健康・医療の豆知識

リンゴの細胞を使って人体パーツを再生した話の信憑性ってどう?

手のひらに乗せたりんご
Written by すずき大和

2016年6月半ば、下世話な話題で盛り上がることの多い書き込みサイトなどで、

「カナダの科学者が、リンゴに人間の細胞を移植して、人の耳を再生した」

という話が流れていました。

  • 話の出所が、デイリーメール(イギリスのタブロイド紙)
  • 成功したのは「マッドサイエンティスト」と呼ばれる変わり者科学者
  • 再生された耳の写真が、本当の人の耳には見えない(未完成状態?)


などの理由により、どの情報も詳細を伝えることなく、

「なんか胡散臭いな」

というマユツバネタのような揶揄とともに紹介されていました。

しかし、数日後、科学系コラムなどの掲載の多い比較的真面目なキュレーションサイトに、デイリーメールの翻訳記事が載りました。読んでみると、そんなにいい加減な話でもなさそうでした。

これは、結構真面目な「再生医療の未来の話」です。



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再生医療の問題と解決の方向

アンドリュー・ペリング准教授

耳の再生に成功した科学者は、決して怪しい疑似科学を扱っているような類の人ではなく、カナダ・オタワ大学でバイオテクノロジーの研究を行っているちゃんとした教授です。ちょっと発想が自由すぎる人のようで、これまでも他の科学者が思いもつかないような画期的な論文をいくつも発表してきました。

「バイオハッカー」と自称し、周囲からは確かに「マッドサイエンティスト」と呼ばれている「アンドリュー・ペリング教授」がその人です。

このたび、ペリング教授は、2016年5月、

“リンゴを使った人の細胞培養”

についての論文を学術論文サイト「PLOS ONE」に発表しました。

また、同時期、毎年カナダで開催される「TED」(世界的講演会:有名無名に関わらず、画期的なアイデアをもった人、斬新な活躍をする人が選ばれる)でもその研究結果のプレゼンテーションを行いました。


再生医療の現状の課題

“iPS細胞”や“STAP細胞”の話題が記憶に新しい日本人の多くは「再生医療」についての基礎知識はなんとなく認識していますね。

自分の細胞を使って臓器を再生し、それを移植できれば、他人の臓器を移植するよりも安全に確実に治療を進められます。しかし、現在研究が進められている(実用化はまだ)臓器再生法では、多くの複雑な工程が必要で、時間もかかり、何よりとてもお金がかかります。

ベリング教授は、“臓器の不足”“高額な費用”の問題を解決するために、安価で簡単に臓器再生する方法を開発することを目指しました。それが、リンゴを使った再生法でした。

リンゴから人間の耳がなぜできる?

再生医療に必要な要素

自分の細胞を培養して新たに臓器などのパーツを作るには、

  • 細胞
  • 足場材料
  • 細胞成長因子

の3つの要素が必要です。

人間の細胞は、それぞれ、骨になったり、筋肉になったり、皮膚になったり、爪になったり・・・・・と、役目が決まっています。絶えず新陳代謝を繰り返す中、分裂して新たな細胞が生まれ、増殖していきますが、皮膚の細胞が分裂増殖する途中で筋肉になってしまったりはしません。

が、中にはありとあらゆるバーツになることができる細胞(iPS細胞もそのひとつ)があり、臓器再生にはそういう細胞が使われます。

ただ、その細胞が増殖していくためには、それだけで放置してもだめで、その育つ場所となり、パーツのフレームとなるような足場(プラットホーム)が必要です。

従来は、検体による他人の臓器や、動物の臓器などが足場材料に使われてきましたが、お金や手続きがたくさん必要であるにも関わらず、いろいろ問題もありました。

そこで、ペリング教授は、

「植物の細胞を足場にできれば、もっと手軽に臓器再生が進む」

と考えたのです。

耳の形のリンゴの細胞の中身を人間の細胞にする?

具体的な方法は、人の耳の形に切り出したリンゴ片から一度細胞の中身をDNAもろとも全部抜き取り、細胞壁だけのフレームを作ります。そこに人の細胞を埋め込み、培養して、フレームいっぱいに細胞を増殖させます。

結果、みごとに人の耳を作り上げることに成功しました。


足場素材は、からだに入れても安全で、人間の細胞の中でも強い拒絶が起こらない親和性が求められます。また、実際に臓器を体内移植したのち、異物である足場材料部分は分解・吸収されることが望ましいそうです。

植物の細胞壁(セルロース)が本当に安全安心なプラットフォームになるかどうかは、まだ研究を深める必要があるでしょう。

今後の展望

ペリング教授は、この研究がいずれ医療現場で実用化されることを信じています。今後、安全が確立され、量産体制が整えば、再生パーツが人工パーツのように商品化されていく流れにもなるでしょう。

まあ、まだまだ課題は多く、そんなにすぐにリンゴ製耳が実用化するとは思えませんが、植物足場材料の開発は、実現すれば医療の可能性をまたひとつ大きく広げることになるでしょう。今後もペリング教授の研究チームの動向から目が離せません。

ペリング教授の研究チームのwebサイトでは、研究の進捗状況がわかります。TEDの講演動画(残念ながら日本語字幕はなし。英語字幕付き)も見られるので、ご興味ある人はチェックしてみてください。

まさケロンのひとこと

リンゴ製の耳が実用化されたときに「今まで聞こえてなかった音」まで聞こえたりして、前よりも耳がよくなったらもっといいよね。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。