七つの海はどこ?実は決まってない。世界共通のなんとなく表現

Written by すずき大和

日本では、ライオンを

「百獣の王」

と呼びます。世界中の肉食獣の中で一番強い、という意味を表すのに、“世界中全部”を100という数字で表しました。

また、江戸時代のお江戸の町は

「八百八町(はっぴゃくやちょう)」

といわれていますが、あれも、実際に808のエリアがあったわけではなく、“江戸中全部”がどれだけたくさんの町だったかを表す慣用表現です。

動物も江戸の町も、実際の総数はそれよりずっと多いです。100や808がどれを指すかは具体的に決まっているわけではありません。

そして、世界には“世界中の海”を表すのに

「七つの海」

という表現があります。

これも慣用表現なので、7つがどこかは、実はちゃんと決まっているわけではありません。

が、近代以前は、文化圏によって異なる具体的な七つの海の言説がありました。



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勢力圏を表していた「七つの海」

初めは「自分たちの世界の海」を表していた

ネットや文献を当たると、

“イギリスの作家ラドヤード・キップリング氏が1896年に発表した詩「七つの海(The Seven Seas)」で有名になった表現”

という解説が多く見られます。

確かに、現在世界で“なんとなく共通認識されている”七つの海を最初に提唱したのはこれでした。

が、それよりもっと前の時代から、それぞれの文化圏で

“自分たちの交易範囲が及んでいる地域全体”を七つの海に代表させた表現

は、既にありました。

ただ、一つの文化圏で通常行き来する航海範囲はまだとても狭かった昔は、地域や時代によって7つの内容は違っています。「7」という数で表現することにこだわったのは、7が西洋では古代から縁起のいい数字とされていたから、といわれています。

大航海時代前の「七つの海」

記録として残る最も古い七つの海は、2世紀、古代ローマの学者「プトレマイオス」が自らの地理学書で定義しています。

ローマ帝国の力が及んでいた範囲にアフリカの東側のインド洋がプラスされています。古代から中世のヨーロッパ人にとっては、アジアよりアフリカのほうへ興味が向いていたようです。

  • 地中海:ヨーロッパとアフリカの間の海
  • アドリア海:イタリア半島の東側の湾
  • 黒海:東ヨーロッパとトルコに囲まれた内陸湾
  • カスピ海:実は海とはつながっていません。実際は巨大な塩湖
  • 紅海:アラビア半島とアフリカ大陸の間の細長い湾
  • ペルシャ湾:今の石油産出国に囲まれている湾
  • インド洋:インドの南方の大洋

古代から中世にかけ、ジブラルタル海峡(スペインとモロッコの間の狭い所)から大西洋へ出ていく航路が発展してくると、アドリア海に変わって大西洋が入る七つになります。

以後、アジアとの交易が増えてきても七つは変わらず、アメリカ大陸が発見されるまでヨーロッパ人の「七つの海」はこのラインナップでした。

一方、中世のアラブ世界の七つの海は以下といわれていました。既に盛んな交易範囲が東南アジアから中国にまで及んでいたことがわかります。

  • 大西洋
  • 地中海
  • 紅海
  • ペルシャ湾
  • アラビア海:紅海とペルシャ湾から出てきた所、インドの西の海
  • ベンガル湾:インドと東南アジアの間の海
  • 南シナ海:大陸とシンガポール、インドネシア、フィリピンに囲まれた海

大航海時代の「七つの海」

世の中天動説から地動説に切り替わり、大西洋の果ては世界の終わりではなくアメリカ大陸だったことが発見されて以降、西洋文化の勢力が及ぶ海は全世界に広がり、「七つの海」も南北アメリカ大陸の間の海とその向こうの太平洋まで拡大されました。

丸い地球の北には極地があることも意識され、北極海まで加わっています。

  • 大西洋
  • 地中海
  • カリブ海
  • メキシコ湾
  • 太平洋
  • インド洋
  • 北極海

「世界中の海」になると、何か味気ない!?

現在の「七つの海」

20世紀の大きな戦争が終わると、世界は

“覇権国家を目指した勢力争い”の時代から

“国際協調・協力のもと、世界の平和を維持していく”時代に移行していきます。

近代の覇権国家に植民地にされた地域の独立が進み、制覇した海の範囲を自慢げに示す

「七つの海を股に掛けた・・・」

といういい方の威力や意味合いは、グローバル企業の競争の話になりました。

現在では、「七つの海」は、完全に地球全部の海を示す慣用表現となっています。

「百獣」「八百八町」と同じく、具体的に7つの海のことだけ意味しているわけではありません。

「世界の代表的な海の名前を思いつくままに7つあげて」といわれると、人によって、その時々によって、世界情勢に影響の大きいエリア(今だとペルシャ湾とか、南シナ海とか)が入った7つがだいたいあがってきます。

が、今までの慣習があるので、「どこでもいい」では落ち着かない人がたくさんいるようです。結局、キップリング氏が近代に提唱したものが、今も世界中で“なんとなく共通認識”になっているのです。どこかで公式に定めているわけではありません。

  • 大西洋
  • 太平洋
  • インド洋
  • 南極海
  • 北極海

実際は5つの大洋です。でも、“7”じゃないとアレなので、大西洋と太平洋をそれぞれ北と南にわけています。


「七つの海を股にかけて」権勢を誇った大航海時代に比べると、どうもワクワク感の沸きづらい並びですが・・・。

インターネットで瞬時に世界がつながってしまう時代、実際七つの海全部をいつも行き来している船なんて、宇宙を回るステーションくらいなんですけどね。

まさケロンのひとこと

今まで「七つの海」だったのが急に「五つの海」とかなっても違和感だらけでついていけないよね。なんとなくの共通認識ってけっこう大事かも。

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。