ガラパゴス諸島と聞くと、「イグアナ」や「ペンギン」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、絵はがきの人気が高いのは、どの国の人の間でも「アオアシカツオドリ」が一番だそうです。
水かきの付いた大きくて鮮やかな水色の足を持つ海鳥は、足を大きく上げてゆっくり行進するような求愛ダンスも有名です。ゆったりした動きととぼけたような表情は、実にユーモラスで、見ているだけで癒しを感じます。
この、なんとも愛らしい鳥は、実は近年急激にその数を減らしています。
イワシが食べられないと、子どもが生まれなくなる?
参考:アオアシカツオドリの求愛ダンス
激減の要因は繁殖の成功率の低下
2014年4月にカナダの学術誌に発表された研究結果によると、1960年には約2万羽いたといわれるアオアシカツオドリが、2012年には6400羽にまで減少していました。
アオアシカツオドリの英語名は、「ブルーフーテッド・ブービー(Blue-footed Boody)」といいます。ブービーというのは、スペイン語の「ボボ」(=まぬけの意)からきた言葉だそうで、ゆったりのんびりしたユーモラスなおとぼけっぷりは、なるほどオマヌケ感たっぷりです。
が、おっとりした生態ゆえ、生存競争で生き残れずに減りつつあるのか、というと、そういうわけではありません。ガラパゴスには、アオアシカツオドリの天敵のハクトウワシはいません。
アオアシカツオドリは普通に繁殖しても、1年に1羽か2羽しかヒナを育てませんが、2011年から2013年までの期間は、つがいの間にヒナが生まれた例がほとんど見られなかったそうです。繁殖活動の減少は、少なくとも1998年から見られ、今ガラパゴスのアオアシカツオドリの世界は“超少子高齢化進行中個体数減少社会”なのです。
繁殖の成功例はいわし100%の食生活が大事
アオアシオツオドリの足だけがこんなに鮮やかな理由は、餌の小魚に含まれる「カロテノイド」という青い色素が足に集められるためだそうです。アオアシの“青”は“青魚の青”というわけです。ちなみに、まだ餌を食べ始めていないヒナの足は真っ白です。
アオアシカツオドリの繁殖の成功のカギも、実は餌の青魚に関係があります。過去の調査では、繁殖に成功したつがいは、ほぼ「いわし」のみを餌としていたことがわかっています。
近年、ガラパゴス諸島周辺では、いわしが激減しており、2014年の調査で繁殖しなかったつがいでは、餌の中のいわしが占める割合は、半分以下となっていました。
いわしの激減の原因は、海流の上流にあたるペルー北部での乱獲と考えられています。
今後のガラパゴス諸島の生態系全体の動向はいかに
アオアシカツオドリが減ることの影響
ガラパゴス諸島の環境保護当局では、現在この地域のアオアシカツオドリが絶滅しないよう、保護対策を始めています。
しかし、ことは、アオアシカツオドリのことだけでは収まらないかもしれません。ガラパゴスには、いわしを餌としている生き物は他にも多くいます。いわしの減少は、もっといろいろなところに影響を及ぼしていることが十分考えられます。
また、アオアシカツオドリの減少によって、ドミノ式に影響が及ぼされる部分もあるでしょう。成鳥を食べる天敵はいませんが、諸島固有種の鷹ガラパゴスノスリは、アオアシカツオドリのヒナを好んで狙います。そのヒナが激減していますから、ガラパゴスノスリも餌不足になるか、または、今までそれほど狙われていなかった他の種が食べられるようになっているはずです。
子育て行動をあまりしなくなったアオアシカツオドリは、以前より内陸で過ごす時間が減り、沿岸の岩場や崖にいる時間が長くなっています。内陸の土壌の肥やしとなっていた糞も減っていることでしょう。それが今後どう影響してくるのかの研究はまだ進んでいません。
今後の見通し
ガラパゴス全体の生態系の変動について、すべての部分の調査・分析はまだまだ十分ではありません。アオアシカツオドリの個体数減少の原因も、いわしの減少だけとはいい切れないという説もあり、今後の更なる研究が早急に必要です。
いわしに限らず、海洋資源の乱獲の問題は、一国での取り組みや国連機関の活動だけで解決しうるものではなく、ガラパゴスの生態系への影響が今後どうなっていくのか、まだ何ともわかりません。
観光客の人気No1アオアシカツオドリの愛くるしい姿を、これからもずっと見ることができますように。独自の進化をした特殊な生き物たちが数多く見られるガラパゴスの貴重な自然が、今後も豊かに守られていくことを願います。
アオアシカツオドリ、綺麗な青色の足してるな〜。