宗教

ポケモンは宗教に反する!?ヒンドゥー教にとってポケモンGOの何が問題なのか

Written by るーてるぼ

先日、インドの裁判所が

『ポケモンGOのインドにおける全面的禁止を求める通告』

をインド政府およびポケモンGOアプリ制作会社等に発したとの報道がありました。これはどういうことなのでしょうか? この問題を少し考察してみたいと思います。



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ポケモンの何が問題なのか?

まず、今回「ポケモンGO」のどのような点が問題になったか、という点を若干詳しく解説します。

そもそも「ポケモン」はイスラム世界では禁止されている

「ポケモン」が日本の外で様々な法的問題に直面するという事態は過去に何度も生じています。

有名なところでは、例えば2001年にサウジアラビアにおいてウラマー団体に

「ポケモンはイスラムに反している」

との宣言が出され、これ以来ポケモンはサウジアラビアを始めとする厳格な戒律を遵守する宗派が主流のイスラム世界では全面的に禁止されています。(ウラマーとは、イスラム法の権威者のことで、イスラム世界では最高裁判所判事のような役割を果たします)

これは、ポケモンの世界観が多神教的で、一部のポケモンが多神教的な「神」として扱われている点がイスラム的な一神教の世界観に対する「冒涜」であるとされたためです。

また、ポケモンが「進化」するという考えも、全ての被造物は神が創造したのであるという考えに基づき、進化論を否定する立場からイスラム教徒や一部のキリスト教との間で拒絶反応を引き起こしています。

ところが、インドは元来日本と同じ多神教文化を持つ国で、ヒンドゥー教は多神教そのものです。従って上述のイスラム教側のポケモン禁止令とは異なる背景がある、ということになります。

問題となったのはポケモンの「卵」

それでは多神教徒であるヒンドゥー教徒にとって何が問題だったのかというと、それはポケモンの「卵」である、と報道では伝えられています。

ポケモンGOでは特定地点において「卵」や「モンスターボール」を獲得することができるのですが、この特定地点は往々にして地図上で目印になるような大きな建物の周辺である場合が多くなっています。

従ってインドのような伝統的な風景を多く残す地域では、寺院や宗教施設の他には大きな建物がない為、宗教施設がポケモンGOのアイテム獲得地点になりやすいわけです。ところが、敬虔なヒンドゥー教徒の方々はこれを問題視しました。

というのも、「卵」というのは、多くのヒンドゥー教の宗派にとって口にしてはならない「不浄」な「動物性の食べ物」であり、従って神聖な宗教施設内に一切持ち込んではいけないものとされています。

その為、あくまでバーチャル世界の設定に過ぎないとはいえ、寺院において「卵」が獲得できるということそれ自体がヒンドゥー教に対する冒涜であるという苦情が市民から多数寄せられ、ついに裁判所が政府に対し通告するという事態になってしまった、というわけです。

本当に「卵」が問題なのだろうか?

それにしても、どうしてそこまで「卵」に対して抵抗があるのでしょうか?

そもそも、ポケモンの「卵」は明らかに食べ物ではないし、そういう設定は一切ありません。ポケモンの卵はあくまで新しいポケモンの命を宿した命の結晶であり、これを大切に温めて孵化させるのがポケモンのゲーム上でプレイヤーに与えられた唯一の選択肢です。

にも関わらず、菜食主義の原理に反するという理由でポケモンの「卵」を理由にポケモンGOの全面禁止を求めるというのは、どこか飛躍しすぎているに感じてしまいます。

これは私の個人的な見解ですが、もしかすると本当の問題は宗教感情に抵触しているという点そのものよりも、「ポケモンGO」に熱中する子供達に我慢ならない大人たちが世界中で不満を感じており、とにかくもっともらしい理由を見つけてポケモンGOを禁止にしたいという教育的パターナリズムが働いているという点なのではないでしょうか?

実際日本でも、初期の頃には「ポケモン」は様々な形でバッシングを受け、「ポリゴンショック」など一部放送禁止になったアニメなどの影響で、あらぬ風評被害に苦しんだ時期がありました。

現在でこそ「ポケモン」は日本を代表する世界に知られる日本発ポップカルチャーのひとつと認識されていますが、「ポケモン」に熱中する子供達に怪訝な表情を向ける親御さん達がいなくなったわけではありません。

またインドは日本以上に学歴が重視される学歴主義社会の一つであり、インドの親御さん達が非常に教育熱心であることはよく知られています。特にインドでは公用語は英語のため、英米への留学を目指す学生の数も桁違いに多く熾烈な競争が繰り広げられています。

一見すると「宗教」や「異文化に対する配慮」というありがちなカテゴリで理解されてしまいそうな事件ですが、このように考えてみると、実際には堅苦しい「伝統」よりもとにかく面白いことをやりたいという「こども心」と子供達が「貴重な時間」を「無駄」にしていることを嘆く「親心」の対立という側面もあるのかもしれないな、という気がしてきます。

まさケロンのひとこと

ポケモンやっていろんな大切なことを学べていければ解決するのかな?
でも熱中しまくって必要以上に時間を使い過ぎちゃうのはまずいよねやっぱ。。

masakeron-sorrow


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筆者情報

るーてるぼ

イギリス在住。田舎の風景が好きです。趣味は読書だなんてつまらないことを承知で趣味は読書ですと言ってみます。好きな本は、日本語なら徒然草と方丈記、中国語(漢文)なら荘子と肇論、英語ならMichael OakeshottとRobin Collingwood, フランス語ならAlexis de TocquevilleとMichel de Montaigne, ドイツ語ならCarl SchmittとEduard Moerikeあたりがストライクゾーンだと思っています。