春が旬の食べ物というと何を思い浮かべますか?
- わらび
- つくし
- 菜の花
- ハマグリ
- ホタルイカ
・・・みんな春らしいですね。
意外と地味ですが、乾物にして半ば保存食となっている海草類にも、実は旬があります。夏は昆布、冬は海苔、そして春はヒジキとワカメの収穫期です。
今回は、そんな春の旬の食材「ヒジキ」の健康効果と危険性のお話です。
ヒジキを食べると長生きする
ヘルシー食材として注目されるヒジキの栄養価
ヒジキには、日本人に不足しがちな栄養素がとても豊富に含まれています。
昔から、「ヒジキを食べると長生きする」と言われ、その健康効果が注目されてきました。
旬の春ではなく、わざわざ「敬老の日」にちなんだ9月15日を「ヒジキの日」と定め、その“長生きパワー”をアピールするキャンペーンも行われています。
貧血、骨粗しょう症、高血圧症、高脂血症・・・などを予防
ヒジキには、鉄分・カルシウムを筆頭に、数多くのミネラルやビタミンが含まれています。
ダイエットを気にして肉や魚を食べない女性の中には、貧血症の人が少なくありません。
ヒジキは脂質を気にせず鉄分を補給できます。
ヒジキのカルシウムは、乳製品よりも吸収されやすいと言われています。
骨粗しょう症が気になってくる年代の人には特に、ヒジキはオススメです。
ヒジキには食物繊維も豊富です。食物繊維は胃腸の働きを整えるだけでなく、高脂血症や大腸がんの予防効果があります。
ヒジキには他にも、カリウム、亜鉛、マグネシウム、ヨウ素、ポリフェノールなど、ホルモン分泌を促し、抗酸化作用や高血圧・がんの予防につながる栄養素がバランスよくたくさん含まれています。
低カロリーで成人病予防に役立つヒジキは、現代人にうってつけの健康食品です。
イギリスでは、ヒジキは発がん性があると勧告されている
ヒジキだけ突出して多い無機ヒ素
そんな、ヘルシーイメージのヒジキでしたが、21世紀になって
という報告が出てきました。
2004年7月、英国食品規格庁は、日本産と韓国産のヒジキを食べないように、英国民に対して勧告を出しました。
香港やニュージーランドもそれに続きました。
海水の中には、微量のヒ素が含まれています。
海洋生物には必ずヒ素化合物が含まれています。
食物連鎖の上にいるものほど含有量は濃縮されていきますが、その過程で有機物と結びついて「有機ヒ素化合物」になります。
これは食べてもほとんど害がありません。一方で、無機ヒ素化合物は、ヒ素中毒になりやすく、また発がん性が指摘されています。
日本政府の見解
昔から、ずっとヒジキを食べ続けてきた日本では、それによって健康被害が出た人がこれまで一人もいません。
日本政府は独自に改めて調査をし、日本人が今まで食べてきたくらいの摂取量ならば、健康になんら問題がないことを発表しました。
余程大量にヒジキばっかり食べるような食生活をしない限り、世界保健機構(WHO)が発表している摂取量の限度に達することはありません。
無機ヒ素は水に溶けだしやすい性質があります。
調査によると乾物のヒジキを水で戻すと総ヒ素量の約45%が水に流れ出してしまうことがわかりました。
さらに、一度お湯で下茹でしてから調理すると、更に30%程を除去できます。
細かい数字も発表されていますが、わかりやすく言うと、戻して下茹でしてから野菜や豆などと一緒に煮含めたヒジキの小鉢なら、一日21個を毎日食べ続ける量が摂取の上限量になるそうです。
毎食小鉢1個ずつなら、全く問題ないと考えられる、というのが現在までの日本の見解です。
リスクとどう向き合っていくのか、が問題
地球にはゼロリスクにはできないモノがたくさんある
無機ヒ素は必須栄養素ではありません。しかし、環境中に広く存在する元素であり、飲料水や食品には必ず微量のヒ素が含まれています。
普段の食生活で、口から摂りいれるヒ素をゼロにすることは難しいですが、できる措置は最大限やって、摂り込む量を減らすようにする、ということが、国際的に合意されています。
こういう物質は他にもたくさんあります。
自然環境の中にはたくさん存在していて、常にある程度身体に摂り込まれている毒物に対しては、ほとんどの生き物は体内でそれを浄化する働きを持っています。
浄化できなかったら、たぶん進化の過程で、とっくに滅んだでしょう。
ヒ素やカドミウム、放射性物質などは、無いに越したことはありませんが、地球上で生きる上ではリスクをゼロにすることは不可能であり、常に体内にある程度は存在しています。
できるだけ摂り込む量を少なくするよう努力することが大事ですが、ゼロにすることに執拗にこだわり、ヒステリックになる必要はありません。
科学はまだすべてを解明したわけではない
近代以降のテクノロジーの発展は、人間の新しい可能性や文明を切り開いてきましたが、自然界にはなかった物質や環境もたくさん作りだしました。
人の身体はできる限りの適応をしてきていますが、次々生まれる環境と健康の関連を解明する科学は完璧に追いついてはいません。
昔は害のないものと考えられていましたが、新たに悪い影響が発見され、接触が制限されるようになった物質は枚挙にいとまがありません。
禁止食品添加物や環境ホルモン、ダイオキシン類などは、短期の実験では問題がわからず、長年体内に蓄積され、健康被害が出るようになって初めて悪影響がわかるようになったものもあります。
また、一方で、長い間健康を害する原因と言われ、摂取を制限するために国をあげて取り組んできた物質が、実は無害に近いものだったとわかるケースもあります。
動脈硬化の原因とされてきたコレステロールが、実は摂取量を気にする必要がないものだったと発表された、ごく最近のニュースは印象的でした。
これらのことは、危険物質のリスクについて、今現在解明されている科学での「安全ライン」は、決して絶対のものとは限らないことを示しています。
また、個人差によって、中には少しの量も危険な人だっています。安全と思われていたことの影に、まだ気づかれていない危険がある可能性はどんなことに対してもゼロではありません。
リスク回避のためには、何事も極端に偏らないこと
絶対の安全も危険もない、その時できる精一杯の判断をするだけ
全てのことにリスクがゼロということはあり得ません。
しかし、ゼロにできないから何もかも避けなければいけないという判断も非現実的です。
ヒジキの無機ヒ素は危険が秘められているかもしれませんが、ヒジキを止めて代わりに同じような栄養が摂れる他のものに切り替えたとしても、その品物が完全に安全かどうかはやはり言い切れません。
ヒジキから摂れる栄養が欠乏した時の影響も完全には解明されていないかもしれません。
リスクを最大限避けようと思ったら、どれかを極端にたくさん摂ったり摂らなかったりすることなく、バランスよく摂取しながら、危険性の高いと分かったものは、できるだけ量を摂らないように気を付けるようにしていくことが、人間がその時その時にできる精一杯の対処ではないでしょうか。
違う選択をする人を罵っても、誰も何もよくはならない
ヒジキを食べることは、日本の長い食文化の中に根付いてきたことであり、貴重な栄養を得やすい食品です。
現在科学的に証明されている安全ラインをきちんと守りさえすれば、食べるメリットのほうが大きいと判断して、健康栄養食として勧める人たちの判断を無知・無責任と非難することは、おふくろの味(アイデンティティ)を否定してしまうことになるかもしれません。
しかし、イギリス人が、ヒジキで摂る栄養素はすべて他の食品から摂ることもできるのなら、あえてヒ素含有量が多いヒジキはやめておこうと考えるのも、危機管理の選択としてはなんら非難されることではありません。
ヒ素は古代から猛毒とされてきた物質です。
水や食品にも含まれることがわかってきたのは科学が進んでからですが、毒の怖さを思うと、例えわずかでも身体に入れたくないと思う人の気持ちは無理ない部分もあります。
双方に双方の考え抜いた思いがあり、リスクを天秤にかけて判断して選択しています。
この先、科学がさらに真実を解明していくにあたり、双方が相手を否定することなく互に尊重しながら、連携協力していくことが大切です。いがみ合って闘っても誰も何も得るものはありません。
放射性物質に過敏な人はヒジキのヒ素も気にしよう
日本では、東電原発事故以降、放射性物質に対する反応が、冷静な科学的根拠を検証する議論ではなく、極端に安全性や危険性を訴える人たちが、互いを誹謗中傷する闘いとなる傾向が見られます。
生きていくために、冷静に現在可能な限りの検証をして、安全ラインを信じて対処していくことは、復興のためには絶対に大切なことです。
一方で、危険性のあるものを避けられる条件が整っている人が避ける選択をすることは尊重されるべきです。
- 科学的な数値を信じて希望を持つことも、
- 感覚や感情の上で耐えられないことも、
どちらも大事にされるべき人の気持ちです。
互に相手を侮蔑しあったり、自分を正当化するためにデマに飛びついたりしていては、やはり何もよくはなりません。
選択することと見方が偏ることは別です。
もし、
- 放射性物質のリスクには執拗にこだわりながら、ヒジキは平気で食べていたと言う人
- 間接喫煙や環境ホルモンやダイオキシンや残留農薬や車の大気汚染や・・・などはあまり気にしていなかったという人
がいるならば、ちょっと判断する範囲が偏っていたことを疑ってみてくださいませ。
ヒジキにかぎらず、過剰摂取が危険なものはたくさんあるよね。それぞれに良いところがあれば、悪いところもある。「本当のこと」なんてまだ何もわかってないのかも!?