冬の話題

漢字の日に改めて見直す「揮毫[きごう]」の持つパワー

Written by すずき大和

12月12日は、日本漢字能力検定協会という団体が定めた

「漢字の日」

です。

毎年、京都清水寺の住職が奥の院舞台で「今年の漢字」を発表する光景は、すっかり年末の風物詩となっています。

なんでわざわざ清水寺なのかというと、たまたま漢字の日イベントが始まった当時(1995年)、日本漢字能力検定協会の理事を住職が務めていたことが、直接のきっかけではありますが、日本人は昔から筆で書かれる文字に対して、魂やご利益のようなスピリチュアルなパワーを感じてきました。

ここぞという時の大事な文言は、それなりに名の高い人などに頼んで筆で書いてもらうことで、その言葉の重みがより心に響くものとして認識され気合が入るとか、幸先よく運が開けるおまじない効果がでる、という何やら

「有難い付加価値」が付く(気がする?)

という風習を、我々日本人は持ってきました。

著名な人や書家の直筆の書には、美術的価値とはまた別の意味の特別な価値が認められ、お宝のように扱われて高値が付くこともしばしばです。書道には、芸術としてだけではない、東洋独特の精神文化が体現されています。



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「今年の漢字」は日本漢字能力検定協会のキャンペーン

特別に書かれる毛筆の書「揮毫」

筆で文字を書くこと、また書いた文字のことを固い言い方で

“揮毫[きごう]”

と言います。

漢字の意味そのままに読めば、「毫[ふで]を揮[ふる]う」という意味です。

なので、本来ならば、筆で書かれたものはすべて揮毫とも言えます。

が、わざわざ「揮毫」と表現する場合は、著名人や書家、偉い人などが、わざわざ依頼されて書くこと、書くものを指して言うことが多いです。

縁起かつぎとして尊ばれることもあり、とりわけ政治の世界などでは印字された文字よりも揮毫が好まれ、選挙の際にも多用されています。

名誉や記念を残すものとしても利用され、各省庁の入り口の看板(表札)は、歴代の大臣の揮毫によるものが多く見られます。

日本漢字能力検定協会のHPには、「今年の漢字」は

“最も応募数の多い漢字を12月12日(いい字一字)の「漢字の日」にちなんで、京都・清水寺で森清範貫主の揮毫により発表しています”

と書かれています。

日本漢字能力検定協会の目指すところ

日本漢字能力検定協会は、もともと民間の個人によって1975年に立ち上げられた任意団体で、漢字塾等で学んだ漢字マニアらの実力認定を客観的に行う

「漢字検定」

を実施していました。

やがて、漢字検定が学校や企業から技能を示す客観的評価のひとつとして広く認識されるようになってくると、文部省(現在の文部科学省)認定の検定試験制度となり、協会は改めてその実施団体として改組され、財団法人日本漢字能力検定協会になりました。

その後、省庁認定試験制度が廃止されたり、不祥事があったりしたため、文科省の後援はなくなりましたが、団体は幾度かの改組を経て2013年より公益財団法人となりました。

現在では、漢字能力のみならず、“社会生活に必要な日本語・漢字の能力を高め、広く日本語・漢字に対する尊重の念と認識を高める”ことを目的とした啓発・支援・調査・研究・育成活動を多角的に行っています。

広く認知され、愛されている「今年の漢字」

「今年の漢字」は、“漢字の持つすばらしさや奥深い意義を伝えるための啓発活動の一環”として行われています。

公益財団法人日本漢字能力検定協会の目的と意義をアピールするためのキャンペーンとも言えます。

その年の世相を表すと多くの市民の公募によって選ばれる一字は、その一年を振り返り、さまざまなことを回想するひとこととして、多くの場で取り上げられています。

漢字の日の発表イベントは、すでに広く国民から愛される年中行事といえるでしょう。

漢字の日にこめられる思い

「今年の漢字」の“お取り扱い”

揮毫に際して、色紙は福井県越前和紙が、筆は広島県熊野産「白天尾(白馬尾の毛だけで作った筆)」、墨は日本古来の伝統産業として今も職人技が受け継がれている奈良県産のものが使われています。

貫主(住職のこと)により大きく揮毫された後、ご本尊・清水型十一面千手観音像に奉納する儀式が行われます。

一文字の漢字が表す世相は、良いことも悪いことも含まれていますが、この儀式によって、一年の出来事が清められると共に、新年が明るい年になることを願い奉納されます。

揮毫された和紙は、毎年翌13日から大晦日の正午まで、本堂に設置され、一般の参拝者に公開されます。

今年は、「今年の漢字」20周年を記念して清水寺経堂にて開催されている「漢字が表す20年の世相展」で、26日金曜日まで、歴代20年分の「今年の漢字」揮毫の現物が展示されます。

その後、例年だと年明け2月頃から、日本漢字能力検定協会本部の建物の2階にある「漢検 漢字資料館」に収蔵・展示されますが、実は今年の秋から同資料館は閉館になっています。

2年後を目途に、収蔵資料の整備を行い、新たな展示物を追加した上で、リニューアルオープンされる予定だそうです。

漢字にこめられた深い思い

わざわざ仏に使える人に揮毫してもらい、観音様に奉納するのは、「今年の漢字」が単に漢字文化をアピールし、世相を表す風物詩として話題を集めるためだけではなく、社会への不安や人々の日々の苦難をもその漢字に込めて、それを清めることで翌年の世の中が良くなりますように、という

縁起担ぎの意味

があるわけです。

日本漢字能力検定協会HPの「今年の漢字」のページには、漢字の日の意義として、

“日本語の中核となる漢字が持つ奥深い意義を学ぶ機会を創出し、同時に日本文化への認識を深める日”

なんていう解説も載っています。

また、12月12日の語呂合わせ「いい字一字」の意味の中には、

“毎年「いい字」を少なくとも「一字」は覚えて欲しいという願いを込めています”

とも書かれています。

「漢字の日」及び「今年の漢字」には、日本漢字能力検定協会の並々ならぬ意欲と信念が盛り込まれているようです。

漢字のスピリチュアルなパワーとカッコよさは、近年西洋人の間でもブームとなっており、漢字の書かれたTシャツを着ている有名人や、漢字のタトゥーのクールな人たちの写真を目にする機会が増えています(たまにジョークのような文言も見かけますけど)。

また、「今年の漢字」を選ぶ習慣は、東アジアの他の漢字国へも広がっています。

例え一文字であっても、漢字ってやっぱりとっても奥深く、大きな力が秘められているような気がします。

さて、あなたは「今年の漢字」にどんな一文字が選ばれると思いますか。

まさケロンのひとこと

「今年の漢字」には良い意味と悪い意味が含まれてるよね。まさケロンは2005年に今年の漢字に選ばれた「愛」が好きだな~。

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。