にとって、祝祭時は神教で、仏教はもっぱら
“葬儀と法事専門の宗教”
になっています。
そのため、
- 「仏事」とは「弔事」の意味
- ありがたいはずの仏様を連想するいろいろなことが、「縁起の悪いこと」扱いされる
という、考えてみると大変罰当たりな常識があります。
そうかと思うと、他の仏教国では全く問題ないことが、日本では「仏様に失礼」という理由でタブーとされているケースもいろいろあります。
「薔薇の花はNG」というのも、そんな日本独特の慣習です。
タブーの理由
薔薇の花自体に何か悪い意味があるわけではありません。教典や説法で、薔薇を悪いものとするような話もありません。それは、多くのお坊さんも認めています。
お釈迦さまは、決して供え物を指定することはさないませんでした。むしろ、どんなものでも(たとえ殺生した肉であれ)、
「お供えされたものはありがたくいただきなさい」
と教えの中で説かれています。
タブーは、人間のほうで、法要してくれるお坊さんや、葬儀などに参列してくれる人たちを気遣い、自粛していった結果生まれた習慣です。
- 殺生を嫌う宗教なので、トゲで手を傷つけ、血が出ることを避ける
- 彼岸の世界ではお供え物が何倍にも増えるので、香りや色がどぎついものは避ける
- 供え物は仏様の慈悲を表すので、毒やトゲのあるものは相応しくない
- 薔薇はタブーと信じている年配者などが不快になるのを避ける
検索してみると、仏教関係者やマナー指南者などが説いている理由はこんなところです。
大事なのは故人(仏様)を想う心
薔薇を供える人たちはたくさんいる
最近は、花屋さんが提供してくれるお墓参りや葬儀用のアレンジメントに、薔薇をあしらったものもいくつも見かけます。キリスト教国では、率先して棺桶やお墓に薔薇を入れる風習もあるので、仏教以外の法事を想定しているのかもしれませんが、仏壇の御供えや、お寺のお墓参り用に買っていく人も増えているそうです。
また、お坊さんが「絶対にダメ」とはっきり禁止することも、「非常識」と糾弾することも、まずありません。
と、故人や供える人が好きな花ならいいのではないか、というユルい姿勢が多いです。
しきたりに過剰にこだわる人たち
絶対にダメ派の人たちは、見ていると、どうも
“現状との兼ね合い” とか、
“理由の合理性” とかには目もくれず、
- 「しきたり」
- 「伝統」
- 「習慣」
を厳格に守ることに価値とアイデンティティを感じるタイプの人たちが多いようです。
そういう人には、
「お釈迦さまの実際の教えとは矛盾してますよ」とか
「香りがきついとダメなら、なんで菊は奨励されるんですか」とか
「直接トゲに触らない、花かごや花束でのお供えならいいのでは」
なんて、理屈を説いたところで、相手の怒りや不快感を増幅させてしまうだけです。
こちらが非難されるだけならまだしも、本気で
「仏様に申し訳ない」
「せっかくの厳粛でいい雰囲気の葬儀をぶち壊された」
と思われてしまうのだとしたら、悲しいことです。
そういう人や、そういう慣習の地域では「薔薇は避ける」という無難なオトナの対応も必要かもしれません。
その場状況と大切な人の気持ちを考えて柔軟に
- 仏壇や個人でのお墓参りには供えるけれど、葬儀や法事の時はやめる
- コミュニティ内の人間関係が濃い地域の法事では、やめておく
- 葬儀社が片付けるお供えならOK。お寺の人が片付けるお墓ではNG
などなど、独自の判断で対処している人も多いようです。
もしあなたが厳格派なら、そんなことも許しがたいかもしれませんが・・・。
遺族との今後の関係や、遺族とその周囲の人との干渉度合い、お寺さんや檀家さんの考え方などをよく考慮しながら、誰の気持ちを一番に尊重したらいいか考えて、選択することが、一番いいように思います。
- 亡くなった故人が喜ぶ
- 遺族の気持ちが癒される
- 近所や会社の人たちとうまくやる
- お釈迦さまの教えに忠実になる
あなたが重視するのはどこですか。
できれば、薔薇の花にもかわいそうなことにならない選択をしたいものです。
「しきたり」とか「伝統」とか守ってみんながハッピーになるならそうするけど、ほとんどの場合そうじゃないと思うんだよね。