防災・減災

台風は人為的に制御できるか?気象コントロール技術と人類の未来

Written by すずき大和

日本列島、夏から秋にかけ、毎年のように台風の接近・上陸に伴う被害のニュースを見聞きします。昭和の頃に比べ、防災対策は格段に進んできたので、死者が何千人もでるような大きな被害はここ50年ほどありません。

が、遠くない将来、「昭和の三大台風」よりもはるかに大きな規模の「スーパー台風」が襲来する可能性もささやかれています。

これだけ科学が発展してきたのですから、気象をコントロールする技術開発が進んでもよさそうなもの、と考える人も多いでしょう。近未来SFでは、お天気コントローラーが星の気象を完全に制御している様子がよく描かれます。



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台風を人為的に消し去ることはできないのか?

世界の台風

台風というのは、熱帯の海水温の高い海上で生まれる「熱帯低気圧」が発達して大きな威力を持つようになったものです。世界中の熱帯地方の海で、同じ現象が起きています。

北太平洋の日付変更線の西側の海で発生した熱帯低気圧は「台風」と呼びます。それ以外の海で生まれた場合は、別の呼び名で呼ばれています。

  • アメリカに度々大きな被害をもたらすのは「ハリケーン」です。
  • 南半球の島国に被害をもたらすことが多いのは「サイクロン」です。

※以後、ハリケーンやサイクロンも含め、本文ではまとめて「台風」と表現します。

度重なる被害に疲弊し、台風そのものをアンダーコントロールにおくことは、世界中の科学者らが、昔から望んできたことではありました。

台風制御の実験

実際に、アメリカ合衆国では、政府の公式プロジェクトとして、1962年から1971年まで、ハリケーンを人為的にパワーダウンしようとする実験が行われていました。

「プロジェクト・ストームファリー」と呼ばれたこの計画は、ハリケーンの上空からヨウ化銀を撒くことで、熱帯低気圧の勢力を弱めようとするものでした。が、確実に制御できるまでに至らず、1983年にはプロジェクト終了となりました。

台風のパワーは、原水爆何個分にもなる、ともいわれます。それほどの巨大な自然の力を人間がコントロールできうるものなのか?現段階では、まだまだリスクの方がはるかに大きいといわざるを得ません。

ほんのわずかな条件の違いにより、進路や勢力が大きく左右されてしまう台風は、そのメカニズムについてまだ未解明な部分も多いです。制御しようとして人間が加えた力が、逆に大きな被害を生む方向に台風を発達させてしまう可能性も高いのです。

気象コントロール技術がもたらすもの

リスクの問題以外にも、台風制御には倫理的な問題があります。

誰のための何のためのコントロールか

台風は、貴重な恵みの雨を降らせ、強風が海水をかき混ぜることで、南の海の生態系が維持されている、という側面もあります。「台風はなくしてしまえばいい」とは一概にいえません。

また、もし、台風の進路を自由に変えられるようになったとして、

「ダムに大雨を降らせたいので台風に来てほしい」

「重要なイベント(オリンピックなど)のため、台風回避してほしい」

という要求が同時に発生したら、どちらを選ぶべきか、誰が判断するのでしょう。

また、ある国が自国の直撃を避けて台風の進路を変えた結果、他の国のほうに向かってしまったとしたら、その被害の責任は進路を変えた国にあるのでしょうか。

台風の方向を決めるのは、政治力のある方、経済力のある方のいうことに従うことになってしまうかもしれません。それでいいのでしょうか?

気象コントロールは兵器となる

かつてベトナム戦争の際、米軍の秘密プロジェクトとして、人為的に敵地に30日間以上雨を降らせたことがありました。(ポパイ作戦

気象コントロールが可能になると、人間は必ずそれを軍事利用します。敵対する国に台風が直撃するようにすれば、それは兵器です。

国際社会はそのことに気付き、1978年「気象兵器」の使用の一切を禁止する

『環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約』

を発効しました。

条約締結国は、気象兵器をあからさまに使うことはできません。しかし、台風被害が自然災害なのか、人為的な制御の結果なのか、制御されたとしたら誰が行ったのか、判明することは難しいかもしれません。

気象コントロール技術開発が行われている限り、諜報機関が秘密裡に作戦遂行したり、テロリストにその技術が利用されたりする危険性はつきまといます。

科学者の懸念

2015年、イギリスのガーディアン紙に、米国の気象専門家が、米国諜報機関が気象研究の資金提供を行っている事実を憂慮する記事が載りました。

表向きが平和利用ならば、気象制御の研究開発は条約違反にはなりません。しかし、多くの科学者たちは、新しい技術が軍事利用される可能性を懸念しています。

専門家らは、気象研究について、政府の機関等が秘密主義をやめて内容を世界にオープンにしていくことを求めています。しかし、それはテロリズムに技術を利用される危険も伴います。

かつて、「核」も、私たちの社会を未来へ大きく進展させる発明と歓迎されました。

しかし、核廃棄物の問題は未だに解決できず、原発事故の被害は回復不能な状態で、核抑止力があるのに、軍事的な対立はなくなっていません。

人類が気象コントロール技術を手に入れたら、未来は幸せになるのでしょうか?

まさケロンのひとこと

人が考えてるよりも地球は複雑にできてるだろうから、「気象コントロールできるようになったからやっちゃいました」っていうんじゃ、なにかとんでもないことが起こるような気がしてならない。。

masakeron-sorrow


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。