5月の誕生石というと、「エメラルド!」と答える人が多いでしょう。
誕生石は、もともと各国の宝石業界が販売戦略のために制定したものなので、文化圏や国によって若干違っています。だいたい宝石の色などを季節感に反映させて定めています。
日本で普及しているのは、20世紀にアメリカの宝石商の団体が決めたものを基準に、1958年、全国宝石卸売商協同組合が制定したものです。
5月の誕生石をエメラルドに定めたのは、もとはアメリカです。
が、日本のオリジナル誕生石として、アメリカ版の一覧に、
- 3月のサンゴ
- 5月のヒスイ
が追加で加えられています。
ヒスイは、縄文時代から日本人の暮らしの中で利用されてきた、希少価値の高い宝石です。
2016年9月、そんなヒスイが、改めて、日本鉱物科学会という社団法人よって、
日本の石=「国石」
に制定されました。
2017年、国のシンボルとなって初めて迎える5月、産地や業界では、
「5月の誕生石は、ヒスイ!」
と、改めてアピールに熱を入れているようです。
ヒスイは、2種類ある
翡翠は中国名
ヒスイは漢字で書くと
「翡翠」
です。これは、中国語の表記からきました。
飛鳥時代、文字がなかった日本に中国から漢字が伝わりました。和語を漢文で書き表すようになり、いろいろなものの名前に中国の表記が転用され、和語の発音がその漢字の読み方となっていきました。
当時、中国で採れた翡翠は、日本やアメリカ大陸、ロシアなどで産出されるヒスイとは全く別の石でしたが、見た目は日本のヒスイとそっくりだったので、長い間同じ鉱物だと思われてきました。日本のヒスイの方が硬かったので、
- 日本のヒスイは「硬玉(こうぎょく)」
- 中国の翡翠は「軟玉(なんぎょく)」
と呼ばれました。
現在、路店などで安く売られているヒスイは、ほとんど中国から輸入された軟玉です。といっても、軟玉はみんな硬玉よりチープなわけではなく、中には高級品もあり、中国では高級軟玉は「和田玉」「羊脂玉」と呼ばれています。
ジェダイトとネフライト
1863年、フランスの鉱物学者ダモーラによって、
- 硬玉(英名jadeiteジェダイト)と
- 軟玉(英名nephriteネフライト)は、
別の鉱物であることがようやく科学的に証明されました。
以来、日本語でも、
- 硬玉を「ヒスイ輝石(キセキ)」または「本翡翠」
- 軟玉を「角閃石(カクセンセキ)」
と改めて呼び分けるようになりました。
(「翡翠」「ヒスイ」と表記する場合はまだ両方を含む場合が多いです)
日本の国石に制定されたのは、もちろんジェダイト=ヒスイ輝石です。
本当は宝石じゃない?
ちなみに世界基準の「宝石」の定義では、ジェダイトもネフライトも硬さの条件から外れてしまうので、厳密には宝石ではありません。が、宝石業界では、
- 希少で高価な鉱物を「貴石(キセキ)Precious stone」
- 貴石じゃない宝飾品の石を「半貴石(ハンキセキ)Semi-precious stone」
と呼び分ける習わしがあり、
- ジェダイトは貴石
- ネフライトは半貴石
として扱われています。
宝石の硬さに満たないのに、貴石に入れてもらっているのは、見た目の美しさが評価されたジェダイトとオパールなどわずかです。誕生石にもなっているアメジストやムーンストーンなどは、やはり硬さの条件が満たないので半貴石です。日本のヒスイはとても高く評価されていることが分かります。
まあ、一般的に宝石というと、貴石も半貴石も両方を網羅していますから、堂々と宝石扱いしても差し支えない場合がほとんどですが。
ヒスイの加工品は、日本発の宝石
日本最古のパワーストーン
洋の東西を問わず、美しい石には、何かスピリチュアルなパワーが宿っていると、人類は古代から考えてきました。貴石も半貴石も、多くが
「パワーストーン」
として、昔から、呪術のアイテムや御守として特別視されてきました。
花言葉ならぬ“石言葉”を持つ石もたくさんあります。
ヒスイを最初に御守や宝飾品として、長じて権力者のステイタスとして身に着ける形に加工したのは、日本人だったといわれています。縄文時代の遺跡から、多くの
「勾玉(マガタマ)」
「翡翠大珠(ヒスイタイシュ)」
などのヒスイ加工品が出土しています。
翡翠大珠とは、楕円形に穴があいたやつです。
これらは、世界最古のカット&磨き加工した宝石のひとつです。
勾玉や大珠の独特のデザインは、いわば古代のブリリアントカットですね。
勾玉の洗練された形は、後に大陸に伝わり、中世の中国の宝石加工にも多く取り入れられました。やがてシルクロードを通り、ジェダイトやネフライトやサンゴの勾玉が、東洋の神秘と共にヨーロッパにも伝わっていったのです。
魔法の石ヒスイ
ヒスイ(ジェダイト)は、アメリカ大陸では、ネイティブアメリカンによって、様々な彫刻を施され、「聖なる護符」としてあがめられてきました。
日本でも、神事の勾玉として、災いや不運から守ってくれる魔法の力を信じられてきました。
ヒスイの石言葉は、
『よき知らせ』
『忍耐』
『調和』
『飛躍』
『福徳』
『福財』
『幸運』
などがあります。
持つ人に叡智を授け、人徳を与えるともいわれるヒスイをシンボルにした日本人。これからは、5月生まれじゃなくても、石言葉に恥じない民にならないといけませんね。
「翡翠」っていう漢字の特別感がすごいもんね。「ジェダイト」っていう響き、強そう。