料理レシピサイトなどを見ていると、「卵は春が旬」というフレーズが度々出てきます。
2~4月頃と書かれているものが多いようですが、中には5月と10月の春秋が旬と書いてある記事もありました。
養鶏業者さんのページの中には、
平飼い(敷地内を自由に歩き回れる飼い方)
放し飼い(鶏に餌の管理までさせる飼い方)
の鶏が産む有精卵には旬がありますが、
- 温度
- 湿度
- 光
などが完全管理された鶏舎で
ゲージ飼い(籠に閉じ込められたままの飼い方)
される採卵専用の種が一年中産み続けている「無精卵」は、どの季節も均一の品質が保たれています、と謳っている所もあります。
鶏は一年を通して卵を産み続ける
千年前の鶏は一年に一回しか卵を産まなかった
自然の中で生きている鳥は、通常は一年に一回繁殖期が来て、産卵しています。
鶏も人間によって品種改良される前、自然の原種だった時は一年に1回、多くて10個くらいの卵を産んでいました。
今から千年前の平安の頃、既に鶏は家畜として飼育され、卵を食べる習慣がありましたが、当時の卵は「激レア旬の高級食材」だったわけです。
一年に320個の無精卵を産むように改良された現在の鶏
卵はとても栄養価の高い食品であることは、平安時代の人もよく知っていました。
これだけ栄養があって美味しいものが、一年に1回しか食べられないのは残念・・・・
ということで、産卵数の多めの鶏を掛け合わせることを繰り返しながら、よりたくさんの卵を産む種ができるよう、その後長い長い年月をかけて品種改良されていきました。
戦時中までは、農家が「平飼い」や「放し飼い」で鶏を飼っているのが普通でした。
その頃はまだ一年に100個くらいの産卵数でしたが、戦後、立体的に積み上げたケージの中で飼育される形が主流になり、毎日卵を産む品種が作られていったのです。
現在、採卵のために飼育されている鶏は一年間に320個ほどの卵を産むまでになっています。
どうして鳥は無精卵を産んでしまうの?
鶏に限らず、鳥類のメスは繁殖期になると身体の中で卵を作り、「受精しなかった場合は無精卵として産卵する習性」があります。
一羽飼いのメスのインコが卵を産んでしまった経験がある人もいるでしょう。
あれは、言わば「人間が月に一回排卵するのと同じこと」です。
鳥の卵は人間の卵子よりずっと大きいですから、いくつも身体の中に貯めこんではおけません。
また、鳥の多くは空を飛ぶように身体が出来ているため、骨の重量は最低限の軽さを保つようになっています。
卵の殻を作る予定だったカルシウムを、卵が有精卵になるまでは要らない、といって骨に転用するわけにはいかないのです。
どうして毎日産み続けられるの?
自然界では、繁殖期と雛を育てる時季は限られています。
もし、産んだ卵が獣などに食べられてしまった場合は、「急いで体がまた卵を作り、子育てシーズンに間に合うように次の卵を産卵する習性」が、もともと鳥にはあるそうです。
採卵用の鶏は、この習性を利用して、産むそばから人間が卵を持って行ってしまうことで、次々と卵を産むように作り上げられていきました。
320個の無精卵を産む種は、既に産むことに特化しすぎて、人間が卵を取らなくても、その卵を抱くことはなく、毎日産卵し続けます。
チャボなど、平飼いで年間100個くらいの卵を産む種では、卵を抱き始めると自然と次の産卵は抑制されるそうです。
春の卵は何が違うのか
にわとりはじめてとやにつく
季節の暦、七十二候の最後は「鶏始乳」となっています。
“にわとりはじめてとやにつく”
と読みます。
これは、
という意味です。
一年に1回しか産卵期がなかった大昔の自然の鶏は、初春から初夏にかけての間が卵を産み雛にかえすシーズンだったのです。
卵の旬は春、と言われたのは元来の卵のシーズンが春だったことからきています。
一年を通して産卵する鶏の卵に旬はないのか
品種改良が進み、一年中卵を産む種がメインになっている今、既に卵の旬は存在しないような気もします。
が、料理の専門家や養鶏業者の多くが、今もなお「春の卵は美味しい」というアピールをしています。
総じて、この時季の卵は「栄養価が高い」と謳っています。
有精卵が春先に栄養豊かになる理由
有精卵を年間50~100個くらい産む平飼い・放し飼いの種は、季節によって産卵する頻度と量が違います。
冬から春の期間は産卵間隔があき、卵の数が最も減ります。
次の卵を産むまでの時間が長いと、ひとつの卵が母体の中で時間をかけて成熟されるということになります。そのため、栄養価が高くなるのだそうです。
また、放し飼いの鶏は、人間の与えるエサだけでなく、「自然の中の虫や草の芽」なども食べています。
虫が地中から出てきて、草木が芽吹く春には、確かに栄養豊かになりそうです。
無精卵も春が美味しい理由
ゲージ飼いで管理された採卵専用の種が生む無精卵は、冒頭でも書いたように、
と一般的には説明されています。
が、
と説明する生産者もいます。
暑さ寒さの厳しい時季より、温暖で過ごしやすい季節のほうが、「鶏のストレス」が少なく、良い卵ができるそうです。
説明によると、暑くて体力が落ち気味で、水をたくさん飲んでしまう夏は、卵は小さめで水っぽくなります。
寒い冬は、夏程は味が落ちませんが、寒さをしのぐために鶏も自分の身体に栄養を回すことが先になるため、卵に回る栄養はその分減ってしまいます。
しかし、春になって寒さが緩むと、ガッツリ身体に貯め込んだ栄養が一気に卵に流れるので、春の卵の栄養価が上がる、という理屈になるそうです。
寒さを乗り越え、新たな活動開始の季節を彩る卵の黄色
実際の栄養価の違いを示すデータは・・・ない
NHKの情報番組でさえ、「春は卵の旬」と言っており、各々の説を見ていると、本当に春の卵には
“滋養”
がありそうな気がしてきます。
が、実際の成分表などを比較した科学的データが示された「旬」説は、残念ながらいろいろ探しましたが見当たりませんでした。
強いて言えば、夏場の方が冬から春よりも価格が低くなる傾向がありました。
これは、栄養価の違いというより、「需要量の違いによる変動」のようです。
クリスマスやひなまつりなど、冬から春にかけてのイベントには、卵をたくさん使う料理やスイーツの需要が高まりますから。
「滋養がある」とは、数字だけで表わせるものではない
本当のところ、春の卵が特別美味しいかどうかは、よくわかりません。
しかし、かつて江戸っ子が「初もの」を珍重したように、
という縁起物のようなニュアンスを感じる人の心持ちは、理解できる気がします。
始まりの季節の春を彩る、黄色いフワフワの卵料理は、身体にも心にも優しい感じがします。
心踊る芽吹きの季節に身も心もアゲアゲにするパワーは、確かに秘めているかもしれません。
春の卵は美味しいうえに栄養も豊富・・・かもしれないわけだ!
食べ過ぎには注意だよ~。