住まい・暮らし 生き物

ヤギ・ヒツジと共存する都市/エコと癒しを提供してくれる仲間

Written by すずき大和

北海道の「小樽水族館」で夏の間働く予定の「期間契約社員」について、水族館を訪れるお客さんや、地域の人たちの間でのとても心温かくなる評判が、ネットで話題になっていました。

2016年4月28日付けで赴任した彼らの働く現場には、水族館が彼らに伝えた「労働条件通知書」が、立て看板として掲示されています。ネットの評判では、

“それはそれは、あまりにホワイトな職場”であるようです。



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水族館に○○○ なぜ?

GWに訪れたお客さんのツイート

それは、こどもの日にツイッターに投稿された、地元観光客のつぶやきが発端でした。

 

すでに、一週間で5万件弱のリツイートとなった人気ツイートです。

好待遇(!?)のヒツジを羨んだり、小樽水族館の“粋な計らい”を称えるコメントが全国から寄せられ、地元民の書き込みからは、実際2匹のヒツジたちが来館者と地域住民からとても愛されている様子が伝わってきます。

粋なセンス!のおたる水族館

小樽水族館は、これまで、

  • 魚の「美味しい食べ方」を書いた解説版を設置
  • 調教師のいうことを全然聞かない「自由すぎるペンギン」のだれだれショー
  • 海に向かって「トドショー新・メンバー募集!」の看板を立てたら、本当に野生のトドが柵を乗り越えてやってきてしまった!

・・・などなど、そのユニークな取り組みが何度も話題になってきた、今や旭川動物園と並ぶ北海道のホットパークのひとつです。

ヒツジの活用については、「水族館にヒツジ なぜ?」という手書きの立て看板で解説されています。

“おたる水族館は、地球のためにCO2排出を少なくするにはどうしたらよいか考えました。なるべく化石燃料を使わずにすむように、草刈機のかわりにヒツジに草をたべてもらうことにしました。これからも自然の中にある水族館として、自然のこと、エコのことを考えて行動していきたいと思います。”

実は、ヒツジの夏季期間契約社員の雇い入れ(笑)は、地元の人たちにはすっかり毎年お馴染みの恒例行事だったのです。


ヤギによる除草作戦が地域に残したもの

町田山崎団地での取組み

草食動物を活用して、雑草処理をする取組みは、実は最近あちこちの自治体等で取り入れられています。2014年に都市再生機構(UR)が東京町田の団地で行った、ヤギ4頭を使った実証実験は、関東では大手の新聞などでも取り上げられ、随分と話題になっていました。

エコ目的で導入した実験でした。2か月間で約5000平方メートルの雑草をほぼ食べつくしたヤギたちは、無事役目を終えてレンタル業者の元に戻ることになりました。が、

「もっといて、さびしい」

という張り紙がされるなど、地域住民から退役を惜しむ声が相次ぎ、最後には「お別れ会」のイベントまで開催されるほどの人気者となっていました。

人々の心を和ませる癒しの存在

団地周辺の緑地や広場の中の、住区とは一応柵で仕切らたエリアでの放し飼いではありましたが、導入前は、糞害などを心配する声もありました。しかし、実際に「ヤギとの共存」が始まると、自然の中で草をのんびりと食むヤギたちの様子を微笑ましく眺める住民が、日に日に増えていきました。

やがて、幼稚園児たちがヤギに草をあげたりする交流も行われるようになりました。

雑草がだんだん食べ尽くされてくると「もっと草がある場所に移してあげて」などという声が自治会に寄せられるようにもなりました。

気付くと、ヤギたちは「除草」という任務だけでなく、

  • 地域の人たちの心を癒す
  • 住民同士の親睦を深める話題を提供する

という、町づくりの重要な役割も負ってくれていました。これは、URや自治会にとって“予想外の効果”でした。

人を幸せにする自然との付き合い方を広げよう

他にも、首都圏近郊の住宅地だけでも、荒川上流河川敷の埼玉県東松山市や、東京都狛江市の多摩川河川敷など、多くの取り組み例が見られます。いずれの地域でも、ダニ・ノミ対策などのメンテナンス費用を入れても、人の手で除草するよりずっと経費削減で高い効果を上げています。そして、地域住民と心温まる交流が行われました。

都市の市街地で珍しいペットを飼う人が、うっかりまたは故意に逃がして環境や人の生活に迷惑をかけるケースが問題になる話は、昨今少なくありません。都市で営業する家畜産業も、臭いや鳴き声のクレームから減少しています。人間と動物は、もはや市街地で共存することは不可能であるかのような状況です。

が、住宅密集地に隣接する緑地で、こんな風に草食動物と共存する暮らしは、人にも町にも地球にも、そして動物たちにも、やり方次第でハッピーな関係を築くことができることを教えてくれます。

これは、世界の都市でも評価されているひとつのカルチャーとなっており、アメリカでは、すでに除草用のヤギのレンタルビジネス化も進んでいます。

ヤギさんヒツジさんを町ぐるみで飼うような、そんなユルい自然との暮らしがどこの都市でも進んでいくと、ブラックに近いグレーな働き方から抜け出せない日本人の人生観も、ちょっとは変わってくるかもしれません。

まさケロンのひとこと

曖昧で大雑把でユルくいることも時には大事なことだと思うんだよね〜。

masakeron-love


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筆者情報

すずき大和

調べもの大好き、文章書くことも人に説明することも好きなので、どんな仕事についても、気付くと情報のコーディネイトをする立場の仕事が回ってきました。好奇心とおせっかい心と、元来の細かい所が気になると追求してしまう性格をフルに発揮して、いろいろなジャンルのコラムを書いています。