秋の話題

意外と紆余曲折!秋の七草は万葉からずっと続く風物詩じゃない

Written by すずき大和

日本には、「七草」と呼ばれる古くから伝わる春・秋の風物詩があります。

「七草がゆ」という歳時記の慣習から始まった春の七草に対して、秋の七草は、特別な行事や祭祀にあやかる習慣ではありません。秋の季節を深く堪能する代表的な花、と言い継がれてきたものです。

秋の花は他にもいろいろありますが、なぜこの7種なのでしょう?

由来としては、万葉集に納められていた「山上憶良」の歌があげられています。

が、しかし、語り継がれてきた過程では、ずっとこの7種の花で安定していたわけでもなく、そんなに有名な風物詩でもなかった時代もありました。



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秋の七草のもと/万葉集の連歌

万葉集と山上憶良

「万葉集(まんようしゅう)」は、日本最初の和歌集です。昔から飛鳥・奈良時代くらいまでの、偉い人から庶民の詠んだものまで、4500首余りの歌が載っています。

「山上憶良(やまのうえのおくら)」は、飛鳥時代の貴族の生まれで、元遣唐使です。帰国後は学識を認められ、天皇の教育係を務めました。万葉時代の有名知識人のひとりです。

偉い人ですが、社会の矛盾や民の視点に敏感な人で、社会的弱者の生活を鋭く観察した多くの歌を残しています。権力に近い位置にいながら、社会派詩人だったわけです。

憶良が残した連歌のひとつがこれです。

“秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
かき数ふれば 七種(ななくさ)の花”

訳:秋の野に咲いている花を、指折って数えれば、次の七種類が美しい

“萩(はぎ)の花
尾花(をばな)葛花(くずばな)
瞿麦(なでしこ)の花 
女郎花(をみなへし)
また藤袴(ふぢばかま)
朝貌(あさがほ)の花”

訳:ハギの花、ススキ、クズ、ナデシコの花、オミナエシ、またフジバカマ、キキョウの花

全国的に秋の七草が広まったのはずっと後

万葉集は長きに渡り、複数の人の手で編纂されました。最終的に、延暦2年(783年)に完成しました。

しかし、実際に万葉集が世に発表されたのは、9世紀に入ってからではないかといわれています。内容が評価され、セレブの間で話題になったのは平安時代後期、庶民に知られるようになるのは、世が安定した江戸時代以降です。

万葉の時代と江戸時代では、園芸植物の流行りはだいぶ変化していました。秋の代表的な花も、ちょっと感覚的にズレるものもありました。が、古代の生活文化についての詳細な記録はないため、誤解や理解困難な点もありました。

朝貌(あさがほ)の花とは?

アサガオは、奈良後期から平安初期に中国から伝わったヒルガオ属の花から品種改良され、広まりました。江戸時代の園芸種を代表する花のひとつです。

万葉の時代に日本の野山に自生種が見られたことは考えにくく、これはアサガオのことではないと考えられました。

最初、よく似た秋の花として、ムクゲのことではないか、といわれました。しかし、ムクゲも平安時代以降に朝鮮半島から入ってきた花だという説が濃厚になり、

“日本の在来種「キキョウ(桔梗)」のこと”

という説が今では一般的です。

戦後安定した秋の七草

コケた「新・秋の七草」

かつて中国大陸から、更に近代はヨーロッパや南米からもたくさんの植物が入ってきて、日本の園芸種は爆発的に増えました。万葉時代の七草は、開発により激減したものもあります。

昭和に入り、時の文人たちが集まって、1935年、現代にあった秋の代表品種を選んだ「新・秋の七草」を発表しました。

  • コスモス
  • キク
  • ハゲイトウ
  • ヒガンバナ
  • オシロイバナ
  • シュウカイドウ
  • イヌタデ

確かに、こっちの方が、現代の私たちには身近です。

しかし、これはほとんど根付かず、今ではほぼ忘れ去られてしまっています。

五七調の歌とセットで広まっている旧七草に比べ、語呂のいい覚え方が提唱されなかった点もちょっと痛かったのでしょう。

戦後再評価された憶良の歌

戦後活躍した、万葉文学研究の第一人者「伊藤博(いとうはく)」先生は、万葉集4500首全てにつき、新解釈も併せて解説を施した書を出しました。

秋の七草の連歌は、それまではただの風景描写と見られ、社会派詩人山上憶良の歌としては、実はそんなに文学的に高く評価されてはいませんでした。が、伊藤先生の新たな解釈により、そこには、

“庶民の子供たちと野山で触れ合いながら教え語る憶良の姿”

が見出されました。先生が着目したのは以下の点です。

  • 第一首で“指”を「および」と読ませたのは、
    単に七五調にするためではなく、
    あえて子供相手に話しかける言葉にした
  • 第二首の“また”は、
    5つめの女郎花まで指折り数えたところで、
    手を変えて6つ目を数えていることを表す

この新解釈は、弱者と共にあった山上憶良の日々を描写している、と、歌の再評価につながり、秋の七草の知名度を絶対的なものにしていきました。

秋の七草

そんなこんなで、今も尚、古代の日本の山里を飾った秋の七草が、風物詩として大事に語り継がれているのでした。

改めて、秋の七草はこんな花です。

1, ハギ

ハギ


2, ススキ(尾花)

ススキ


3, クズ

クズの花1


4, カワラナデシコ(瞿麦)

川原撫子


5, オミナエシ(女郎花)

オミナエシ


6, フジバカマ

フジバカマ


7, キキョウ(朝貌)

キキョウ


まさケロンのひとこと

秋の七草に今では超有名な秋の花が含まれてないのはなんでかなーと思ってたけど、そういうことだったのかー!!

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。