食品廃棄禁止を目指す世界vs鮮度にこだわる日本の消費者

Written by すずき大和

2015年5月、フランスの国民議会が可決したある法律に、世界が注目しました。

それは、スーパーマーケットに対し、まだ食べられる食品を廃棄処分することを禁じ、売れ残り商品は慈善団体に寄付するか、飼料や肥料に転用することを義務付けるものでした。これからは、賞味期限が切れた食品でも、廃棄すると罰せられます。

先駆的、画期的な取り組みでしたが、フランス憲法評議会はこれに対して違憲判断を下しました。

が、しかし、いい出しっぺの地方議員や賛同する多くの市民による草の根運動が着実に支持を広げ、2016年2月、再度国民議会において全会一致で再可決されました。



スポンサーリンク

9人に1人が飢餓で苦しむ世界で食糧の1/3が廃棄される現実

膨大な食品ロスは世界的な問題

現在、世界で生産される食糧の1/3にあたる約13億トンが、先進国を中心に毎年廃棄されています。一方で、世界の別の地域では、およそ8億500万人(地球上の9人に1人)が飢餓で苦しんでいます。

まだ食べられるのに廃棄されてしまう食糧のことを

『食品ロス』

といいます。

地球規模で食糧需給が切迫する現在、食品ロスの削減は、国際的な課題となっています。

アメリカやEUでは、多方面からの取り組みアイデアが、各地で形になっています。フランス政府は「2025年までに食品廃棄量を半減させる」という目標を掲げ、レストランに対しても、廃棄規制の対策などが打ち出されています。

食品廃棄量世界一は日本

世界で最も多くの食品を廃棄している国は日本です。最新の統計では、年間1896万トンの廃棄量でした。これは、食糧輸入量の約1/3です。

少しでもロスを削減するため、

「フードバンク」

と呼ばれる、“ワケあり商品”を企業からの寄付で回収し生活困窮者らに配布する非営利活動が、NGOによって行われています。

また、地方自治体レベルで、ロス削減のキャンペーンを行う所も出ています。

が、国としては、これまで目立って対策が講じられることはありませんでした。

恵方巻のおかげで、日本でもちょっとだけ注目

たまたま2016年節分の夜、コンビニで大量の恵方巻が廃棄される様子を伝えるTwitter投稿が、ネット上で話題になりました。


フランスでの食品廃棄禁止法が5月に可決された時、一部ネットニュースにはなりましたが、社会の関心はあまり集まりませんでした。再可決の今回、恵方巻直後のタイムリーな話題となったことで、ようやく注目されたようです。

日本で廃棄量が多くなる背景

小売り現場の問題

恵方巻の話題の中で、

“小売り現場にノルマを押し付けることで売り上げの数字を増やす”

“現場での値引き対応や、売れ残りの無料配布を許さない”

等、コンビニのシステムの問題が指摘されていました。

ここには、食品ロスを削減することより、企業イメージや儲けを優先する経営サイドの意識の問題が垣間見えます。

フランスでも、ホームレスがやってくるのを嫌がり、売れ残り品に漂白剤をかけて捨てていたスーパーマーケットがありました。今回の法律は、それら故意に「食べられなくする」行為も禁止され、違反すれば罰せられます。

流通の3分の1ルール

日本では、小売り現場だけでなく、卸し業者やメーカー在庫の段階で、まだ賞味期限が何ヶ月も残っていながら廃棄される商品が膨大に出る、という特徴があります。

製造日から賞味期限までの期間を3分割し、

  • 小売りに納品する限度は1/3期間のものまで
  • 店頭販売は2/3期間のものまで

という暗黙のルールが一般化しており、それを過ぎると返品・廃棄が慣習となっています。

賞味期限1年の商品は、4ヶ月後にまだ卸し倉庫にあればメーカーに返品され、期限8ヶ月前でも廃棄されます。例えばイギリスでは、店頭の納品期限は賞味期間の3/4を過ぎるまでが普通です。日本の鮮度のこだわりは、世界基準では異常です。

より新しく最高品質のものだけ欲しがる消費者

異常な鮮度追及のもとは消費者意識にあります。買ってすぐに食べる場合も、賞味期限が短いものを避けて、より新しいものを選ぶ人がたくさんいます。

欧米では、例えば賞味期限2日の商品なら、1日で売り切れる分を1日1回ペースで補充するのが妥当です。が、日本のコンビニでは、1日に2回も3回も納品されます。常に出来立て商品を並べるのが“いいサービス”といわれます。

次の商品が来ても残っていた品は、隣に新しい商品がくればたぶんもう売れません。結局残って廃棄されます。そして輸送回数が増えるということは、それに伴うコストも増やします。それらはすべて商品の値段に反映されます。また、輸送が増えれば環境への負担や交通渋滞も増やしています。

それは、本当にお客さんのためになるサービスなのでしょうか?

限りある資源をみんなで分かち合う社会とは

人間は、弱い者も強い者も取り込んで、助け合って社会を作ることで生き延びてきました。みんなが幸せになれる道を目指すことは、往々にして自分も安心安全に暮らせる社会を作ることになります。

もしかして、

「無駄なく、みんなが美味しいものを食べられるように」

と、心から思えたら

「後から来る人のために、新しいのをとっておいてあげよう」

と、自然に古いものを選べるのかもしれません。

それは“損する”ことなのでしょうか。

過剰な鮮度の追及によって得られる幸せって何なのか、改めて考えさせられます。

まさケロンのひとこと

人を一人救うことが後の世界を救うことになるんじゃないのかなって思うんだよね。

masakeron-normal


スポンサーリンク

あなたにオススメの記事&広告

筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。