健康・医療の豆知識 歯・オーラルケア

酸蝕歯/からだにいいと思ってやっていた習慣が歯を溶かす!

Written by すずき大和

最近の子どもは、親や祖父母が子どもだった時代に比べ、虫歯がとても少ないそうです。小学校や幼児教育の中で、長年にわたり歯磨き教育が行われ、大人の世界でもオーラルケアの意識が高まってきたことの成果でしょうか。

最近は歯ブラシを持ち歩き、職場の昼休みやお茶休憩の後にも歯磨きをする人がとてもたくさんいます。

「虫歯菌は食後3分で活動を始めます」

「食べたらすぐに歯を磨きましょう」

子どもの頃、こんな風に教わった人はたくさんいるのではないでしょうか。

しかし、ここ20年程の間に、歯の健康については、研究や治療法が大きく進み、それまで常識だったやり方が、随分と変わってきました。

虫歯治療のやり方、歯の磨き方など、口内衛生についての様々な知識や奨励されるケア方法の考え方が、時代によって違っています。

中には、親が思い込んでいる「正しい習慣」が、実は子どもの歯をダメにするのを促進しているかもしれない!ということもあるようです。



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虫歯は減っているのに、酸蝕歯の患者がどんどん増えている

歯全部がだんだん溶けていく症状

最近、医療系のネットニュースだけでなく、大手の新聞や一般雑誌でも

「酸蝕歯(さんしょくし)」

という言葉が取り上げられているのを目にする機会が増えました。

これは、虫歯や歯周病に次ぐ歯のトラブルとして、近年世界的に症例が深刻化している症状です。アメリカでは、10~14歳の児童を調査したところ、30%の子どもに酸蝕歯が認められた、というデータも出ています。日本では、成人の6人に1人は症状があると報告されています。

酸蝕歯は、食べ物に含まれる“酸”によって、歯の表面のエナメル質が溶けている状態です。歯が薄くなり、前歯はだんだん欠けたようになります。奥歯はかみ合わせる面の凸凹の溝が深くなるように凹んできます。

表面のつやがなくなり、やがて黄色っぽい象牙質が直接見えるようになると、水やお湯がシミる知覚過敏などもおきます。放っておくと、本当に歯がボロボロになってきます。

参考:初期、かみ合わせ面が凹んできた酸蝕歯

参考:症状が進んだ例

症状が進んだ酸蝕歯

現代の食習慣が歯が溶ける原因を増やしている

酸性の強い物を食べたり飲んだりすると歯は酸に晒されます。しかし、多くの“美味しいもの”は酸性です。人の味覚は中性だと味がなく、アルカリ性が強いと苦く感じます。

甘いもの、油がのったもの、調味料がきいたもの・・・などはまず酸性と思って下さい。人は昔から何かを食べる度に歯のエナメル質を少しずつ失う生活をしてきたのです。

しかし、食べていない時、唾液に包まれながら、歯はまた表面の削れた部分を再生します(再石灰化)。しかし、これはとてもゆっくりと行われるため、酸に晒される頻度のほうがあまりに高くなると、追いつきません。

物質の豊かな社会になると、人々は調味料や油を使った手の込んだ美味しい加工品をたくさん食べるようになります。先進国では普段の水分補給も、かつては水やお茶だったのが、酸性の強い炭酸飲料やスポーツドリンクを頻繁に飲む習慣の人が増えました。

日本では、アルコールも、従来の日本酒やビール、ウイスキーなどより、酎ハイなどのカクテルやワインなどを手軽に飲む人が多くなりましたが、フルーツや甘味のあるものが入ったお酒は穀類の発酵酒よりかなり酸性が強いです。

そして、仕事をしながらでも、チョコなどのスナック菓子をつまんだり、清涼飲料水やコーヒー飲料などのペットボトル等を傍らにいつも置く人が増え、口の中が唾液で覆われる時間がほとんどないくらい、だらだらと何かを食べたり飲んだりする習慣が、現代人には蔓延しています。

からだに良かれと思って、酸性の強いものを習慣化している人

昨今の美容・健康食品の中には、酸性の特に強いものも多いです。クエン酸やビタミンCなどが添加された飲料や、薄めた黒酢などを毎日せっせと飲んでいて、酸蝕歯が進んでしまった例は、前述の画像の出典元サイトでも紹介されています。食後にフルーツを欠かさない人も、直後は酸性の強い状態が保たれています。

歯医者を訪れる深刻な酸蝕歯の人の中には、こういった美容と健康促進効果を謳う食品の摂取習慣の影響と思われる例がたくさんあるそうです。

溶けかかったエナメル質を剥がす歯磨きの仕方

冒頭でも触れた、「歯磨き習慣」の推進が、裏目に出ている場合もあります。

「食後3分で虫歯菌は活動するので、食べたらすぐ歯を磨きましょう」

は、実は間違った認識であったことが今では判明しています。

確かに虫歯菌は、餌となる食べ物カスを与えられると、3分以内に歯垢を作り始めます。が、食べる時に一緒に菌も飲みこんでしまうため、食べた直後は口の中に虫歯菌はほとんどいないのです。

それよりも、食事で酸にたくさん晒された直後の歯の表面は、とてももろくなっており、そこをゴシゴシ歯ブラシで磨くと、エナメル質を剥がし落とすことになってしまいます。

「食べたらすぐ磨く」は×です。

食べた後は、水やお茶を飲み、しばらく唾液で歯を包み込んで表面のもろさが修復されるのを待ってから(30分以上)、磨きましょう。

また、歯周ポケットを磨くためには“かため”の歯ブラシが歯医者さんから奨励されますが、歯の表面は“やわらかめ”の歯ブラシでそっと磨くほうが望ましいです。

歯が溶けないように予防しよう

気を付ければ防げる症状

酸蝕歯を避けるため、水かお茶しか飲まず、ゆで野菜や生野菜にドレッシングもタレもなく塩だけかけて食べる生活を・・・なんてことはできません。

クエン酸や黒酢などの健康効果をフイにするのももったいないです。
ワインや酎ハイ党の人にいきなり「日本酒にしなさい」といっても無理です。

美味しいもの、からだに良いものを摂りながらも、過度に口の中が酸性にならないように気を付けていれば、深刻に歯が溶けることはありません。

  1. 食後はすぐに水でうがいする
  2. 炭酸飲料や清涼飲料水、ジュースなどはなるべくストローで飲む
  3. 口が乾いている時は、酸性の強い飲み物は避ける
  4. 歯磨きは食後30分以上たってから
  5. だらだらずっと食べたり飲んだりし続けない
  6. 唾液が乾きやすい人は、ガムをかむ習慣をつける

など、意識して酸性状態を解消するよう心がけましょう。

文明人の生活についてくる疾病

酸蝕歯は、かつては、メッキ職人など、酸を扱う機会の多い人の職業病として労災認定もされていました。今は、ワインを口にふくむテイスティングをするソムリエの人たちの職業病になっています。

胃酸が逆流しやすい胃カタルの人、拒食症で嘔吐をくり返す人なども、酸蝕歯になる人が多いそうです。

いずれにせよ、これは私たちの普段の生活習慣によって発症が左右される疾病です。身の回りの何気ない習慣が及ぼす影響なんて、つい無意識に見過ごしてしまうものも多いですが、たまにはいろんなことを違う角度から留意してみることも大事そうです。

まさケロンのひとこと

「食べたらすぐ磨く」が習慣になってる人ってけっこう多いよね。食後は歯が弱ってるんだよ〜。

masakeron-sorrow


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。