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人工冬眠/脳に冬眠スイッチがある!?日本の研究者が発見

Written by すずき大和

近未来SF作品では、到達するまでに何十年もかかる遥か彼方の宇宙へ行く宇宙船の中で、年を取らないように、乗組員はカプセル状の装置の中で低温仮死状態のまま時を過ごす、という描写がよく見られます。体が冷えた状態で、代謝や臓器の機能を実質的に停止させるので、SF世界では

コールドスリープ

と呼ばれています。これは和製英語・SF用語です。直訳すると「冷凍睡眠」となりますが、科学の世界では、冬眠(hibernation ハイバネーション)という単語を使って、

  • 人工冬眠
  • artificial hibernation(人為的冬眠)
  • induced hibernation(誘導冬眠)

という呼び方をしています。



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人工冬眠て何だ?

命を一時保存する医療技術

科学的に名称がちゃんとあるということは、フィクションの空想の産物ではなく、現実社会でも実現化の研究が進められているテクノロジーだということです。

ただし、研究の主要な目的は、宇宙旅行というより、救命医療の手段として、すでに半分実現化が進んでいます。

代謝と臓器機能が低下すると、エネルギーや酸素の消耗が少なくなります。大量に出血したり、呼吸が止まって酸素が行かなくなると、通常は脳や臓器の機能は見る見る低下し、死へと至りますが、消耗のスピード遅くなれば、その時間も引き伸ばすことになります。その間、緊急治療で損傷個所を修復する時間が稼げるのです。

アメリカではすでに2014年から、銃や刃物で深い傷を負って心停止状態の患者に対し、身体を冷やしながら血液をすっかり抜き、仮死状態にする臨床実験(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9103/)が行われています。致命傷を修復し、その後血液を体内に戻して心臓を再鼓動させ、体温を上げていくと、患者は身体の機能を取り戻していきます。

冬眠する動物は平熱をすごく下げて生きている

グリズリー


自然界には冬眠する動物はたくさんいます。冬眠中の彼らは、仮死状態というわけではありません。

時々起きて動いて餌を食べたりしていますが、気温の低下と共に標準体温をぐっと下げて保つことで、代謝を下げ、冬眠していない時より呼吸も脈拍も少なく超省エネで生きています。つまり平熱をすごく低温で保つように、身体の体温調節機能が働くようになるのです。

長期間の冬眠は可能なのか?

冬眠とは、ただ低温にして機能停止させるのではなく、自ら低体温状態を保ちながら生命維持機能を働かせ続けている状態です。アメリカの仮死状態にして治療する実験は、機能停止により死に至るまでの時間をちょっと稼ぐことはできても、長時間その状態で生き永らえることはできないので、厳密には冬眠とはいえません。

もし長期間の冬眠が可能になれば、治療方法がない病気の患者を人工冬眠させ、治療法が確立されるまで待つこともできるかもしれません。例えば、新型コロナウイルス感染症に罹患して急速に重篤化していく患者も、とりあえず冬眠させ、ワクチンが世界中に行きわたるまでの時間を稼ぐことができるでしょう。超遠距離宇宙旅行の可能性も、その延長線上にあります。

人工冬眠の実現化は、どれくらい進んでいる?

人間は冬眠状態になれるのか?

2006年に、神戸の六甲山で遭難したハイカーが、24日後に体温が22度に下がった状態で発見され、その後回復する、ということがありました。研究者たちは、この例から、人類も冬眠、すなわち低体温を保つことで食料や水や酸素が少なくても長期間生命を保てる身体になることが可能である、と考えています。

2017年、

宇宙開発企業Spacesworks社(米)が、乗組員の鼻からチューブを通して人為的に体温を33℃くらいに保ちながら、低栄養・低酸素でも数十日生きられる人工冬眠を交代で繰り返すことで、食料やライフラインの使用量を抑制しながら過ごすことを目指し、そのための動物実験を始める

というニュース(https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201702_post_12264/)が流れました。が、実用化に至ったという報はまだありません。

自ら低体温でも生命維持できるような身体に切り替えられないと、やはり長期の冬眠は難しそうです。

冬眠にはスイッチがある

冬眠動物が冬眠できる仕組みについては、実は未だにはっきりと解明されてはいません。冬眠動物で実験するのはとても難しいため、なかなか研究が進まないのです。

しかし、日本の理化学研究所の砂川玄志郎さんは、2016年、冬眠しない実験動物のマウスも、条件が揃うと一時的に低体温・低代謝状態の「休眠」をすることを発見します。研究を進めると、マウスの脳内に休眠状態になるためのスイッチがありそうなこともわかりました。

そして、2020年6月、ついに理化学研究所と筑波大学の共同研究(http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/202006110000-2.pdf)により、休眠に誘導できる神経回路があることが解明されました。

脳の一部の神経細胞群(Q神経)を興奮させることで、マウスは休眠状態になりました。
マウスより大型のラットでもこのQ神経を興奮させてみたところ、同じように安定して長期間低体温・低代謝になったそうです。

実現化の可能性

たくさんの時計


Q神経は哺乳類に多く認められ、人間もこれを刺激することで冬眠できる可能性が見えてきました。

長期冬眠が可能になるためには、更なる臨床実験が必要でしょう。冬眠中も健康を保つための様々な問題や、新たな倫理的議論もいろいろ生じるでしょう。しかし、技術は確実に進んでいます。

何百光年も離れた惑星へ、人類が移民する未来は、案外早く訪れる・・・かもしれません。

まさケロンのひとこと

これが実現したら、なんだか「時間」の感覚も変わってきそうだよね。

masakeron-surprised


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。