生活の豆知識 虫・昆虫

人類vs蚊 飽くなき闘い。今もなお最強アイテムは蚊取り線香

Written by すずき大和

2014年、新宿の代々木公園などで蚊に刺された人たちの多くがテング熱のウイルスに感染し、一時期公園の立ち入りが禁止されるような騒動になりました。

一冬こして再び蚊の活動が活発になる季節を迎えましたが、幸いにもウイルスを持った蚊が春まで生き延びてはいなかったようです。

蚊は、熱帯から温帯地域に世界中広く分布し、テング熱の他にもマラリヤ、フィラリア、脳炎など、様々な病気の媒介者となってきました。

生活圏内からの蚊の駆除のため、人間はいろいろな作戦を行使してきましたが、未だその闘いは続いています。

日本では、今では蚊を媒体とする深刻な伝染病はほとんどなくなったと思われていましたが、テング熱の件は、甘く見て油断しちゃいけないぞ、という警告となりました。



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明治の日本で生まれた渦巻きタイプの蚊取り線香

除虫菊との出会い

植物の中には、虫除け効果のある成分を含むものがあることは、古くから知られていました。

日本でも、カヤの木の葉、杉谷松の青葉などをいぶして、その煙で蚊を飼い払う風習がありました。

乾燥させた葉を器の中でいぶしているものを

「蚊遣火[かやりび]」

と呼んでいました。

蚊遣火は、大正初期まで、日常生活の一般的な風景の中にありました。

欧米では、蚊をよける効果の高い植物として、昔から

「白花虫除菊[しろばなむしよけぎく]」

という植物を使っていました。

明治維新を経て、日本に西洋の文化が急激に入ってきた時代、1886年にこの白花虫除菊の種が初めて日本に入ってきました。

東京衛生試験所薬草園で栽培し、葉を粉にしたところ、ハエやノミを寄せ付けない効果が認められました。

長い名前の花は通称で「除虫菊」と呼ばれるようになりました。

その後、和歌山県のみかん農家だった上山栄一郎さんがアメリカ人から手に入れた除虫菊の種の栽培を始めました。

そして、この葉を使って、効率的な虫除けの方法を研究し始めました。試行錯誤の末、コイル状の蚊取り線香を生み出しました。

上山さんは、「金鳥渦巻」として有名な蚊取り線香メーカー大日本除虫菊の創業者です。

120年たっても変わらず愛されている蚊取り線香

その後、蚊取り線香の効果は多くの人に認められ、拡散していきました。

科学の発展に伴い、除虫菊の中の何の成分虫除けに効果的なのかもだんだんわかるようになりました。

そして、虫除け成分と同じ効果の物質を人工的に作り出すこともできるようになり、今ではどこの蚊取り線香メーカーも、この人口合成された成分を主な原料として使用しています。

成分や製法は近代化されていきましたが、コイル状の蚊取り線香の製品の形態はほぼ120年前から変わっていません。

当時から既に完成度の高い虫除けアイテムであり、その効能と使い勝手の良さ、安全性や製法のシンプルさなどが、大いに評価され、愛され、使い続けられてきました。

蚊を媒体とする伝染病の多い東南アジアや欧米にも、輸出され、現地で生産されるようにもなっています。

アメリカでは

「モスキート・コイル」

と呼ばれ、もともと日本生まれの製品だということも知らない人が大勢いるくらい、一般的日常品として広まっています。

蚊取り線香にかなう空中揮散力のある虫除けはなし

金長の現社長さんも認める蚊取り線香の能力

こんなにも長期間にわたり、広く世界で愛用されているのにはわけがあります。

第一に、虫除け成分の揮散能力が、確実でとても高いことがあげられています。

金長の現在の社長さんのインタビュー記事によると、

電気式の香取マットや虫除けスプレーなどは、長時間同じ効力を発揮し続けることは難しいけれど、蚊取り線香は、燃え尽きて火が消えてしまうまで虫除け成分の空中揮散の濃度は変わらず続いている

そうです。

このような虫除けアイテムは、蚊取り線香以外にはありません。

また、平面的な形で、炎が燃えない不完全燃焼状態で長時間いぶされ続ける線香の形態にしたことで、安全管理がしやすく、火事の心配なく使いやすいことも、大きく支持されている点です。

立ち上る煙成分に身体に悪いものはなく、赤ちゃんや子どもがいる所でも安心して使えます。

電気が必要なく、火を付ければすぐ使えるので、屋外や、電気が完備されていないアジアの奥まった村などでも使えます。

安価で持ち運びもしやすいので、庶民層に広く広まりました。

これらの、効率性、利便性等は、日常品として愛される大事な要素でした。

癒しの効能が広がる21世紀の蚊取り線香

除虫菊成分の香りは、日本人には良い香りと感じる人が多いものですが、世界の中には東洋的な香りをあまり好まない人もいます。

日本でも若い人の中には、ちょっと古めかしい香りに感じる人もいます。

最近では、除虫菊の香りの代わりに、フローラルな香りなど、アロマテラピーブームに呼応するように、様々な癒し効果の香りづけがされている蚊取り線香も売りだされています。

一時は目にしなくなっていた、陶器製の蚊やり(蚊取り線香の入れ物)も、最近はまた人気復活し、ブタさんの形のものなど、手軽に手に入れられるようになってきました。

一方で、モダンで斬新なデザインの蚊やりが出てきたり、洋風の大皿食器などを蚊取り線香置きに転用する人などもいます。

インテリアとして、アロマテラピーとして、蚊取り線香がおしゃれに生活に取り入れられるようになっている傾向があります。

蚊取り線香使ってみませんか

原発事故以来、人々の省エネ関心もちょっと高まり、健康志向の高まりもあり、密室でガンガン冷房を利かせる生活から、窓を開けて外の風に当たる夕涼みの文化が見直される傾向もあります。

アウトドア好きの人もそうでない人も、蚊に刺されの悩みは、まだまだこれから先も続く人類の課題です。

「かゆかゆ~、イラッ!」という気分をちょっとでも軽減するために、可愛らしい蚊帳の中で、そっと煙たなびかせる、優しい蚊取り線香の香りを生活に取り入れ、あなたもぜひ、粋な癒しの夏を過ごしましょう。

まさケロンのひとこと

蚊取り線香ってなんだか落ち着くんだよね~。この文化は残したい。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。