2月、冬休みと春休みの間のこの季節、日本の映画館では、子ども向け作品や大作のロードショーがぐっと減り、興行的にはちょっと地味になる季節です。
が、2016年の2月は、アカデミー賞7部門にノミネートされたSFファンタジー作品「オデッセイ」(2015年米)が、ぶっちぎりの興行成績を上げていました。火星に一人で取り残された宇宙飛行士が、生還するため奮闘するストーリーです。残念ながらオスカーは逃しましたが、3月になっても人気が落ちることなく、ロングランになりました。
って、今回は映画の話じゃありません。オデッセイの舞台となった『火星』の話です。
オデッセイで描かれる火星有人探査の真実味
オデッセイの科学的正確性
映画「オデッセイ」は、2011年に発表されたベストセラー小説が原作です。近未来SFですが、科学的正確性を期すため、丹念な調査が行われた上で創作されました。一例をあげるならば、作品内で、火星上で水を作るために使われた電気分解技術は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機でも実際に使用されているものだそうです。
映画化されるにあたり、そのNASAが全面協力することになり、設備や宇宙のビジュアルについて細かく情報提供やアドバイスが入りました。
監修担当NASAの博士のお話
火星での描写等を監修したのは、NASAの惑星科学部門の責任者ジェームズ・グリーン博士です。2016年3月に東京工業大学地球生命研究所の招きで来日し、映画と実際の火星の違いや、将来の有人火星探査計画について講演されました。
博士によると、映画での有人探査の様子は、実際の計画とかなり似ているそうです。一方で、火星の気象の描かれ方は、(映画の都合上)違う部分もあることが語られました。
物語のプロローグ、主人公は任務中に猛烈な砂嵐で吹き飛ばされますが、本当の火星では、気圧がとても低く、そんな強い砂嵐は起こらないのだそうです。実は原作発表直後から指摘されたことでしたが、ここのエピソードがないと物語が始まらないため、映画でも踏襲されました。
また、火星の夕暮れシーンでは、オレンジ色の夕焼け空が描かれていますが、実際の火星の夕暮れは、深い海の底のような暗めの“青色”をしているそうです。
映画「オデッセイ」のシーンより
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved
火星の空って本当は何色?
火星の夕焼けはマリンブルー
2015年5月に、今実際に探査中の
“火星無人探査機ローバー”(愛称「キュリオシティ」)
から、火星の夕日のカラー映像が送られてきたと、世界中でニュースになりました。
“火星の夕日は青い”
ということは、最近では多くの人に知られています。
夕焼けが赤く見えたり青く見えたりするワケ
地球の夕空が赤く見えるのは、太陽の光が大気圏の層を進む時、青い光は空気中の酸素や窒素の分子などの小さな粒にあたると拡散する、という性質に関係しています。
昼間の空は、拡散している青い光が青空として見えています。朝夕の太陽の光は、昼間より熱い大気の層を進んでくるため、青い光はすっかり拡散されて、赤い光だけ届くので、夕焼けも夕日も赤いのです。
火星の大気は、酸素や窒素の分子よりも大きな塵がたくさん浮かんでいます。大きな粒は、赤い光を拡散しやすいので、夕日は赤が飛んで青い光だけが届く、とずっと考えられてきました。キュリオシティのカラー写真は、それを証明したのです。
昼間の空は赤いのか?
昼間は逆に、大気中に拡散されている赤い光のせいで、空は赤く見える、と考えられてきました。
人類が初めて火星に無人探査機を送った1970年代、探査機のカメラはまだカラー写真が撮れなかったので、NASAは画像から色の波長を分析し、「実際の風景はこう見える」と予測して着色した写真を発表しました。それを見て「火星の空は赤い」と、多くの人が信じてきました。
しかし、ネットを探すと見つかる“キュリオシティから送られてくる火星の写真”の中には、空がピンク色のものもありますが、まるで地球の風景のような色合いのものもあります。
NASAの発表する写真は修正されている
実は、データとして送られてくる実際の画像は、機械を通しているため、今も本当の見た目とは違うと考えられるので、やはりNASAが本物に近い色に修正して発表しています。修正のやり方は2通りあり、両方の写真が出回っています。
- 空がピンクの写真は、「自然」な見え方に校正したもの(ナチュラルカラー)
- 白っぽいまたは青空の写真は地球と同じ光で見た場合の推定(ホワイトバランス)
NASAのキュリオシティ公式サイトに、比較解説記事がありました。左から、未処理の写真・ナチュラルカラー・ホワイトバランスとなっています。
本当の色はキュリオシティにもわからない!?
ナチュラルカラーを見てわかるとおり、NASAはやはり
「昼間の空は赤っぽい」
と考えています。
しかし、夕暮れの青空がとても暗く見えるので、昼間拡散されている光は赤だけではなく青もある、と考える人の中には、
「昼の空はピンクではない」
という意見も出ています。
火星は地球より太陽から遠く、届いている光も少ないので、地球とは色の見え方が違うのは確かです。データの写真は、キュリオシティの目に映る火星ですが、人間が本当に火星の上に立った時、どんな色の空が見えるのか、真実を断定するのは難しいのです。
あなたは、火星の空、何色だと思いますか?
ほんとは「緑」だったりして。