イライラは注意力を散漫にします。暑い季節や忙しい年末など、人がイライラしやすい季節には、交通事故の発生件数が高まります。
しかし人は、全く意識していない危険に急に遭遇すると、不注意を顧みるより
「自分がいるのに気づかない相手が悪い。自分は不運だ」
と、咄嗟に思ってしまうところがあります。
日本には、そんな「他人のせい理論」が正当化されやすい事故というのもあるようです。
法律上も理論上も、被害者に落ち度がないのに、損害賠償を渋られたり、逆に修理費を請求されたりして揉めることが多いケースのひとつ、「ドア開放事故」の現状を見てみましょう。
停まっている車のドアが急に開いてぶつかってしまう事故
世界中で起きているドアリング事故
停まっている車のドアがいきなり開いて、横を走行中だった自転車やバイクが激突してしまう事故は、世界中で見られます。英語では、こういう事故のことを「ドアリング(dooring)」といいます。
自転車レーンの整備が進み、路駐可能な道が多い欧米先進国では、自転車が突っ込むより、路肩に停車して運転手がドアを開けた時に、横を通る車やバイクにぶつけてしまう事故が多いようです。
自転車が狭い車道の端を走らなければならない日本では、自転車が突っ込むケースが約7割となっています。
自転車大国オランダの事故防止教育
自転車大国オランダでは、自動車運転免許取得のための教育課程の中に、「ダッチリーチ」と呼ぶドアの開け方指南があります。
簡単にいうと、ドア側と反対の手を使って開けましょう、というものです。
必然的にからだをひねるようにして開けることになるため、後ろから近づくものを見落とすことが減ります。
ダッチリーチは10年以上前に導入され、以後、オランダのドアリング事故は激減しました。
車(強者)の利便性より自転車(弱者)の安全優先、という感覚が社会に根付いているお国柄がうかがえる話です。
ドア開放事故は突っ込む方の不注意?
運転席以外のドアが原因
自転車レーンがない、または車道と隣接する狭いレーンの日本では、路肩に停めた車を右から追い越す時より、信号待ちやタクシーのお客の降車の際に、左側を走行していた自転車(バイク)が、左ドアに激突する事故のほうが多くなっています。
つまり、同乗者らが安全確認せずにドアを開ける例が多いのです。
となると、ドライバーに教育するだけでは、日本の事故は半分も防げなそうです。
停まっている車のドアが開くのは当然?
この「運転者のせいじゃない」点は、車側の責任回避の言い訳にされることもあります。
特にタクシーの場合、
「タクシーがハザードランプをつけて停まったら、客の乗り降りは当然」
という主張をして、相手が事故の賠償などを渋られて困っている事例が時々あります。
道路交通法では、
“安全を確認しないで、ドアを開き、または車両から降りないようにし、及びその車両等に同乗している他の者がこれらの行為により交通の危険を生じさせないようにするため、必要な措置を講ずること”
と決められているので、同乗者のしたことでも責任は運転者にあります。タクシーだろうと、ハザードランプを出していようと、この義務は変わりません。
ドア開放事故の多くは100%車の責任になります。
車が人のせいにしようとする要因
事故なのに、警察に届けない人が多い
車が悪いことは、警察が入ればすぐにはっきりするのですが、自転車が突っ込むケースの多くで、事故の届け出をしない人が多いようです。
自転車は、狭い左側を走行する時は徐行(時速10km程度)していますから、ドアと衝突しても胸や腕の打撲など軽症で済む場合が多く、届けない人が多いようです。
子供の自転車だと
「ぼく、大丈夫?ちゃんと前見て走らないと危ないよ」
などといなされて終わっちゃうこともあるとか。
が、後から骨折しているとか頭を打っているとわかるケースもあり、自転車が壊れていることも多々あります。改めて相手に交渉すると、前述のように「突っ込んだ方が不注意」という理屈で責任を逃れようとする人も多いのです。
自転車安全教室の間違った教育
「ドア開放事故」で検索すると、株式会社ワーサルというところが行っている、小中学校での事故再現スタントによる安全教室動画がよく出てきます。
- 「車が前に止まったら、その前で何かが起きていると想像しなければなりませんでしたね」
- 「ドライバーさんによると、後ろから来る自転車は本当に見え難いんだそうです」
- 「車を止めてふとドアを開けると、もうすぐそこに自転車が迫っている・・・」
自転車側の注意を喚起しようという気持ちはわかりますが、これではまるでぶつかる自転車の方に注意義務があるように聞こえます。
「車を止めてふとドアを開ける」不注意さが一番悪いのに・・・。
他の会社の安全教室も似たように子供に教えているのなら、日本の安全感覚、ちょっとおかしくなっているような気がします。弱者の安全が最優先でインフラ整備を進めてきたオランダの感覚とはかけ離れすぎ・・・。
「迷惑をかける方(弱者)が配慮するべき」
みたいな考え方が社会に強まっているのだとしたら、恐ろしいことです。
ドア開放事故は、車側の不運なんかじゃありません。
信号待ちでもないただの渋滞中にドアを開ける車もいるからね〜。左折時の死角とは違うんだし、見え難くたってちゃんと確認すればいい話だよね。かといって、自転車がやりたい放題やりすぎてる場面も見かけるから、どっちも注意しなよー!