普段あまりオシャレをしない友だちが、フォーマルな席にビシッとした格好をしてきた時、別の友だちが
と言いました。
どうやら言っている本人は、“とってもよく似合って別人みたい”という褒め言葉のつもりらしいです。
すると、言われた方は、今度は
と照れ臭そうに言いました。
これは、“自分にはこんな格好似合いませんよ”と謙遜しているようです。
「それ、どっちもことわざの使い方間違ってるから」
と言ってあげたら、二人ともキョトンという顔をしていました。
「え、何が違うの?」と思われてしまったのでしょうか・・・・。
最近、いろいろな場面で言葉の意味の変化が早まってきているのを感じます。
比喩の多いことわざは、解釈次第で違った意味に取ることもでき、元の意味を知らない人が思い込みや勘違いのまま広めてしまいやすい言葉です。
ネットで使えば、誰も指摘してくれないのに広まる範囲は広いですしね。そのうち、私の方が時代遅れになりそう??
その「例え」相手に対して失礼になってしまいますよ
違う意味で使う人がまだいる間は、新しい使い方には注意
言葉が世代によって異なる使われ方をされ、時代と共に意味が変化していくことは、人類の歴史の中では普通に起きてきたことなので、従来の意味にいつまでも固執しても仕方ない時もあります。
が、ネット市民の間だけでどんどん発展していく言葉が非ネットの場にはまだ浸透していなかったり、もともとの意味で受け取るととても失礼な意味になったりする場合は、一応、従来の使い方も知っておいて、使う場面や相手を選ぶ心使いはしたほうが良さそうです。
動物に例えることわざは、基本的に蔑視です
動物に関連することわざや慣用句はたくさんありますが、多くの場合、動物の特徴を過大に取り立てて引き合いに出しています。
ちょっと小馬鹿にしたようなニュアンスになるものが多いです。
「猿も木から落ちる」とか「河童の川流れ」のように、“達人”の例えであったとしても、人を動物に例えるというのは、基本的には敬意のある行いではないので、目上の人に対して面と向かって使うことはやめておきましょう。
例外は「鷹」と「獅子」くらいですかね。
「馬子にも衣装」と「豚に真珠」のもともとの意味
「馬子にも衣装」の「馬子」は“馬の子”じゃなくて“馬を引いている人”のことですが、
“たいしたことないものも、見かけを立派にするとそれなりに見える”
という意味です。
“見かけがとても良いですね”と言ってはいますが、“本来の姿はたいしたことないよ”と茶化すものなので、やはり褒めているわけではないのです。
「豚に真珠」は“似合っていない”という意味ではありません。
“価値がわからない人には、どんな良いものを与えても意味がない、無駄になる”
という意味です。
自分に例えて使うと謙遜しているともとれますが、“自分はこの衣装の価値はさっぱりわからない”と言っているようなものなので、それでは、褒めてくれた人の見立てにケチをつけてしまうことになります。
「豚に真珠」には同義語・類義語がいっぱい
「動物」+「有難いもの」のパターンいろいろ
「豚に真珠」は聖書の言葉に由来することわざです。新約聖書のマタイ伝に
「Cast not pearls before swine(真珠を豚に投げ与えてはならない)」
という言葉があり、そのまま英語のことわざとしても使われています。
この「動物に価値のあるものを与える」組み合わせは、東洋でも良く使われるパターンのようで、日本では「猫に小判」というのがあります。
地方によっては「犬に小判」の所もあります。「猫に石仏」「猫に胡桃をあずける」というのもありました。
中国に行くと、価値があるのは物だけでなく、“有難い言葉や話を聞かせること”を引き合いに出すものがたくさんあります。
「犬に論語」「兎に祭文」「牛に経文」「牛に対して琴を弾ず」・・・・・などなど、ちょっと調べると次々出てきました。
複数組み合わせて「犬に念仏猫に経」「牛に説法馬に銭」というのもありましたが、これは中国のことわざなのか、日本でアレンジされたものかよくわかりません。
「馬の耳に念仏」というのも古くから言われています。アレンジ版に「馬の目に銭」「豚に念仏」というのも見つかりました。
似ているけれど、ちょっと意味が違うもの
「馬の耳に念仏」と似たもので「馬耳東風」「馬の耳に風」という言葉もあります。
“どれだけ言ったところで、全然聞こうとしない”
“働きかけても、手ごたえを感じない”
という意味なので、「馬の耳に念仏」と同じような場面で使われる類義語といえます。
が、“価値のあるものがわからない”という蔑視の意味が含まれない所が大きく違います。
どちらを使うか迷ったら、「豚に真珠」に置き換えてみるといいでしょう。
置き換えてもおかしくなければ「馬の耳に念仏」のほうが合っています。
「馬耳東風」のほうは
- 「のれんに腕押し」
- 「ぬかに釘」
- 「カエルの面に小便」
と置き換えられます。
まとめ
この先、若い人たちの感性が意味や用法を変えていく可能性もありますが、とりあえず、現在のところは、ことわざの使われ方としてスタンダードな線は以下の通りです。
- 「豚に真珠」は服装などが似合っているかどうかを言う時に使う言葉ではない
- 「豚に真珠」は「馬子にも衣装」の反対語でもない
- 「豚に真珠」は“この人わかってないなぁ~”というニュアンスが含まれる
- 「豚に真珠」「猫に小判」「馬の耳に念仏」は同じ意味
- 「豚に真珠」等は、ちょっと愚痴りたくなる人の陰口に使う。本人の前ではNG
豚は中国や韓国ではとても縁起がいい動物とされていて、お祝もののモチーフとしても使われています。
が、やはり人に例えることわざ等では、あまり相手を尊敬する意味では使われません。
見た目の器量が悪い人やドン臭い人、嫌悪感を覚える人などを指して「ブタ」と言うのは、世界どこへいっても共通した文化でもあります。
ちなみに「豚もおだてりゃ木に登る」は朝鮮半島のことわざです。
豚さん、食材としては栄養価の高いお肉で、本当はとってもきれい好きな動物です。
古くから人間の家畜として共存してきたのに、ちょっぴり不憫かもしれません。
人間が決めつけてるだけで、本当は豚も真珠の価値を理解してるのかもしれないよ〜。