古生物・化石

4本足の蛇?進化の謎を解き明かす化石「ミッシングリンク」

Written by すずき大和

大古の海で地球初の生命が生まれた時、それはアメーバのような手も足も頭もない微生物でした。

長い長い年月の中、様々な環境に適応しながら、生物はより複雑で多様な形に進化していきました。

蛇は、そのシンプルな形だけから考えると、魚から爬虫類に進化したばかりの種のようなイメージがあります。

更に進化して手足が生えていったのがトカゲとなったと想像する人もいるでしょう。

しかし実際には、

「トカゲの手足が退化し、シンプルで機能的になったのが蛇」

ということがいろいろな研究でわかっています。



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蛇はどうして手足がなくなった?

トカゲから蛇へどうして進化した?

蛇がこの世に表れたのは、白亜紀の後期以降と推測されていますが、具体的にどんなトカゲ類からどんな環境に適応して蛇に進化したのかは、長年はっきりとはわかっていませんでした。

手足を使って生きていたトカゲ類から蛇に劇的に進化する途中の過程と思われる生物の化石があまり見つかっていなかったためです。

大きな進化の過程の生物の未発見の化石を

ミッシングリンク(“失われた鎖”の意)

と呼びます。

トカゲと蛇の間のミッシングリンクは、古生物学の謎のひとつでした。

最初は、オオトカゲの仲間が地面に潜って活動するようになり、その時手足が邪魔になってだんだん退化させていったのではないか、という仮説が立てられました。

が、2000年、

“蛇は海で生まれた”説

を唱える研究者が続きました。

20世紀末頃までに、ヨーロッパで蛇の祖先と思われるオオトカゲ類の化石がいろいろ発見されていましたが、みな浅い海に生息する海生爬虫類(ドリコサウルス類)だったので、泳ぎを効率的にするために手足を退化させていって蛇になったと考えられたのです。

ところが、今度は2004年に、なんと日本の石川県で、ヨーロッパで発見されていた海生爬虫類よりも3000万年も古い時代の新種のドリコサウルスの化石が発見されました。

そして、このドリコサウルスは陸上で生活していたと分析されました。

この発見の結果、

蛇の起源は海なのか?陸上なのか?

どちらが正しいのか混迷してしまいました。

忘れられていたミッシングリンク

その後、中東のイスラエルから、海洋生と見られる2本の小さな後ろ足がある蛇「パキラキス」が発見され、これぞミッシングリンクか!といわれ、海誕生説が有力になりました。

ところが、2012年7月、7000年前の蛇の化石標本を分析していたアメリカの研究チームが、「コニオフィス」と呼ばれていた古代の蛇の化石を詳しく分析した結果、この生物こそが最も原始的な蛇である、という論文を発表しました。

コニオフィスは蛇のような太く細長い身体とトカゲと良く似た頭部を持ち、小さな後ろ足が2本付いていました。

コニオフィスは陸上で生活し、穴を掘る習性があったと見られ、再び陸上説がクローズアップされました。

パキラキスの化石は9500万年前のもの、コニオフィスは7000万年前のものでしたが、一説によると、コニオフィスは9500万年よりもっと古い時代から生き続け、当時の“生きた化石”だったという説もあり、陸上誕生説が再び強く押されました。

実はこのコニオフィスが最初に発見されたのは、1890年のアメリカでした。

その後、1950年代にも新たな化石のかけらが発見されていましたが、なぜかこれまで誰も詳細を分析することなく放置されてきました。

なんと100年以上もの間、人類はトカゲから蛇への進化の謎を知る鍵となるミッシングリンクを手にしながら、ずっとそれに気づかずにきたのでした。

ついに発見!4本足の蛇の化石

2015年7月、新たな化石を発見

  • 海と陸の両方で足の退化が始まり、ウミヘビと陸上の蛇になっていったのか?
  • どちらかで前足2本が退化してから、もう一方の環境で生息する種類が生まれたのか?

この時点ではまだよくわかりませんでした。トカゲ類から2本足蛇に進化する間のミッシングリンクの発見が待たれました。

そして、ついに2015年7月、イギリスとドイツの研究者チームが、

“足が4本ついた蛇の化石”をブラジルで発見した!

という発表をしました。

「テトラポドフィス・アンプレクトゥス」と名付けられた新種の蛇の化石は、1億4600万から1億年前の地層から発見されました。

陸上で生活する爬虫類で、穴を掘って生活していたと推測されます。

そして、蛇の特徴である、長いからだで獲物を締め付け、丸のみにすることが可能な柔軟な胴体や顎の構造を持っていました。

これはパキラキスやコニオフィスには見られなかった特徴です。

前足が既に退化した種よりも以前に、まだ足を持ちながら、からだの作りがすでに蛇に進化した種が陸にいた、ということは、

「陸上のトカゲ類が地中で活動する過程で、より機能的に動けるように手足が退化した」

という説が裏付けられる強力な手がかりを得た、といえます。

テトラポドフィス・アンプレクトゥスの尾は、水生生物の特徴の平たい形とは異なっており、そのことからも、蛇が海洋生物から進化したのではないことがわかるそうです。

失われた鎖をつなげよう

ミッシングリンクとは、古生物学好きの人たちの間でいわれる俗称なので、学術的用語ではありません。

が、未知のルーツの過程をひとつひとつひも解いていく過程で、方向性を確信するための実証が発見されていくことをひとつひとつの鎖が繋がっていくことに例えるのは、非常に的を射た表現です。

  • モササウルス
  • ドリコサウルス
  • テトラポドフィス・アンプレクトゥス
  • パキラキス
  • コニオフィス
  • ヘビ

いずれも古代のオオトカゲ類から枝分かれしていった種であることは間違いありません。

大型のモササウルスとドリコサウルスは、恐竜と共に絶滅したと見られています。

その後のどの種が直接今の蛇へと繋がる進化だったのか・・・・まだ解明までには時間がかかりそうです。

いつか全てのミッシングリンクが繋がるかどうかはわかりません。

進化の細かい変化ごとの生物の化石が全て見つかっている種のほうが、ずっと少ないのです。

しかし、新たな化石の発見に一喜一憂しながら鎖をつないでいくことは、もうしばらく続いていくでしょう。

蛇の化石には、古代の謎のベールを一枚一枚剥いでいくような、わくわくするロマンが・・・・・感じられませんか?

まさケロンのひとこと

4本足の蛇・・・・移動に使ってたとしたら、今とは違う動き方してたのかな。
でも退化したってことは、ほとんど使わなかったんだろうね~。なんだか勿体無い!

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。