「宇宙」を舞台とした近未来SFファンタジーというと、あなたはどんな作品を思い浮かべるでしょう。
漫画、小説、アニメ、映画・・・人間が宇宙で活躍するストーリーは、いつの時代も夢と冒険とロマンに溢れ、子どもはもちろん大人からも愛され支持されてきました。
夜空に輝く星の多くは、光の速さで移動しても、何年も何百年も、何万年も何万年も・・・かかる所にあります。
そんな空の彼方にはどんな世界があるのか、人類はこれまで果てしない想像力で数々のストーリーを作ってきました。
みんなみんな、空想の世界の話ですが、いつか科学が進歩したら、人類はそこまで行ける技術を本当に見つけ出すことができるのでしょうか。
実は、今まさに、夢の扉を開ける技術が現実のものとなるかもしれない、そんな研究開発が、世界の複数の国の科学者や研究組織によって、着々と進められていることをご存知ですか。
月まで4時間でいける宇宙航行推進システム
夢の推進装置の動作実験成功!
2015年7月27日、フロリダで開催されたAIAA(アメリカ航空宇宙工学連盟の推進エネルギーフォーラム)で、ドレスデン工科大学(独)のマーティン・タジマール教授が
「EM Drive」
という宇宙船推進装置の動作実験の成功を発表しました。
EM Driveとは、2000年にイギリス人の航空宇宙エンジニア、ロジャー・ショーヤー氏が提唱したシステムで、その後、2009年に中国の研究チームが動作実験に成功したと発表した技術です。
中国に続きNASAも研究開発を始め、同じ原理で動くエンジンを作って実証実験を行いました。
2014年、科学者のグイド・フェッタ氏とNASAの研究チームは
「カンナエドライブ」
と呼ばれるモデルでの実証に成功しています。
今回のタジマール教授の成功は3例目となります。
この成功は、何万光年の彼方へ人類が到達する技術につながるものといわれています。
電磁駆動で推進するエンジン
EM Driveは、従来のロケット推進システムとは大きく異なり、エネルギーを噴射する力で進むものではありません。
難しい説明は素人になかなか理解できませんが、簡単にいうと、
といわれています。
“マイクロウェーブを反射させることで生まれる推進力を利用して進む”ものだそうです。
これまで、宇宙のような真空空間で起動することは難しいと考えられていた技術でしたが、3回の実験とも、完全真空の中での実証でした。
これが確かであれば、画期的なことです。
「電磁駆動」の原理ですから、電気さえあれば、エネルギー噴射の噴出剤・ロケット燃料が要りません。
電気は太陽光発電を利用する仕組みになっているので、膨大な燃料は必要ありません。
宇宙空間で太陽光線が遮られる日はありませんから、故障しなければ半永久的に加速し続けられます。
光の速さを超えられる技術
これまで、光の速さを超えることは、物理学では数式上は可能な理論とされてきましたが、実際に超高速で移動する物質(タキオン)の存在を検証する方法はまだ見つかっていません。
EM Driveの実験が実証したもうひとつの画期的なことは、ついにこの
「光の速さを超える」
ことに成功した点です。
ドライブ内にレーザー光線を照射し、光の反響を調査した際、一部の光線が“光の速度よりも早く移動”したことがわかりました。
これこそ、「夢の扉を開ける鍵」です。
宇宙の彼方まで人類が行けるようになるには、光の速さを超える乗り物がどうしても必要になります。
もし、EM Driveが宇宙船エンジンとして実用化することが可能になれば、月までは4時間、火星までは70日で到達することができるのだそうです。
SF宇宙ファンタジーの世界が創造した技術が現実になる日
EM Driveは、ワープ航法を可能にするものなのか?
NASAがEM Driveの実験成功を発表した時、多くのメディアが
「NASAがワープ航法を開発している」
と報じました。
「ワープ」とは、宇宙SF作品の中で生まれた言葉です。
太陽系の外へ飛び出して活躍するSF作品が初めて登場したのは、1928年、E.E.スミス作の「宇宙のスカイラーク」という小説でしたが、その時初めて、光よりも早く移動する宇宙航法について「ワープ」という言葉で言及されました。
その後、様々な宇宙SF作品が発表されていきますが、
「ワープ航法」
という言葉と概念はすっかり定着するようになりました。
一般市民の間に広く普及したのは、
日本では「宇宙戦艦ヤマト」
アメリカでは「スタートレック」
という人気TV作品の影響が大きかったといわれます。
具体的な理論や技術の解釈は、作品によってまちまちですが、
“光より早く移動して宇宙の彼方に行くための方法=「ワープ」”
というのは、いまや日本でも世界でも常識的な単語のようです。
日本の「ワープ」の概念
宇宙戦艦ヤマトのワープは、
「空間歪曲型ワープ」
です。
“空間を歪めて離れた2地点を直接つなげてしまう”ことによって光より早く移動します。
これは、言い換えると
という概念であり、必ずしも「超高速で動く」という意味ではない感じです。
ドラえもんの「どこでもドア」の原理も同じようなものですね。
これは日本人の「ワープ」の言葉概念としても共通しているようです。
テレポーテーションのような“瞬間移動”や、“異次元空間への移動”のこともワープと呼ぶ人がいます。
宇宙SFの技術や理論のひな形を作ったスタートレック
スタートレックシリーズは、アメリカのTVの大人気連続ドラマです。
1966年から2005年にかけ、5つのシリーズが製作され、他に劇場版も現在まで12本作られています。
作品によって物語の時代が異なっていますが、概ね22~24世紀の宇宙を舞台に、銀河系を中心とする惑星連邦のさまざまな宇宙人たちが織り成す人間ドラマが描かれます。
50年近くに渡って作られ続けてきたシリーズは、途中でリブート(一度設定をチャラにして改めて新設定で作り直すこと)されることなく、ひとつの時間軸と設定で繋がっています。
時代の前後で起きたことが、前に発表された作品との関係にも影響する話がたくさんあります。
200年の幅があるので、時代によって描かれる技術や倫理の進歩の程度に差がありますが、星系間の歴史や科学的な理論の整合性は、物凄く細かい部分までこだわった作りになっています。
特に科学の整合性は、時にNASAに考証を求めるなど、現在の宇宙開発の技術や理論にたがわない世界観をきちんと踏襲した上で、未来の進歩した形も構築されています。
- ワープ航法
- 転送システム(量子テレポーテーション)
- レプリケーター
- ホロデッキ
- 防御シールド
- 遮蔽装置
- トリコーダー
- ワームホール
- アンドロイド
スタートトレックの中で生み出された、今はまだない多くのテクノロジーの概念は、それぞれに現在の科学の先にある可能性から想像し、創造されています。
非常に説得力のある理論が構築されているものも多く、作品世界内の整合性はほぼ整っています。
あまりによくできている設定なので、トレッキー(熱心なスタートレックファンのこと)による、科学技術解説専門サイト等が、本国でも日本でも複数作られているくらいです。
スタートレックのワープ理論
スタートレック世界のワープ航法は、一種の亜空間(ワープフィールド)を船の周りに発生させて、その中で大きな推進力を得て超高速移動を可能にする技術です。
つまり、異次元空間を通って移動するのではなく、通常空間を超光速で移動するわけです。
別に異次元空間を通って超遠距離を移動できる「ワームホール」という現象も出てきますが、ワープというと、超光速航行を指します。
スタートレックの未来テクノロジー概念が普及している国々の人の認識しているワープは、もっぱらこっちのイメージです。
そのため、EM Driveで電磁波の移動が光の速度を超える実験に成功したことが、
「ワープ航法の実現への第一歩」
だと本気で期待する人がたくさんいるのです。
SF特撮ドラマが導く未来の方向
スタートレックが見せてくれた未来のテクノロジーの多くは、人々にとって
と思われています。
生物も含めた物質を量子レベルに分解し再構築する技術が元になっている「転送装置」や「レプリケーター」はさすがに実現可能とは思っていない人も少なくないですが、超光速を可能にする技術が時間軸も超える(タイムスリップ)を可能にするかもしれないことを理論的には認めている科学者は複数います。
はるか昔の遠い遠い宇宙の話の「スターウォーズ」の「フォース」はフィクションだと疑わない人も、スタートレックの科学理論の説得力には一目置いたりします。
EM Driveエンジンの実現については、3回も実験成功しているにも関わらず、疑問視する声も少なくありません。
超光速の実証はできたものの、その理論の解明がまだできていないからです。
従来ある理論では説明できない部分がたくさん含まれています。
それでも、ワープ航法につながる技術であると信じる人が大勢います。
SF特撮作品が人々の心に植え付けた夢は、思いのほか、大きな力を発揮しているのかもしれません。
ワープ航法なんて空想の世界だ!とか思ってた人がほとんどだと思うんだけど、現実に近づいてきているんだ。宇宙旅行とかしたいな~。