世の中、学校では習わないけれど、“守らないと何かいわれてしまう”
- 「しきたり」
- 「慣習」
- 「マナー」
- 「常識」
というものがあります。
ネットのつぶやきなどを見ても、日常のちょっとした他人の所作について、「それ、なんか違う」とお小言のように突っ込む人が少なくありません。
突っ込みに対して、「本人がやりたいようにやればいい」などと反論する人も必ずいて、賛否が盛り上がることもしばしばおきます。
最近も、とある回転寿司店でのつぶやきを発端に
「握り寿司に醤油の小皿は必要か」
という議論が、ネットで起きていました。
握り寿司と「粋」の美学
醤油の付け方のこだわり
ここ10年くらいの間に、回転寿司チェーン店で醤油小皿の設置を取りやめる店舗が増えています。
「プッシュ式で一滴ずつ出せる醬油差し」の普及に伴い、「醤油はかける」式の食べ方が推奨されつつあるようです。
洗い物や醤油の消費量を減らすことで生産性を上げようとする企業の意図はわかります
一方で「小皿なしなんてありえない!」という人たちの反発意見が相次ぎ、
また一方で「そのほうが減塩できるし、食べやすい」などの反論の反論も出ています。
江戸前の握り寿司については食べ方にこだわりを持つ日本人は多いです。
- ネタではなくすし飯(シャリ)に醤油をつける
- ネタを剥がして醤油をつけてまた乗せて食べる
なんて無粋なことをすると、どれだけ嫌な顔をされるかわかりません。
- 醤油を醤油差しで直接上からかける
も、邪道と考える人が多いようで、回転寿司なればこそ許容されますが、いわゆる大将のいる寿司屋では絶対やっちゃダメなことのようです。
マナーには理由がある
大将の店では、職人さんがそのまま自分の寿司ゲタの上に握った寿司を置いてくれることが多いです。そこに醤油をかけてしまうと、次の握りが置けなくなってしまいます。
寿司桶に一人前を並べて提供される時もありますが、ネタによっては“漬け”“ツメ塗り”など味が付いているので、上から醤油をかけてそれらのものにも醤油が付くことを嫌がる人は多いです。
そもそも、従来の醤油差しだと下まで醤油が流れやすく、「シャリに醤油」というタブーに抵触してしまいます。ちなみに、タブーのワケは、シャリに醤油が付くと口に運ぶ途中で米粒がポロポロと崩れやすくなるからです。
より美味しく食べてもらうためには、小皿に醤油を出す方法が一番良かったのです。
「粋」も大事
食のマナーにはほとんど理由があります。長い時間をかけて定着した文化を大事にすることは、それなりに意味があるといえます。
が、理由を考えると、ネタごとに別々の小皿で提供され、プッシュ式醤油差しのある回転寿司なら、醤油をかけても美味しく食べられるように思います。それでも従来のマナーにこだわる人は、「粋」という和の美学を大事にしているのかもしれません。
寿司以外の和食のマナー気にしていますか?
箸を持ってからお椀のフチを持ち上げていませんか
ところで、寿司の醤油の付け方議論が盛り上がる一方、その他の和食の「粋」のこだわりについては、ほとんど突っ込まれない、という現象もあります。
一例として、箸やお椀の持ち方の適当さ加減があります。
食器は持ち上げないのが基本の韓国や中国と違い、日本はお椀を持って食べるので、それに合わせた美しい所作が定められています。
箸使いの作法は特に細かく、箸先が他の人のほうを向く所作はNGです。お椀の上げ下ろしの際は、箸を持たずに両手で行います。
“持つ時は、両手でお椀を持ちあげ、その次に箸を取る”
“置く時は、箸を先に置き、両手でお椀を卓におろす”
と、昔の親はうるさくしつけたようです。箸置きがあるのはそのためです。
TVの情報番組などでゲストが何か食べる様子を見ると、セレブといわれる人や料理研究家という人ですら、箸を先に持ってずっと持ちっぱなしの人が多いです。箸やお椀を持つ手の形も変なケースや、椀を卓に置いたまま韓国式に食べる人もいます。
また、「もりそば」の食べ方は、かつては江戸っ子の「粋」の象徴でした。そばざるのそばは、箸で手繰って短くまとめ、さっとつゆにつけるのが粋なんです。最近はそばを手繰れず、ざるとそばチョコの間にそばを橋渡ししている人が多いです。それ、あんまり美味しそうじゃないですよ。
無形文化遺産の和食文化どこまで守る?
ドラマで、良家の令嬢とか、戦前の日本人とかを演じる場合ですら、平気でお行儀が悪いとされる食事作法で撮られています。寿司にはあんなにうるさいのに、なぜそういう所は誰も突っ込まないんでしょう?
従来の和食のマナーは、今の時代は廃れてしまったのでしょうか??
例えば、歌舞伎役者さんとか、NHKの老舗料理番組担当のアナウンサーの人たちは、今も作法に沿った所作で食べているので、決してマナーがなくなっているわけではないと思われます。TVの製作サイドがそういうのに無頓着なだけで、TVの影響を受けて育った世代の人たちが準じているのでしょうか???
2013年、和食はユネスコ無形文化遺産に登録されました。食事の作法も含めて、総合的な和食文化の価値を評価されているものと思われます。回転寿司が小皿撤去で効率化を図るのは、安さのために必要だとしても、美しい所作を大事にする和のマナー、もうちょっと日常でも頓着してみませんか。
和食といえば「美しさ」だもんね。これがなきゃ無形文化遺産には登録されなかったと思う。