防災・減災

迷走台風/2016年異例尽くしの台風10号の進路って何なんだ!?

Written by すずき大和

2016年8月19日、八丈島近海で発生した熱帯低気圧が変化して台風10号が生まれました。そして、いつもではありえない軌跡を描きながら、数々の珍現象の記録と大きな被害を残して、日本海に消えていきました。

台風の常識を外れる運命をたどった10号、一方、同時期に発生した9号や11号は、ごく普通のルートで移動しました。3つの台風は接近した位置にいたのに、なぜ10号だけがこんな特殊な進路を取ってしまったのでしょうか?



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生まれた時から変わり者、その名は「ライオンロック」

典型的な台風はどうやって生まれ育つ?

多くの台風は、海面温度が30度を超える熱い南の地方の海の上で生まれます。最初に、水蒸気を大量に含んだ熱い空気が次々と上昇気流を起こし、反時計回りの空気の渦のような「熱帯低気圧」が発生します。

なおも海面温度が高いと、更に上昇気流が生まれ、低気圧はどんどん発達し、やがて「台風」になります。

台風は自分の力では動けません。周囲の環境の影響により生まれる空気の流れに乗って移動します。夏の気圧配置や偏西風の影響により、多くは最初やや西よりに北上してから、日本近辺で東寄りに方向を変える、時計回りのカーブで進みます。

が、時々様々な気象要因によって、珍妙な進路で迷走する台風も発生します。今回の10号は、近年No.1の迷走っぷりを見せた台風でした。

迷走台風「ライオンロック」

ところで、日本の天気予報では、台風は発生順に、1号、2号・・・と呼んでいますが、海外では“名前”で呼ぶ国のほうが多いです。実は、台風にはひとつひとつ名前が正式に付けられているのです。

台風10号の名前は「ライオンロック」といいました。香港の山の名から取った命名です。この台風ライオンは、まるで、ちょっと飲みすぎて酩酊し、やらかしてしまった困ったちゃんのようでした。

日本の近海の海上で台風が生まれるのは、猛暑が厳しい夏を経て、近海の海面温度ですら30度以上になった時です。2016年夏は確かに猛暑でした。

もっと南で発生して、時計回りカーブで北緯30度くらいまで進んできた台風は、その後もその流れに乗って北東方面に進むのが常ですが、ライオンロックは発生してすぐ、通常とは真逆の南西方向に進み始めました。

観測史上初の記録的台風

その後、南西諸島近くまで南下し、そこでしばらく行ったり来たりの停滞状態が続きました。その間、亜熱帯気候の海で新たな上昇気流を吸収し、台風の勢力はどんどん大きく発達していきました。

やがて、“台風の目”が発生するほど発達した10号は、発生5日目、急に目覚めたかのように、180度急旋回して北東に進み始めます。日本近海で発生した台風が、これほどの大きさ(中心気圧940ヘクトパスカル)にまで発達したのは、統計記録上初めてのことでした。

Uターン後は日本列島に沿うように海上を進んできました。が、千葉県の南東沖あたりで、カクっと左へ曲がり、そのまま岩手県の大船渡市付近に上陸しました。「東北から上陸した台風」というのも、1951年に記録を取り始めて以来、初めてのことです。

そのまま青森から日本海に抜けた台風は、東北と北海道に大雨の深刻な被害を出しましたが、発生から11日と3時間後、ようやく海上で消滅しました。この存在期間も、日本付近で生まれた台風としては、46年ぶりにその長寿記録を更新しました。

なぜ10号だけが珍ルートで迷走したのか?

何度も急に方向を変えた不思議な軌跡

10号の発生から消滅まで、短くまとめた動画があります。



まるで意思を持っているかのような、急展開の動きが随所に見られます。

近い場所で続けて発生した11号と、南の海からまっすぐ北上してきた9号の動きも同時進行で見られます。

周囲の風の流れに乗って動くのが台風ならば、

「同時期に同じような場所を通った9号・11号と似たようなルートを通るのではないか?」

と、思います?なぜ、ここまでかけ離れた動きになったのでしょうか?

いつもとは違う気圧配置と同時多発台風

通常、ゆるい時計回りカーブルートになる理由は、日本の南に張り出す高気圧と大陸から吹く偏西風が影響しています。北上する台風は高気圧の縁に沿って西側にカーブし、日本付近で偏西風に押し戻されます。

しかし、今回は、高気圧の位置がいつもより北東で発達し、それを避けて偏西風も日本の北のほうに蛇行しています。そして、その隙間に入るように、大陸から張り出した高気圧が西日本にまでかかっている状況でした。

11号と9号は、うまく2つの高気圧の間のルートに入ることができ、普通に北上しました。動画をもう一度よく見てみると、同じ時期に生まれた10号は、この2つの台風に押しやられて行き場がなくなってしまい、西に進んだことがわかります。

そして、左右の高気圧が強すぎて、勢力の小さかった時は挟まって動けなくなり、停滞したと見られます。大きく発達してようやく動きだすと、偏西風は遠すぎて影響が及ばず、大陸の高気圧に沿って西に急カーブしてしまったのです。


迷走はちょっとのきっかけから

台風にはまだ未解明な部分も多く、進路予測も完璧ではありません。気象条件によってとんでもなく迷走してしまう可能性は、いつでもあるんだな、ということを改めて教えてくれた台風が、ライオンロックでした。

まさケロンのひとこと

台風に意思がなくてよかったよね。あったらとんでもないことになってたと思う。

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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。