一年の終わりのことを表わすのに、年末、歳末、暮れ・・・など、日本語にはいくつかの表現があります。
年末・歳末は字のまんま、「一年の終わり」という意味ですね。
暮れは「年の暮れ」を縮めた言い方で、暮れとは日没の頃の意味ですから、一年の終わりを一日の終わりに例えた表現です。
では「年の瀬」とはどういう意味でしょう?「瀬」って何?
最近の若い人たちはあまり使わない言葉だそうです。
かと言って、今更周りの年配者に改めて聞くのも何だかなぁ、という気もするし・・・という半端な年齢の大人の皆さん、ここでちょっと雑学を仕入れておきましょう。
職場の新人に不意に聞かれた時、さらっと解説して、大人の貫禄を見せてあげてください。
「瀬」は川の場所を表わす表現です
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢わむとぞ思ふ
年の瀬以外に「瀬」を単独で使う場合の例を考えたら、この有名な百人一首の歌が思い浮かぶ人は多いかもしれません。
「瀬」とは
川の水の流れが急になっている所のこと
を言います。
急といっても、深くて濁流になっているような場所ではなく、概ね歩いて渡れる深さの所でちょっと流れが早い辺りを指しています。
「浅瀬」「早瀬」などと使われることもあります。
“流れが急でも立てる所”なので、置かれている立場のやり場がなくなった時「立つ瀬がない」という表現もあります。
瀬は何かと出会う機会、機縁
「瀬をはやみ」の歌にあるように、瀬で早まった水の流れは、岩にぶつかって分かれることもありますが、いずれまたひとつに合流して穏やかな流れへと変じます。
基本的に川の流れは、
淵[ふち](浅く緩やかな流れ)に始まり、
とろ(深い淵)、
平瀬[ひらせ](多少波立つくらいの流れ)、
早瀬(急な流れ)
と変化し、再び淵に戻ることを繰り返して進むようになっています。
瀬は変化していく流れの中で、次のステップにいく直前の場所です。
そこから、人や物事に遭遇する機会や縁のような意味で「瀬」の字が使われることもあります。
「逢う瀬」「浮かぶ瀬」など、聞いたことがありますね。
それぞれ
“デート”
“苦境を脱するチャンス”
のことです。
年の瀬に流れが早くなっていくのは時間とお金
年末の慌ただしさを早まる流れに例えた
年の瀬の「瀬」も流れが急になっている状況の例えです。
年末になるとやることがいろいろ重なりますが、全て年内に片付けないといけないというタイムリミットがあります。
昔の日本の年明けは、気持ちも運気も年齢も刷新して、改めて前に進んで行こうと決意する門出の時です。
一年を無事乗り切ったことを喜んで、新たな一年の幸運を祈願するのがお正月の祝賀の意味です。
やらなければいけないことを先送りにしたままだと、あまり気持ちよく年を越せません。
なんとしても年内にきちんと済ませましょう、という風潮が、人々を追い立てました。そんな時間とやることに追われる様子が、水の流れが早まっていくことに例えられ、「年の瀬」という言い方がされるようになりました。
ここが頑張りどころ!掛け取りもなんとか乗り切ろう
また、年の瀬に激しく流れるものは時間だけでなく「お金」もありました。
年内のことは年内に!という風習は、商人にとっては「掛け取りも年内に済ませる」というのがノルマです。
昔はツケでものを買って後からお店の人が集金に回る、という仕組みが多く、日用品や常備食料の多くは掛け売りされていました。
つまり庶民にとっては、お歳暮や正月準備で出費がかさむだけでなく、一年分のツケ払いの決算時であり、右から左へ多額のお金が流れて行ってしまう時季でありました。
瀬は、川下りの舟にとっては難所です。
“無事に乗り切れるとほっとする場所”というニュアンスも「年の瀬」という表現には込められています。
まあ中には“無事やり過ごして乗り切っちゃえ”という人もいて、掛け取りから逃げる貧乏人の話がネタになっている落語なんかもありますね。
溜まった家賃を催促にくる大家さんや、掛け取りの商人は見なくなった現代ですが、皆さん、やはりいろいろな“借り”はできれば年内にちゃんと返しておきましょう。
年の瀬は、穏やかで明るい幸せな年を迎えるためのチャンスの時でもあるのです。
慌ただしい年末が「瀬」にたとえられて、「年の瀬」なんだね〜。お金も激しく流れていっちゃう・・・。