未来創造

光学迷彩/本当にあったら怖い、透明人間になれるテクノロジー

透明人間
Written by すずき大和

SFやファンタジーの世界では、人や物が透明になる科学や魔法がよく出てきます。

ハリー・ポッターやドラえもんが使うのは「透明マント」でした。

スタートレックでは、「遮蔽装置(しゃへいそうち)」で宇宙船がまるまる透明になってしまいました。

日本のSF漫画・攻殻機動隊では、この技術は「光学迷彩」と呼ばれました。今ではその名称が一般化しています。

魔法はもとより、近未来SFに見られる光学迷彩は、あくまでも空想上のお話のように聞こえます。

が、実は、21世紀の現在既に、複数のプロジェクトで開発研究が進んでいます。中には、実用化一歩手前くらいまできているものもあります。

いや、ひょっとすると、もう既に国家機密の諜報活動では実践で使われているのかも・・・・。



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次々と発表される不可視化テクノロジー

ナノサイズの透明マント完成

2015年9月17日、アメリカの科学雑誌サイエンスに、

“覆った物体が見えなくなってしまう極小サイズの「透明マント」がついに発明された”


という記事が掲載されました。

衝撃的事実を発表したのは、アメリカエネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所とカリフォルニア大学バークレー校の物理学者による共同研究チームです。

論文の主執筆者シャン・チャン教授(カリフォルニア大)によると、今回作成できたのは、80ナノメートルの膜状物質で、生物の細胞数個分という大きさにすぎませんが、理論上はもっと大きなものも作れるということです。

この皮膜の表面は、光を普通とは異なる方向に反射させるよう特殊加工されているため、これによって物体を覆い尽くしてしまうと、目で見ることができなくなってしまう(不可視化される)仕組みです。

マントというより、表面コーティングのような技術であり、どんな形のものにも対応して覆い尽くすタイプの物質の発明は、今回が初めてだそうです。

この膜で作った全身タイツを着ると、透明なまま、自由にいろいろなことができてしまいますね。まさに、透明人間の完成です。

ただし、実はまだ動く物体への適用段階まではいっていません。チャン教授は、将来的には解決できると話していますが、完全実用化まではまだ時間がかかりそうです。

隠れ身の術用アイテム「クワンタム・ステルス」

一方、米軍は民間企業の協力を仰いで、「透明人間スーツ」の運用を進めており、2015年5月には、18ヶ月後にはプロトタイプが試験される見込みであるという情報が出ています。

今最も優勢な協力企業はカナダのハイパーステルス・バイオテクノロジー社です。HPによると、彼らの手掛けている兵士用の光学迷彩は「クワンタム・ステルス」と呼ばれ、シート状のサンプルの実験画像がいくつか紹介されています。


写真を見る限りでは、布状のものでカバーすると、背景と一体化して見えるシロモノのようです。

なんだか忍者の隠れ身の術みたいに見えます。兵士の身体と装備を覆い隠すスーツになれば、これまた透明人間が出来上がるのでしょうか。

同社は、2006年に英物理学者のジョン・ペンドリー氏が提唱した人工物質「メタマテリアル」を使い、風景とほぼ完全に同化させるカモフラージュ効果を持つ段階まで完成させたようです。

メタマテリアルは、電磁波を利用して物体周囲の光を曲げる仕組みをもっており、電源を内蔵する必要があります。

米軍からは、雨や雪の中といった過酷な環境でも兵士の通常業務をこなすことが可能で、軽量、8時間以上稼働するものにする、という条件が出されており、それに見合うクオリティのスーツを開発中と見られます。

外からは見えるが中からは見えない光学迷彩装置

光の反射を変えることで見えなくする仕組みの光学迷彩は、外から見えなくなる一方、中からも外が見えない、というデメリットがあります。

皮膜の透明カバーリングも、メタマテリアルの透明スーツも、兵士の目や戦車のカメラ部分まで覆うことはできません。

軍事用に使う場合、敵に完全に気付かれずに作戦を遂行するためのカモフラージュとするならば、光学迷彩に完全に覆い尽くされた内側から、外の様子が見えるような装置が必要です。

2015年6月、日本の理化学研究所の研究チームが、

「外からは見えないけれど中からは見える“非対称”な光学迷彩を設計することは可能である」


という理論を発表しました。

要は、全部の光を曲げずに、格子状の隙間を透過する光を作る、という理論のようです。

透過率を変化させるメタマテリアルを開発することで実現可能、という方向性が示されました。

あくまでも理論実証の段階ですが、スタートレックのクリンゴン戦艦のような丸ごと遮蔽された戦闘機や戦車は、決して絵空事ではないようです。

映像投影型光学迷彩を作ったのは日本人

光を曲げることで見えなくする仕組みとは異なる光学迷彩テクノロジーもあります。

特殊な反射材によって表面加工された物体に、背景の映像を映し出すことで、物体が透けているように見せる方法は、「映像投影型」とか「カメレオン型」といわれます。

これは、日本のエンジニア稲見昌彦氏(慶應大教授)が開発した技術で、既にビジュアルアートや商業宣伝、医療分野など、さまざまな分野で実用化されています。

が、全ての方向から見て不自然でない立体映像の投影はまだ技術的に確立されておらず、どこから見ても透けているようにするのは困難です。

また、映像投影だとガラスのように「背景が透けて見える」ものになりますが、迷彩されるものを完全に「見えなくする」ことはできません。

軍事でも、砂漠や草原で戦車や兵士の迷彩に活用されていますが、あくまでも遠目にわかりにくくするだけで、皆さんが思う「透明人間」化とはちょっと違います。

透明人間の活用が必要なのはどんな時

後ろが透けて見える技術の貢献

映像投影型の光学迷彩は、物を透けて見えるようにすることで、様々な場面で、利便性や安全性を上げることに利用されています。

車の後部座席に車体後方の画像を投影し、車体後部が透明に透けて見える感覚でバックすることができるようにする実験も行われています。これなら、楽に失敗なく車庫入れできるようになります。

コンピューター支援外科の分野では、手術中、執刀医の手袋に、隠れてしまう患部の映像を投影する試みを行っています。手が透明になれば、常に患部全体が見える感覚で手術できるようになるでしょう。

透明人間になれる技術は、社会に何をもたらすのか

では、いるはずの人を見えなくしてしまう技術は、どんなことに活用されるのでしょう。

もし、あなたが透明人間になれるとしたら、何をしたいですか?

ハリー・ポッターやのび太くんたちがそうしたように、多くの人の頭に浮かぶのは「いたずら」行為ではないでしょうか。

本当に透明マントが実用化されたならば、真っ先に犯罪者が使うのは間違いないでしょう。

実際、技術開発を進めているのは国家や軍という組織であり、実用化される分野はもっぱら軍事(と、諜報活動)です。

国防とか平和とかの理由がつけば正当化されるのかもしれませんが、要は、敵(他者)を欺いて自分らの目的を遂げるための手段です。

透明マント完成の暁には、その技術が軍事や諜報以外のことに使われることを防ぐことはできるのでしょうか。

国家権力が国民を不当に支配するために利用することはないのでしょうか。

ネットで、自分の正体を知られることなく匿名でなんでもいえるようになって、誰でも自分の意見を社会に向かって表現できるようになりました。

その反面、誹謗・中傷やデマ、偏見や差別を煽るプロパガンダなどが止め処なく溢れ、多くの人が傷つけあったり、偏った方向に扇動されたりすることが社会問題化しています。

ネットの外でも、誰にも気づかれずに行動できる自由を手にしたら、人は何をするのでしょう。知らないうちに、透明人間が隣でプライバシーを覗いているかもしれない・・・そんな心配が現実問題になる日は、遠い未来じゃありません。

まさケロンのひとこと

まさケロンはこのでっぱったお腹を少しだけ透明化するよん。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。