日本は四季の変化が豊かな国です。
春・夏・秋・冬、それぞれの盛りの時季の光景も美しいものがありますが、季節と季節の変わり目の日々移ろっていく様子も、なかなか趣があるものです。
真夏や真冬は、猛暑や厳しい寒さが何日も続くことがよくありますが、秋や春は、徐々に涼しく、または暖かくなるだけではなく、暑い日と寒い日が短期間で繰り返すような陽気になる時期が、しばらく続きます。
季節の微細な変化に敏感な日本人は、早春の頃の“なかなかすぐにはなくならない寒さ”を表す言葉をたくさん持っています。それは、真冬の表現とも違うし、秋の残暑の表現よりもずっと豊かです。
春の初めの季節を表す言葉
暦の上の季節
世界中で、人々は、太陽の位置が季節の変化に直結していることを古代に発見しました。
- 最も太陽が空高くなる日(夏至)
- 最も低くなる日(冬至)
- その中間の太陽が真東から上って真西に沈む日(春分・秋分)
を、“季節のちょうど真ん中の日”と考えて、一年を四つの季節に分割しました。
古代中国では、季節の真ん中と真ん中の中間に、“季節の始まりの日(変わり目の日)”を決めたカレンダー「二十四節気」を作りました。
『立春』
『立夏』
『立秋』
『立冬』
約3か月ごとに訪れるこれらの節気が、始まりの日です。
中国の暦を輸入した、日本を含む東アジアの多くの国では、その季節の暦が今も社会に根付いています。
体感される季節感
暦の上の季節と、実際体感として認識する季節は、ちょっとズレがあります。
- 立夏は5月6日頃でも、若葉の季節の5月にやるのは「春の運動会」「春の遠足」
- 立秋は8月7日頃でも、夏休みの最中の8月は夏リゾートの本番
- 立冬は11月7日頃でも、紅葉の盛りの11月は秋の行楽シーズン
というノリが一般的です。
が、春だけは、2月4日の立春を過ぎると、まだ大雪が降るくらい寒いのに、
“もう冬じゃない”
という点を強調した表現をしないと、どうも格好がつかない雰囲気があります。
「早春」て、いつ?
日本では、1つの季節をさらに3段階に区切って
- “初(しょ)”
- “仲(ちゅう)”
- “晩(ばん)”
という呼び方をします。
こちらは、暦の上の季節ではなく、実際感じる季節感に沿って使うのが一般的です。体感季節だと、期間も1シーズン3か月と綺麗に分かれるわけではなく、前後の晩と初が重なることや、仲が長い季節もあります。
秋は
“初秋”
“仲秋”
“晩秋”
という表現でほぼ1か月ごとに割りふれます。
が、冬は、11月から12月半ばくらいが“初冬”ですが、1月になると、真冬を表す「寒(かん)」という表現も使う一方、“仲冬”ではなく
“初春(はつはる)”
“新春(しんしゅん)”
と呼ばれます。
そして、立春過ぎの2月は、“晩冬”とはあまりいいません。
かといって、“初春(しょしゅん)”ともいわず、
“早春”
という、春の始まりだけの特別な呼び方をします。
早春の頃の寒さはなんていう?
春の寒さは嬉しさ半分
暦の上どころか、正月明けから春モード挨拶が入ってくる春の始まりは、他の3シーズンより、本番の季節が始まる前の段階が長いわけです。
春本番のイメージというと暖かく穏やかで明るい“ふんわり柔らかい印象”でしょうか。
早春は、まだ暖房が必要なほど寒さ厳しく“縮こまってまだ硬いイメージ”です。
しかしながら、早春の寒さは、ぽかぽかの春がそこまで来ていることを予感させる寒さであり、寒い寒いといいながら、なんだかちょっと嬉しい気持ちも込もっています。
そんなウキウキしてくる気持ちの分、秋の初めの暑い日は「残暑」のひとことで片付けられるのとは対照的に、春の寒さ表現には多くの言葉が使われます。
早春の寒さの表現の正しい使い分け
1,『三寒四温(さんかんしおん)』
冒頭にも書いた、冬から春になるまでに、暖かい日と寒い日が数日サイクルで繰り返される、しばらく寒暖の差がしんどい時期(3~4月初め)の気候を、日本ではこう呼びます。
もともと中国の言葉で、冬の陽気を表すものでした。が、日本では、寒暖の差が激しくなるのは春先だったので、
“だんだん春が近づいてくるサイン”
という意味も含んで、この時季に使うようになりました。
2,『寒の戻り(かんのもどり)』
これは、単純に“春でも寒い日”のことのようで、
- 2月から使うと早過ぎないか
- 4月の寒い日にも使っておかしくないか
など、一瞬、使う時期に迷うこともあります。
“戻り”なので、一度暖かい日がきた後の寒さ、だいたい三寒四寒に入ってからの寒い日に、よく使われるようです。
桜が咲くと、もう早春とはいわず、春たけなわ(仲春)になりますが、4月や、場合によっては5月(晩春)に寒い日が来た時にも使えます。
3,『余寒(よかん)』『春寒(しゅんかん)』
立春直後の寒さについては、手紙の時候の挨拶(「○○の候」)や和歌では、このふたつがよく使われます。どちらも、早春の時季なら三寒四温になっても使ってOKですが、「余寒」のほうがより寒さ厳しい期間限定という傾向があります。
4,『花冷え(はなびえ)』
桜のシーズンの寒の戻りには、こんな言葉が風流です。
桜が遅い北海道では、ライラックのシーズンに寒が戻ると、
『リラ冷え』
が使われます。
この辺は、「ウキウキ」より「春はまだぁ」というじれる気持ちの方が強そうです。
寒さの表現の使い方、難しいんだけど、使いこなすと日本人らしい季節感をしっかり感じることができるよね。