冬は空がきれいな季節です。昼は雲一つない青空が広がり、地平線に近い遠くの山並みまではっきり見えます。そして夜は、寒さと冷たさがひしひしと身に染みはしますが、天体観測向きの澄み切った星空が広がっています。
星座にそんなに興味のない人でも知っている「オリオン座」もよく見える季節です。
- オリオンの左の肩にある赤い一等星「ペテルギウス」
- オリオンが連れている猟犬の一匹、こいぬ座の白い「プロキオン」
- もう一匹、おおいぬ座の青い「シリウス」
を結んだ「冬の大三角形」を知っている人も多いでしょう。
えっ?星の名前までは知らないって?
でも「シリウス」っていうのは、聞いたことある名称じゃありませんか?
天を焼き焦がす孤高の青星
正義に燃えた熱い魔法使いシリウス・ブラック
シリウスと聞くと、ハリーポッターの名付け親の魔法使いを思い出す人も多いでしょう。ブラック家の子どもたちは、みな星の名前がついていました。
ハリーの父の親友だったシリウスは、悪に陥れられ、若き日の13年間を親友殺しの無実の罪を着せられて牢獄で過ごします。彼が、世間を恨んで絶望することなく、孤独と悪の誘惑にひとり向き合いながら、正義を貫き続けられたのは、そのまっすぐで濁りない強く激しい気性のせいでしょう。
訳者のあとがきでは、どの星よりも強く明るく寒さの中で輝く星、ギリシャ語で「焼き焦がすもの」という意味を持つシリウスは、「彼にとても相応しい名前」だと書いています。
らんらんと輝く狼の目
シリウスは中国では「天狼」と呼ばれます。青く強く輝く様子が、らんらんと光る狼の目に見えたのでしょうか。
シリウスは夜空に見える恒星の中で、もっとも明るい星です。見た目の明るさは、木星や金星などの惑星のほうが強いですが、ずっと場所を変えず、冬の澄んだ空でひとつ目立って、凛として輝いているシリウスは、古代文明の時代から、世界中の様々な文化の中で、特別な大事な星として扱われることが多くありました。
人類史の中で燦然と輝いてきたシリウス
夏を連れて来る星、肥沃な土壌をもたらす合図
冬の星座のおおいぬ座は、8月の終わりごろから見え初め、初夏の頃には見えなくなってしまいます。南ヨーロッパ辺りでは、明け方日の出直前にシリスウが昇るのが丁度夏至の頃です。大昔の人々は
と考えたといわれます。
そして、日没後にギリギリ西の空に沈むシリウスが最初に見えた日が、古代エジプトでは一年の始まりと定められていました。古代エジプト文明といえば、毎年のように氾濫するナイル川がもたらす肥沃な土壌によって、豊かな農業文化を花開かせた社会です。ちょうどシリウスが見える頃が、そのナイルの氾濫期でもあったのです。
鹿を追う弓の名手の王様
モンゴルでは、オリオン座のベルトにあたる三ツ星は、3頭の鹿の化身とされています。昔々、フラデイという名の王様がいて、彼は弓の名手として、草原の狩の先頭に立っていました。鹿はフラデイ王に追い詰められ、天に昇って星になってしまったのです。
そして、オリオン座を追いかけるように昇ってくるシリウスは、このフラデイ王の化身といわれています。王が放った矢が鹿に当たり、赤く血に染まった矢も星になります。それがペテルギウスだそうです。
強くかっこいいイメージで命名されるシリウス
夜空で一番目立ちながら燦々と強く光る様子にあやかって、「シリウス」は乗り物の名前になることも多いです。
- 北太平洋横断飛行をした冒険家リンド・バーグの水上機の名前がシリウス号でした。
- 大西洋横断に初めて成功したアイルランドの蒸気船もシリウスです。
- 英語圏では軍艦にシリウスと命名されることも多いです。
- 日本では、三菱自動車がエンジンの愛称に使っています。
- 東京と東北を結ぶ高速バスにもシリウス号があります。
シリウスで差をつけよう
2013年、アメリカの「ディスクロージャー・プロジェクト」という情報公開を求める団体が作成し、いろいろ世間を騒がせた映画がありました。
政府が隠ぺいしていた地球外生命体やフリーエネルギーの情報をバラすドキュメンタリー映画ですが、そのタイトルも「シリウス」でした。孤高に政府に立ち向かう姿を象徴しているのかもしれません。
日本では、青星と呼ばれていたシリウス、オリオン座や冬の大三角形にまつわる気の利いた神話などもあまりありませんが、そんなこんなの逸話でも良かったら“みんなの前でロマンチックに星のウンチクなど語りたくなる”呑み席のネタにでもしてください。
なんだろ、まず名前がかっこいいよね、「シリウス」。