かつて、「血液型別性格診断」が大ブームとなった時がありました。一時は、メディアがこぞって取り上げていましたが、今では
という見解が、世間一般にも広まりました。ただし、「科学的に解明されていないだけで、実際に違いはある」と信じる日本人は、他国に比べて物凄くたくさんいるそうです。
同じく、よくいわれている
「左脳が論理、右脳は直感、で物事を考える」
という左右の脳に関するトリビアも、科学的に証明されたことはありません。
左脳派・右脳派説はどうして生まれたのか
左脳と右脳の違いが拡大解釈されていった
70年代、アメリカの神経心理学者ロジャー・W・スペリーが左右の脳の働きの違いについて研究を行い、その研究論文によって1981年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
発表の内容は、簡単にいうと
「左脳が右半身、右脳が左半身を司る」
という大脳の働きの分化について証明したものです。
スペリー氏は、特定の思考がどちらかの脳だけで行われるかどうかについては断定していません。が、どうやらそこら辺が発展的に拡大解釈されてしまったようです。
19世紀に既に、脳に言語を話す・理解する働きをする領域(言語野)があることは発見されています。この言語野が左脳にある人が多いため、
というふうに推測した人がいて、それが広まるうちに、
「左脳は論理的思考をする」
「それに対して右脳は直感的・芸術的な発想をする」
という定説が出来上がってしまったと思われます。
人のタイプを左脳派と右脳派に分ける発想
性格診断の話題が大好きな日本では、
「論理的思考が強い人は、左脳で考える傾向がある人」
「直感が鋭い人、独創的な発想が湧く人は、右脳で考える傾向がある人」
と、人のタイプを「左脳派」「右脳派」に分類することが流行りました。
また、芸術センスや直感の鈍い人は、
と説かれ、「右脳トレーニング」の方法がいろいろと喧伝されました。
自分が左脳派か右脳派か知る方法についても、
- 手を組んだ時に左右どちらの親指が上になるかで、左脳派か右脳派がわかる
- 回転している人の影を見た時、右回り・左回り、どちらに見えるかでわかる
などの判断基準が、何の根拠も示されることもなく、まことしやかにウンチクとして情報拡散されています。
人はどちらかの脳だけを使って思考することはできない
左脳と右脳が別々に考えることはない
実際に、脳の観測実験では、
- 計算や理屈を考えている時は左脳の活動が活発になる
- 芸術を鑑賞している時は右脳の活動が活発になる
ということはわかっています。
しかし、論理的に考えている時も、芸術に感動している時も、左右どちらかの脳だけが働いている、ということはありません。考えるという作業は、常に脳内のたくさんの部分を使って行われています。考える内容によって、使われる部分やその割合の比率が違っているだけです。
“考える時の脳内の電気信号経路が、論理的思考の時は左脳で発生する割合が多い”
“感性を研ぎ澄まして感じている時は、右脳の割合が多い”
観測実験の結果が示しているのは、そういうメカニズムです。
理屈っぽい人も、芸術を鑑賞している時は右のほうが活発になり、芸術家肌の人も、計算を解く時は左側が活発に動きます。
“左脳で考える人は理屈屋になり、右脳で考える人は直感タイプになる”
というわけではないのです。
左右の脳の使い方の個人差はない
2013年、ついに、アメリカの神経科学者ジェフ・アンダーソンの研究チームから、
「人によって、左右どちらかの脳を多く使う・使わないという差は見られない」
という研究発表が出されました。
2年間に渡り、7~29歳の1011人の脳の神経活動を観察、7000以上の区域に分けた脳のMRI画像を解析し、左脳・右脳の機能に個人差があるかどうかを調べたものです。結果、「左脳・右脳の使い方が、得意不得意な分野と関係している」といえる証拠となるものは全く見つかりませんでした。
理屈屋になったり、直感派になったり、という性格の違い・個性は、脳の作りではなく、育った環境の違いなどの影響のほうが大きいかもしれません。
人はなかなか自分のせいにしない
“人は転ぶと坂のせいにする
坂がなければ石のせいにする
石がなければ靴のせいにする
人はなかなか自分のせいにしない”
というのは、ユダヤの有名な格言です。
日本人は、血液型別性格診断にせよ、左脳派・右脳派説にせよ、「性格を決める原因」説にどうも夢中になりやすいようです。もしかして、
という気持ちが無意識に働いているのかもしれません。
「私は〇型だから・・・」
「俺、左脳派だから・・・」
と、言い訳したい気持ち・・・ユダヤ人じゃなくてもちょっとわかります(笑)。
人のつくりはそんなに単純ではないってことかな?たぶんもっと複雑なんだろうな~。